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「何?もう一回言って?」


 聖子が、顔を上げた。


「だから…あたしと聖子は従姉妹になるんだな…と思って」


 五月。

 あたしは、父さんと話し合って、メンバーに事情を説明することにした。

 …高原さんが少しでも、楽になれるように。



「実は…あたしの生みの母が生きてて…このたび、桐生院に戻って来ました…」


 ルームでそう告白すると、みんなは目を丸くして。


「えっ!?」


 声を揃えて驚いた後…


「わー…何だかすごい話じゃない?」


「桐生院家、波乱万丈だな(笑)」


「知花、良かったね」


 それぞれが、笑顔になってくれた。




「どうして従姉妹よ」


 椅子に座ってベースを磨いてた聖子が、首を傾げる。

 ストレートに…父親は誰かを言えばいいのかもしれないけど。

 …何となく…謎かけみたいに言ってしまった。


「え。」


 聖子が首を傾げてる隣で、陸ちゃんがパチパチと瞬きをしてあたしを見る。


「おまえ、もしかして…おふくろさんの面倒見てくれてた人って…」


「……」


「何それ」


 小さく頷くあたしを見て、聖子が目を細めて陸ちゃんに突っかかった。


「おふくろさんの面倒見てくれてた人って何。なんで陸ちゃんが知ってんの」


「ああああ、突っかかんなよ。たまたま知花が悩んでた時に、俺が話を聞いただけだって」


「うわー、よりによって陸ちゃん?」


「俺以外じゃ知花の背中を押せなかったな」


「…軽くムカつく…」


「おまえ、足りない頭で考えみろ。おふくろさんの面倒を見てくれてた人は、知花の実の父親だ」


「えっ」


 陸ちゃんの説明に、聖子だけじゃなく…みんなも声を上げた。

 そして、すぐに納得したようだったのは…光史だった。


「なるほどね…。聖子、従姉妹ってのはどういう関係図だ?」


「…親の兄弟の子。母さんは一人っ子だから、父さんの…兄弟…」


 聖子は、空を見つめながらつぶやいて。


「……」


 一瞬の、静寂のあと。


「伯父貴……」


 あたしに視線を合わせた。


「う…うん…」


「あたし、伯父貴は二人いるんだけど…」


「……」


「…陽路史の方?夏希の方?」


「…後の方…」


「……」


「……」


 聖子は少しの沈黙の後…


「伯父貴が知花の父親――――!?」


 目を見開いて叫んだ。


「声がでけーよ」


 陸ちゃんがポコンと聖子の頭を叩いたけど、陸ちゃんの隣ではセンが、そのまた隣ではまこちゃんも…目と口を大きく開けて驚いてる。


「何!?どうして!?どういうこと――!?」


 聖子はベースを置いて立ち上がると、あたしの肩を激しく揺さぶりながら叫んだ。


「ああああっ…まっ待って、話すから…」


「おーい、聖子。力入れすぎ」


 光史が聖子の手を外して、どうどう…なんて言いながら、聖子を座らせる。

 その様子がおかしくて、みんなが笑顔になった。

 …聖子は少し、唇尖らせてるけど。



「…昔、母さんは高原さんとアメリカで暮らしてたの」


 あたしは、みんなが落ち着いたのを見届けて…話し始める。


 ずっと…謎というより、闇だった自分の生い立ち。

 それを、あたしは一気に知る事になった。

 おばあちゃまから、父さんから、そして…母さんから。

 全部じゃないとしても、今…母さんがうちで笑ってくれているのが、あたしにはすごく大きなこと。


「母さんはシンガーで、その歌ってる母さんに一目惚れしたのが父さんで」


 本当に…すべてはタイミング…と思わされた。

 あたしが今ここにいるのは…高原さんと…母さんと父さんの、色んなタイミングの結果だ。


「何らかの理由で高原さんの所を飛び出してしまった母さんに、プロポーズしたのが…父さん。母さんは一途な父さんに魅かれて結婚したの。でも、その時、お腹にはあたしがいて…それでもいいって、父さんは母さんを受け入れた」


