世界を歩く少女えぬ
tomo
第1話 プロローグ 第Xの選択
「次の世界を選びなさい」
聴きなれた声が頭の中に響く。選びなさいと言われて自ら選択したつもりになるが、いつもそれはすでに決められた結果になっている。気づきはしているが、どうしようもない。
えぬがイメージした世界は3つ。獣の世界。亡き者の世界。渦の世界。今回はどれもどこか危なげなものしか浮かんでこなかった。
私はいつも損ばかりする。まだえぬではなかったときから、ずっとそう。くじはいつもハズレくじ。ドロップはいつもハッカ味。損するという感覚に慣れてしまい、それ以外が考えられない人間になってしまった。誰を恨むでもないし今更どうも感じない。いくつもの普通の中で自分に割り当てられた普通がそれだっただけのことだ。
とりとめのない思考に身を任せていても、いずれは決定しなければいけない。
えぬはとりあえず考えた。獣の世界は弱肉強食の世界。きっと生き延びることは難しいだろう。亡き者の世界は、想像するのも恐ろしい。ハリウッドのゾンビ映画を思い出した。怖いものは苦手だ。残ったのは渦の世界だ。昔テレビかインターネットの動画だかで見た鳴門海峡の渦潮が頭をよぎった。消去法しかなさそうだ。
「決めました」
ため息を押さえ込みながらえぬは言った。
「渦の世界にします。ラーメンのなるとくらいの渦ならいいな」
つぶやきはえぬの頭にしか響かない。次の世界では何を見つけなければならないのか、えぬなりの予想をする前にいつもの眠気が襲ってくる。流れに身を委ねるほど落ち着くことはない。もっとも、今回はそのまま流されるのだけはごめんだと、途切れかけの意識の片隅でえぬは思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます