Time Eclipse.(体験版)

月読草紙

Case study~Video game"Trigger"

 二十年後の未来からやって来たタイムトラベラーの少女・香蓮かれんとその父であり今の時代では高校二年生の秋森実あきもりみのるは、タイムスリップ現象が何故起こるのか、その謎を解き明かすべく『素朴な手段で』手掛かりを探し始めた。


「……おっ!有ったあった!」

 家に帰った後、俺は自室のテレビの脇に置かれているラックから、昔遊んでいたとあるゲームの箱を取り出した。

「……それは、何だ?」

 かたわらに居た香蓮が、俺が取り出したゲームを見て不思議そうにそう聞いてきた。

「知らないのか香蓮? 結構有名なテレビゲームだと思うんだけどな……」

 俺がそう答えると、香蓮は腕組みをしてため息を吐いた。

「遊んでいるいとまが有ったら、もっと真面目に手掛かりに成りそうな物を探せ」

「いやいや、これが手掛かりに成りそう何だ。何てったって『時を旅する』ゲームだからな!」

 俺の言葉に、香蓮は少しだけこのゲームへの興味を湧かせてくれたみたいだった。

「ほう……。お前が其処まで勧めるのなら、……まあ、良いだろう。起動してみろ」

 き、起動? ずいぶんカタい言葉使うんだな……。香蓮、ゲームやった事無いのかな?

 香蓮の許可を得たので、俺はそのゲーム『とりがー』を遊ぶための準備を始めた。暫く使って無かったのでちょっとほこりが積もっちゃってるプレイステーション2を取り出し、親父が買ってくれたプラズマテレビにコードを繋いでテレビの電源を入れ、プレステ1のソフトであるとりがーをプレステ2にセットする。次いでにゲームのデータをセーブするのに必要なメモリーカードもプレステ2に差し込んで、準備完了だ。俺は部屋に一つだけ有るクッションを持ってくると、それを香蓮に手渡して自分は床に座った。香蓮は「悪いな……」と一言だけ言うと、クッションを床にしいてその上に座り、俺と同じ様にテレビの方を向いた。

「それじゃ、つけるぞー? スイッチ、オン!」

 そして俺はゲームを『起動』した。プレステの中でゲームのディスクが回転を始める……。

 テレビ画面の暗闇の中で、おもむろに時計の振り子が揺れ動いた。そして、その振り子の動きが止まった時に、音楽と共にこのゲームのタイトルが表示された。

「相変わらずカッコ良いなあ~」

 呟いた後に俺は、コントローラーのスタートボタンを押して、メインメニューに画面を切り替えた。

「香蓮はこのゲーム、初めてだから……これだな」

「………」

 俺はメニュー画面で『ニューゲーム』を選択して、ゲームを最初から始める事にした。

 最初に日中の花火が上がってるフィールドの風景が出て、それから主人公のクロノが朝に自宅で、お母さんに起こされるシーンに成った。

「懐かしいな~。このオープニングの寝起きから始まるのが良いよな。なんか、全ての始まりって感じでさ」

「………」

 クロノを操作出来るように成ると、俺は早速ゲーム中でクロノのお母さんからお小遣こづかいを貰い、王国の千年祭が開かれている広場へと向かった。

 お祭りの会場に着くと、俺は早速後の伏線となる行動を開始した。

「ぶつかったマールに先に話し掛けてからペンダントを拾って……、お弁当は食べずにとって置いて……、女の子の猫を探して上げて……、買い物中は待って上げて……」

「……どうして弁当を食べてはいけないのだ? 毒でも入っているのか?」

「毒は入って無いけど……。そーゆー悪い事してると 、裁判で有罪に成っちゃうんだよな~」

「……?」

 このゲームが初めてな香蓮には、俺の言葉の意味が分からないみたいだった。説明してもしょうがないなって思った俺は、そのままゲームを進めていく。

「……あっここ! ここ見て香蓮!」

「………」

 ゲーム画面はお祭り会場の一番奥、ルッカというクロノの友達で発明家の女の子がお父さんと作った、物質転送マシンの見せ物を映し出していた。

 物質転送マシンは最初、実験体となったクロノを左のマシンから右のマシンに転送して、大成功を収める。

 だけど、次にマールが転送に挑戦した時に、マールのペンダントが輝きを放ち始めて……。

「……!」

 物質転送マシンが暴走を始めて、ワームホールの様な時空の歪みが生じて、マールはそこに吸い込まれて、どこかに消えちゃったんだ。

 香蓮がそこでやっと、言葉を発した。

「……私達と同じだな。時空の歪みが生じる場所があり、鍵となる道具がある」

「両方とも、どうしてあるんだろうな?」

「それは……分からない」

「このゲームをクリアーすれば、それが分かるかもな!」

「………」

 俺が操作するクロノは、マールが残したペンダントを使って、自分も物質転送マシンの時空の歪みに飛び込み、四百年前の過去の世界にタイムスリップした。

 俺はゲームを進めていく。二度目の冒険なので、前にやった時よりもサクサク進んでいく。香蓮は俺の傍らで、テレビ画面を食い入るように見つめている。……目、悪くなるぞ?