 みんなは、黙って話しを聞いてくれてる。


「だけど、父さんにもおばあちゃまにも、母さんは寂しそうに見えてしまって…それで、結婚したことを後悔してしまったって。あたしが生まれてすぐ、死産だった。出て行けって…父さんは、母さんを追い出してしまったの」


「おふくろさんから見りゃ、とんだ迷惑だな」


「ほんとね。だから、帰って来た時、一番に父さんに文句言ってた」


「あはは。長年の恨み」


 聖子も少し笑顔になった。

 それを見て…あたしもホッとする。



「行き場を失った母さんは、すぐにアメリカに渡ったんだけど…自ら家を飛び出したわけだし、当然高原さんに会うなんて出来なくて、一人で静かに生活してた。でも…やっぱり何かが引き寄せちゃうのかな…高原さんが母さんを見付けて、また一緒に暮らし始めたの」


 …なぜ、と。

 あたしでさえ思ってしまった。

 なぜ、幸せを掴む寸前で…二人は運命に翻弄されてしまうのだろう。


「幸せに…なれるはずだったのに…」


「……」


「母さん、事故に遭って寝た切りになってしまって…」


「え…」


 みんなの表情に影が落ちる。

 そうだよね…

 聞いてる方も、ガッカリしちゃうよね。

 …高原さんには、幸せでいて欲しいって…みんな思うはずだもん。



「そんな母さんを、ずっと…守ってくれてたのが高原さん」


「……」


「…高原さん…ずっと、母さんの事…」


 口にして…胸に痛みが走った。

 高原さんは…ずっと母さんを大事にしてくれてきた。

 …なのにあたしは…

 高原さんから、母さんを奪った。

 愛する女性を…奪ったんだ…



「……」


 無言になったあたしに、みんなは何かを察したのか。


「…そろそろスタジオの時間だな」


 光史が時計を見て立ち上がった。


「知花、今度お母さん紹介してくれよ?」


 陸ちゃんも立ち上がって…あたしの頭をポンポンとしながら言う。


「…うん」


「俺達先に行くから、知花と聖子は少し話してから来いよ」


「え?」


 光史の言葉にキョトンとすると。


「わーお。気を利かしてくれてありがと♡二人きりになりたいなーって思ってたのよ♡」


 聖子はそう言って、あたしをギュッと抱きしめた。


「知花、危険を感じたら大声を出して…」


「セ―ン―」


「聖子の弱点は耳だよ」


「まこちゃん!!あんたなんで知ってんの!!」


 あたしを抱きしめたまま男性陣に手を振った聖子は。


「知花…伯父貴、このこと知ってるの?」


 あたしから離れて、椅子に座った。


「…ん。この前話した」


「どうだった?」


「愛してるよって…」


「どう思った?」


「…嬉しかった」


「ね。」


「?」


 聖子は足を組んで前のめりになると。


「あんたも、同じことしてるんだよ?」


 いつになく…厳しい表情であたしに言った。


「…え?」


「神さんに、伯父貴と同じ想いをさせることになるんだよ?」


「……」


 あたしは、無言で聖子を見つめる。


「このままでいいの?子供たちも、どんどん大きくなるし。本当に、このままじゃお母さんと同じ運命じゃない。子供たちにも、知花と同じ想いをさせるんだよ?」


 思わず、うつむいてしまった。

 あたしは今回のことで、本当に親子の絆について考えさせられてしまった。

 だけど…


「まだ…少し時間が必要なの…」


 あたしがそう言うと、聖子はもう一度あたしを抱きしめて。


「あたし、あんたには絶対幸せになってほしいから…」


 って、つぶやいた。


「聖子…」


「従姉妹だなんて、夢にも想わなかった…」


 あたしは、聖子の背中に手を回して。


「聖子、ありがとう」


 強く、抱きしめる。


「…知花?」


「あたし、聖子に出会ったのは、きっと運命だって思う」


「……」


「あたし、心配と迷惑かけてばかりだけど、本当に…聖子のこと大切に想ってるからね」


 あたしがそう言うと。


「……」


「…聖子?」


 聖子は、あたしの肩に頭をのせて…


「…ありがと」


 涙声で、そう言った。

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