第28話 羊たちは沈黙する

 結局、アンドロイドの噂の真相は判らない。だったら一人ずつ鉛筆の先で刺してみよう、とフュアリが言い張るのをなんとか思い止まらせる。

「専門家に聞いてみたらどうかな」

 そこで未冬の提案で、技術開発部を訪れることになったのである。


「うわ。なにこれ」

 初めての二人はやはり同じような反応を示す。こんな所で、というのが顔に出ている。

「あ、この前の」

 フュアリが指を指す。授業中の教室へ乱入してきた男だ。マリーンは胡散臭そうな表情で周囲のガラクタを眺めている。


「なんじゃ、こいつらも開発部志望なのか」

 タンク教授は呆れたように少女たちを見返している。

「まさか。今日は質問があって来ました」

 以前よりは少し丁寧にエマが言う。

「そうか。なら教えてやろう。わしの今日のパンツはだな」

 ズボンを脱ぎかける教授を後ろからレオナが張り倒した。

「止めなさい、この変態」

 部下に命じて、研究室内に引きずり込ませる。ふう、と息をついて未冬たちの方を振り向いた。

「ごめんね。で、なに、質問って」


 アンドロイドかぁ、そう言うとレオナは黙り込んだ。

「ここで、極秘に造ってるんじゃないかって、疑ってるんです」

 レオナは未冬の方を向いた。

「残念だけど、うちで造ってるのは、あれくらいだよ」

 そう言って指差したのは、実験用の人形。例のプロペラに振り回されたり、天井に突っ込まされた、あの可哀想な人形くんだった。


「ああ……」

 四人に失望が広がる。

「うちはね、空間制御に関する技術は他の都市空母に負けてないと思うけど。ヒューマノイドタイプはねー、需要がないのよ」

 つまり、予算がつかないの。

「世知辛いお話、ありがとうございます」

 四人は揃って頭を下げた。


「どう、せっかくだから見学していかない?」

 ちょうど、護衛艦の一隻が改装中なのだという。

「それって軍事機密じゃないんですか」

 エマの問いにレオナは笑って答えた。

「ううん、全然。元々、他の都市空母から輸入したものだし。世界汎用の型式なのよ」


 技術開発部からさらに下の階層に降りていくと、海水を引き込み港となっているブロックがある。そこにドックが併設され、巡洋艦クラスと思しき一隻が収容されていた。

 全長100メートルほどのそれは、いかにも軍艦といった佇まいだった。前後に砲塔を備え、左右には機銃を並べている。

 ガレオン級の独特なシルエットとは全てにおいて異なっている。

 未冬にはそれが近代的ではあるけれど、繊細過ぎるとも感じられた。

「わたしはガレオンの方が好きだな」

「へぇ。言うじゃない、ガレオン・スレイヤーの癖に」

「そんなんじゃ、ないけどね」


「もう別に誰がアンドロイドでもいいよね」

 帰り道、未冬が言った。

「わたしは、フューちゃんが例え人間じゃなくても友達だと思ってるよ」

「残念ながら人間だよ。わたしはっ」

 いや、幽霊かも。

「もう、いいよ。その話題は」

 エマが苦笑いする。

「そうですよね。友達、なんですよね」

 マリーンが、自分を納得させるように言った。


 やがてアンドロイドについての噂は下火になり、そしていつの間にか消えた。



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