第31話

 写真が貼り出されてから三日、泰葉がやったという確証も見つからないまま、会話にもあがらなくなっていた。まあ、ラブホの前を歩いているだけの写真だったし、ラブホともわかりづらいものだったから、みな問題にしなかった。


「ねえねえ、あれ、泰葉のお母さんじゃない? 」


 昼休み、梨香の教室に遊びに来ていたとき、窓から校庭を見ていた聡美が言った。和希も校庭に目をやる。

 身体にぴったりした黄色いスーツを着て、茶髪巻き髪の派手めなおばさんが、後ろに禿げたおじさんを引き連れて颯爽と歩いていた。言われてみれば、泰葉に似ているかもしれない。


「また、文句つけにきたのかな?」

「文句? 」


 梨香が首を傾げる。


「あのおばさん、昔からクレーマーで有名なんだよ。小学校の担任なんて、それで病気になって辞めちゃった先生もいるくらい。下手にPTAの役員とかやってるから、発言力は強いしね」

「そうそう、泰葉が悪さして怪我した子がいたときも、逆ギレして、うちの子供は悪くない、相手が悪いことしたから……みたいなこと言って謝らなかったり。とにかくめんどくさいおばさんだよ」


 二人はコワコワと首をすくめる。確かに中学のときも、先生達は泰葉の母親には当たらず障らず、あまり関わらないようにしていた感じはあった。

 それから十分もしないうちに、職員室でおばさんががなっているという情報が流れてきた。


「やってるねえ」

「やってるやってる」


 それからすぐに、泰葉の母親が何にクレームをつけているかの内容まで伝わってくる。

 どうやら、愛実と俊の写真について、不純異性交遊を放置とはどういうことか、健全な生徒に悪影響だ、処分を求める……ということらしい。

 しかも、後ろに歩いていた禿げたおじさんはPTA会長だったらしく、会長を引き連れてのクレームだった。


「私、ちょっと見てくる」


 愛実は、いてもたってもいられなくなり、一人で職員室へ向かった。

 職員室の前には人だかりができていた。

「ちょっとごめん……」


 愛実は、間をすり抜けて前の方へ行った。

 キンキンとした怒鳴り声がよく響いてくる。


わたくしが言っているのは、そんな淫らな生徒が真面目な生徒に悪影響を与えるんじゃないか? ということと、それを許す学校側の態度に問題はないですか? という二点ですわ。なんの処分もなければ、他の生徒にしたら、そういうことをしても良いんだ、処罰されないんだと思ってしまうでしょう。そのことを心配しているんです」

「いや、沢井さん。淫らな……とおっしゃいますが、こちらといたしましてはきちんと調査をした結果、誤解であると……」

「まあ、先生達は甘過ぎますわ。そんな行為をするような子は、嘘だってつくでしょうし、誤魔化すことにも長けていると思いますわよ」


 全く見ず知らずの子供を、嘘つき呼ばわりしてるよ。

 しかも淫らって、あんたの子供はシャツのボタン外して男にせまるような、ビッチですけど……。


 愛実は、ムカムカしてきて、心の中で悪態をつく。

 さらに泰葉母の思い込みによるクレームが続く。

 よっぽど出ていって対抗してやろうか! と、職員室のドアに手をかけたとき、後ろから肩を叩かれた。

 振り向くと、険しい顔をした俊が立っていた。


「俺が行くよ」


 俊は、職員室のドアをノックすると、失礼しますと言って開け、愛実も後に続いた。

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