第16話 希望の世界3 戦い

巨大ミミズが3体、追いかけてきている。林の中をちょこまかと手脚を一生懸命に動かしながら思いの外カナヘビは素早く動き、ミミズとの距離を離している。アンナとショウはカナヘビに乗ったケイとえぬのやや後方で走っている。


甲高いミミズの唸り声が耳にさわる。えぬはミミズの鳴き声を初めて聞いた。


「走ってる2人は大丈夫なの?」


「うん、あいつらはそうヤワじゃない。アンナなんてむしろ走るのが得意だしね。戦いやすい場所に出たら、自分たちでなんとかするさ」


巨大ミミズは口から鋭いキバを見せ、だらだらとよだれを垂らしている。ミミズに口があるのをえぬは初めて見た。


やがて林を抜け、月明かりに照らされて広い草原に出た。


「ここまでくれば、あとは大丈夫。暗いとミミズの姿も見にくいからね。2人に任せよう」


そう言って林の終わりからかなり離れたところでケイはカナヘビの足を止めた。ほどなくしてショウとアンナが林から抜け出てきた。


「2人だけ先にいくなよ!」


ショウが叫んでいる。後ろから木々の間を縫って巨大ミミズが現れた。体に纏った粘液が飛び散っている。


「ああ、もうこれほんと嫌。ごめんあたしも先行くね」


アンナのガラスの靴が煌めいた。その瞬間、草が道を作るようにそよめき、煌めきを残しながらその道を通ってアンナはえぬたちの側まで移動していた。一瞬の出来事で目にも留まらぬ速さだった。


「私、走るのは自信あるんだ」


アンナが微笑んだ。


「じゃ、ショウ。あとはよろしく」


「ちょっと、おい、俺1人かよ」


ショウに向かって3体のミミズが迫ってきた。大きな口を開け、あと数メートルのところまで近づいている。


「ああもう、汚いな」


ショウはバットを片手でぐっと握り大きく振りかぶった。


「おおうっ!」


力強く振ったバットはミミズの脳天をとらえた。1匹のミミズが大きな音を立てて崩れ落ちた。


「よし、ホームラン!」とショウは満足気に言った。しかし、そのすぐ背後には2匹のミミズが迫っていた。鋭いキバがショウに近づく。


アンナが地面を蹴った。煌めきが草原を走る。ショウを抱えてアンナは再びえぬたちのもとに戻ってきて言った。


「余裕かますの、悪い癖だよ」


「走るのが嫌だったから、迎えを呼んだだけだ」


ショウがゲラゲラと笑った。


「もう一度ふりだしに戻してやろうか」


アンナは細い目をさらに細くしてショウを睨みつけた。


会話を聞きながら、えぬは林の側のミミズから目を離さなかった。2匹のミミズは頭で地面を掘って地中に潜りこんだ。大きな地響きが鳴る。地面が揺れる。ケイがカナヘビの手綱を握って言った。


「気をつけて!あいつら地中なら更に速く動ける!」


「気をつけるっていっても、どうすればいいの」えぬはまだ落ちついていた。


轟音と共に2匹の巨大ミミズが地面から飛び出してきた。えぬたちはそのまま宙に投げ出された。空中ではどうしようも身動きがとれない。かなり高くまで飛ばされている。このまま、落ちたら。


落下するであろう先にはミミズが口を開けて構えている。あ、だめだ。どうしようもない。えぬは、震えた。久しぶりに、怖さで震えた。






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