俺の友達 3話 sid~瘡蓋だらけの竜磨~


 


「カハッ!?・・・・・・・・・・・ぁウッ!!」

「大丈夫ですよ!落ち着いてくださいね」


 傷―――どころではないな。これは、かなり持っていかれた。意識の外側で医師の言葉を聞きながら、俺はそう判断した。

 先輩達からの攻撃に対して、俺と誠也がとった行動はたった1つだった。


――何1つとして反撃しない。


 どれだけ殴られても、どれだけ蹴られても、意識の限りを尽くして起き上がった。勿論、数回ほど吹き飛びかけた俺の意識だが、その度に耳に響く誠也の殴れる音に、俺の脳は浸透されるように研ぎ澄まされていった。


 この意識を手放したら、絶対に楽になれる。だろう。そんなのは嫌だ。

 あの時踏み出した一歩は、確かに俺の中で何かを変えた気がしたのだ。


「退いてください!!緊急治療室に運びます!」

「酷い状態だな」

「あばら骨が数本と・・・腕と足も折れてるな」


 内容は、ぼんやりとだけ聞こえてきている。靄がかかったような視界の中に、一定間隔で照明が映ってきていた。


(そうか・・・・・・・・・・危ない状態、か)


 不思議と、焦りは無い。鎮静剤は勿論打たれている・・・・・・・・かもしれないが、そがなくとも恐れは無かった。

 大丈夫だ、と。


 確証は無いその安心感に支えられて、俺の意識は別の場所へと移った。誠也のことだ。


(いつも、あんなに興味無さそうなのにな・・・・・・)


 どうせ、俺がこの後で何かを言っても「偶然ですよ」なんて言うだろう。それは俺じゃなくても分かることで、もう既にその未来が見える。

 けど、だからってお礼を言わないのは筋違いだ。何よりも――


――俺もアイツを避けていたうちの1人だ。


 全部、今まで俺がしてきた誠也への行いの償いをしようと思う。変な気分だ、と自分でも思った。

 まるで俺が俺じゃないみたいに、世界が鮮やかに見えるのだから。


 こんな死に掛けの状態で、何を言ってるんだこの馬鹿野郎。


 一瞬そう聞こえた気がして、思わず安堵が出てきた。どうやら俺の中に居るは随分と元気なようだ。


「麻酔を打ちます。それじゃあ、おやすみなさい」


 口に酸素を送るマスクを宛がわれ、そこから麻酔ガスが放たれてきた。途端に襲い掛かる睡魔に抵抗しようともせずに、俺は意識をそれに委ねた。

 けれど、健全な心の何処かで思ったりもした。


(麻酔ガスに対して息止めたらどうなるんだろ・・・・・・・・・・)


 実際にやったら事故でも起きそうだったので、恐怖からやらなかったが。本当に俺の理性が働いてくれて助かった。

 急速に解けていく意識の中でそんなことをして―――



――俺は眠りについた。





 * * * * * * * * * * * * * *





 これは、後から聞いた話だ。

 俺よりも1人少ない、2人を相手にしていた誠也の体は驚くほどに脆く、骨折箇所は異常な量見れたそうだ。


 俺よりも迅速な緊急集中治療が行われたが、2週間経った今でもまだ病院で麻酔を打たれたままだという。

 着実に回復へ向かってはいるものの、麻酔無しだと襲い来る痛みに精神が狂う危険性があるとか。


 結局俺には何の知識も無いのだから詳しいことは分からないが、次に会えるのは早くても来月の終わりの時期らしい。

 ならば、俺に出来ることは1つだけ。


 

――誠也が学校に来るまでに、俺はもっと力をつける必要がある。



 それを気付かせてくれたのは、紛れもない誠也だ。医師に身体的な力はほとんど無いと言われた誠也は、医師に強靭な体と言われた俺よりも

 もう一度、俺の前で誰かが悲鳴を挙げていたときに、そこに飛び込んでいける力が欲しい。


 だからこそ、俺は強くなろうと思う。




 先輩方は、無事に少年院へと送られらたようだった。後輩への過度な暴力と脅迫、近隣住民にまで被害は及んでいたらしい。また、学校の見聞としても必要な処置として、というのも理由の1つだそうだ。


 これが、俺と誠也の出会い。

 それから、俺は誠也に話しかけるようになった。そうなってみて、初めて気付いた誠也の一面は多くある。


 まだ1年の関係だが、それでも誠也について多く知っている。


 例えば、誠也の家族について、とか。





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 竜磨はホモという訳ではありません。素直に尊敬する相手が、誠也だった、という話です。

 また、本編で誠也の名前が出て来ないのは若干意図的なものです。基本キミとボクの関係であり、名前呼びすることは少ないと思われます。

 名前呼びする時こそ、何かある!的な使い方を目指しています。

 

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