第19話

オーナーの別荘に着く頃には、愛実はグッタリとしてしまっていた。


 疲れた……。

 暑さで……ではなく、なんか違う種類の汗が出た気がする。


 愛実は、車から降りると、やっと自由になった左手を前に出し、うーんと伸びをする。

 俊は、自分の荷物と愛実の荷物を持ち、愛実の横にきた。


「疲れた? 」

「いや、気疲れ……。ありがとう、荷物」

「運ぶよ」

「軽いから大丈夫よ。一泊分だし」

「うん。軽いから大丈夫。二人分でも軽いからね」


 俊は、軽々と二人分の荷物を片手で持つと、反対の手で愛実の手を握った。


 やっぱり……、つなぐんですね。

 そのうち慣れるのかな?


 汗ばんでて恥ずかしいとか、そういうのはもうどっかにいっちゃってる気がした。でも、たまに俊が手に力を入れたりすると、ドキドキが激しくなったりする。

 ただ手をつないでいるだけなのに、なんかHなことをされているような、変な気分になる。

 その度に、彼女のフリしてるだけだ! 彼女のフリだからこういうつなぎ方をするだけだ! と自分に言い聞かせていた。


「部屋わりだけど、女子は三人同室ね。男子は二人づつ同室。店長と長野さん、矢島君と楓君、俊君と譲君でいいかな? 店長、長野さん、矢島君と私でBBQのセットするから、荷物を部屋まで運んでもらえる? 後はBBQまでプールででも遊んでて」


 車から荷物を下ろさせながら、亮子がテキパキと指示をだした。


「エーッ、俺も遊びたいっす! 」


 矢島がブーッと膨れる。


「矢島君は、去年も参加してるでしょ。あなたは一番バイト歴も長いし、ほぼ社員扱いよ。それにほら、火を起こしたりするの、矢島君が一番うまかったじゃない? 去年、助かったもの」

「しょうがないなあ。火起こしだけっすよ。でも、去年参加なら譲もですよ」

「細かいことは気にしない。頼みにしてるわ」


 矢島は、ご機嫌になりBBQの荷物を運びだす。


「さすが亮子さんよね。矢島君の扱いに慣れてる」


 静香が荷物を持ってきて言う。


「これ、亮子さんの荷物ね。ついでにあたしのもよろしく」


 静香の荷物は、何が入っているんだ? ってくらい大きい。


「一泊……ですよね? 」

「当たり前でしょ。女子は荷物が多いのよ」


 俊は片方に自分のと愛実のと亮子の荷物を持ち、もう片方に静香の荷物を持つ。それでもバランスが取れていないような……。

 楓が矢島の荷物を持ち、譲が店長と長野の荷物を持ち、別荘の中に入る。鍵は楓が亮子から預かっていた。


「すっごいわねぇ……」


 梨香の家よりもさらに大きい玄関を開けると、バーカウンターなどもある大きなホールになっていた。


 リビングではなさそうだし、ここの用途はなんだろう?


 愛実は興味津々辺りを見回した。

 正面には二階にあがる階段があり、半二階まで上がると、左右に別れて東側と西側につながっていた。

 今回は東側のみ使うことになっている。東側の一階にキッチンとダイニング、客室が一部屋、トイレとお風呂があり、二階に客室が三部屋、トイレとお風呂があった。

 これで半分だから、いったいどれだけ広いのか。

 とりあえず一階の東側を探検した五人は、一階の客室に店長と長野の荷物を置いた。


「一階の客室は二人用みたいだから、店長と長野さんかな? 」


 譲は身軽になったため、俊から静香の荷物を受け取る。

 二階にあがると、一番奥の部屋が広く、唯一の和室になっていたため、ここを女子部屋にした。手前二部屋はベッドが二つづつある洋間になっていた。

 各自部屋に入り、プールの用意をしたら裏庭にあるプールに集合することにする。

 和室に静香と入ると、さっそく静香は荷ほどきを開始する。


「静香さん、洋服何着持ってきてるんです? 」

「これはBBQのとき、これは夜、これは寝間着、これは朝、これは帰り用。あと予備の服が数着。もちろん靴も全部違うわよ。で、水着が五つ。あ、そうだ。めぐちゃんにプレゼント。たぶんサイズ合うはずよ」


 静香は愛実に紙袋を投げてよこした。


「ありがとうございます。なんですか、これ……」


 紙袋を開けると、セクシーな下着のセットが二つ入っていた。


「可愛いでしょ? あまり攻め攻めもなんだから、純真な白と可憐なピンクにしてみました」


 確かに、色は言っている通りだが、形は純真可憐とは程遠いような……。

 しかも、サイズもなんか大きい気がする。


「静香さん、私Bカップですよ。これCじゃないですか? 」

「うんにゃ、つけてごらん。ぴったりのはずだから」


 どうせ水着に着替えるのだからと、静香に背を向けてブラをつけてみた。けれど、やはりカップが余る。


「静香さん、やっぱり大き……、ヒャーッ! 」


 いきなり後ろから手が伸びてきて、ブラの中の愛実の胸を鷲掴みにする。


「ちょっ! 静香さん?! 」

「ほら、下向いて」


 脇の下から、愛実の胸をブラの中に押し込む。


「はい、真っ直ぐ立って」


 脇から下から胸を整える。


「ほら、谷間できた」


 さっきはスカスカだったブラが、今はぴったりでしかも谷間まで!


「凄いです! 」

「めぐちゃんは、ブラの選び方や付け方が間違ってたのよ。ずっと気になってたのよ。パンティだって、今のパンティだとズボンのときにパンティのラインが見えちゃうの。これならラインは響かないから」


 確かに布地はTバックのとこだけで、あとは総レースだから、響かないといえばそうなのかもしれないけど。


「自分でもつけてみ」


 愛実は、自分でも静香がやった

 ようにブラをつけてみた。すると、やはりちゃんとCカップに胸が収まる。


「できるじゃない。次に下着買うときは、静香さんが付き合ったげる。わかった? 」

「はい……」


 静香は、もう愛実の下着からは興味がそがれたのか、自分の水着選びに集中し始めた。

 愛実は、もらった下着をしまうと、自分も水着をだして着替え始める。

 パンティはともかく、ブラは驚きだった。憧れのCカップになれるとは、思ってもいなかったから。


「静香さん、まだ着替えないんですか? 」

「これとこれ、どっちが……。って、なんでスクール水着なのよ?! 」

「違います! 名前ついてないから」


 形は確かにスクール水着に似てるかもしれないけど、紺色のシンプルな水着なだけで、スクール水着ではない。


「まずワンピースって有り得ないでしょ。しかも紺無地って、どっから見てもスクール水着よ! 」


 静香はおでこを押さえると、自分の水着を愛実に押し付けた。


「これもあげる! これに着替えなさい」

「いや、でも……」

「決めたわ! あんたのコーディネートをするわよ。この旅行中は、私が決めた服以外は着たらダメ! 先輩命令よ! 」


 エエッ?!


 愛実は、静香がくれた水着を握りしめ、これを着なくてもよい理由がないか、頭をフル回転させていた。

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