 ゲームでは四百年前の中世のお城の中に入った。そこでクロノは中世の王女様に間違われていたマールを見付けたんだけど……マールはいきなり光りだしたと思ったら、またどこかに消えちゃったんだ。その後クロノの後を追って中世にやって来たルッカが、マール王女様が消えてしまった理由についての説明を始めた。

「あっと、ここだ! これが自己矛盾ってヤツだろ香蓮? ほら、ルッカが言ってる。王女様のご先祖様が殺されちゃうと、未来の王女様も一緒に居なくなっちゃうんだ」

「そうだ。……中々良いな、このゲーム」香蓮も感心してくれたみたいだ。

「だろ? でも前にやった時は挫折しちゃって、それからずっと遊んでないんだよなあ~」

 魔王が強くってなー。ダーク何とかってめちゃ強い魔法使って来るし。冬輝もどうやってあいつ倒したんだろ? 冬輝の話じゃずっと後で仲間に出来るみたいだし。仲間にしてみたかったなー。

「今日はここで終わりっと!」

 俺はそこでデータをセーブして、ゲームの電源を切った。俺は飽きっぽい性格だから、ゲームもあんまし長続きしないんだ。でも、それが却って、ゲームを毎回キリの良い所で終わらせられる事に繋がってるのかも知れない。

「もう終わりにしてしまうのか……。後で私にもやらせてくれないか?」

「良いぜ! このデータはそもそも、香蓮のデータだからな!」

「……済まないな、実よ」



 次の日の学校が終わって家に帰って、二階の自分の部屋に入ると香蓮がとりがーで遊んでいた。俺はテレビ画面を覗き込んだ。

「……結構進んだな? もうロボを仲間にしたのか。香蓮、ゲーム上手いんだな」

「……私に不可能は……無い」

「あはは! そうだったな!」

「……時に、実よ。……お前は、どう思う?」

「どうって、何がだ?」

「……これの事を、だ」

 香蓮が示したゲーム画面には、……荒廃した未来のフィールドが描かれていた。風が吹き荒れる物悲しげなBGMが掛かっている。

「………」

「私達の世界の未来も、こう成りはしない。と、……言い切れないとは思わないか?」

「………」

 ゲームに描かれているのは、2300年の未来。『ラヴォス』と言う、このゲームのラスボスによって、見るも無残に破壊されてしまった、本来はとても近未来的で、興味をかれる物だったはずの街並み。……胸がどきっとした。

「……何か、怖いよな。2300年じゃ、俺達とっくに死んじまってるけど……。俺や、香蓮や冬輝達みんなの子孫から……笑顔が、消えちまってさ……」

 ゲーム中の未来の人々は、ドーム型の街の廃墟で、ひっそりと生活している。ボロ布を身体にまとい、食料も底を尽きて、毎日空腹にさいなまれながら生活している。眠った所でお腹は空いたまま。人々の顔からは笑顔が消え、代わりに写る物はただ一つ。

 ー絶望。

「……あっ! でっでもさ! 俺達の世界にはラヴォスみたいな奴は居ないしさ!」沈んだ気分が苦手な俺は、気分を変えたくてそう言った。

「……確かに、このゲームと同じく1999年に世界に幕を引くはずだったノストラダムスの大予言は、結局外れて唯の妄言と化した。……幸いにもな」

「だよな! だから俺達の未来は全然大丈夫……」

「……だが。私達の世界にも、ラヴォスが存在しない訳ではない」

「……え? じょ、冗談だよな、香蓮? あんなでっかい化け物が俺達の世界に居る訳……」

「……居るではないか、世界中に。……この時代なら、63億も」

「……!」

 香蓮の言い放ったその言葉に俺は、衝撃を受けた。頭の悪い俺にも香蓮の言いたい事が分かったからだ。世界中に63億も居る生き物って言ったら、一つしかない。それは詰まり……。

 ー人間。

「文明化以降、人間はその数をネズミの如く増やし、森を切り拓き、緑を焼き払い、川や海を汚染させ、大気を汚し、大地を荒れさせて来た。

 自然を破壊し、資源を食い荒らす、この星の寄生虫ラヴォス。それこそが正に……私達人間の姿なのではないか?」

「………」

「そしてやがては宿主である星の命までもを食らい尽くし、自らの未来までもを、荒廃した物に変えてしまう。絶望に満ち満ちた物に変えてしまう事だろう」

「………」

 香蓮の言っている事は、確かに的を射ているかも知れなかった。

 だけど、俺は……。

「……俺は、大丈夫だと思う」

 俺の言葉に驚いたのか、香蓮がそこで俺の方に振り向いた。俺は、続けた。

「この『とりがー』は、その荒廃した未来を変えるために、時を越えるゲームなんだ。俺達の未来が、たとえ絶望に満ちた物だったとしても……。俺達の力で、その未来を変えられるはずだ。クロノ達がそうしたみたいに」

 ……俺のクロノは未来を変えられなかったけどな。

「……実よ、私は時を越えたが。……未来を変える事までは、果たして本当に私に出来るのだろうか?」

 香蓮が、俺の目を真っ直ぐに見詰めてそう言った。……少しだけ弱さの覗ける顔だった。俺はまた胸がどきっとしたけど、これはさっきのとは結構違った。……どきどきした。

「香蓮に不可能は無いんだろ? ……出来るさ、香蓮なら。俺もバカだけど協力するよ。一緒に未来を変えるんだ! なっ!」

「……有り難う、実」そう言って香蓮は微笑んでくれた。

 それにしても、とりがーって凄いゲームだったんだな~。俺は改めてそう感心した。

「あ。それとこのゲーム、続編が有るんだよな。『くろす』って言うんだけど、そっちは時代を旅するんじゃなくて、パラレルワールドを旅するんだ。ほら、香蓮が良く言ってたヤツ」

「ほう……。それは中々に興味が有るな。後でそちらもやらせてくれ」

「話が難しい上にややっこしくて、やっぱり挫折しちゃったんだけどな~」

 絵は綺麗だけど、とりがー程ゲームとしては面白くないし。やっぱりゲームは遊べなきゃな。冬輝は中々に奥が深いゲームだって誉めてたけどな。

「……私に不可能は、無い……」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Time Eclipse.(体験版) 月読草紙 @tukiyomi_soshi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