リアル相撲サバイバルゲーム

ちびまるフォイ

決まり手は禁じ手

「ようこそ、リアル相撲サバイバルへ。

 あなたが最後の登録者ですよ。参加理由はなんですか?」


「養育費です」


「おお、パパさんですか。頑張ってくださいね。

 子供から大人まで楽しめる素敵なゲームですから」


スタッフは腕時計を渡した。


「ゲーム期間中はこの腕時計を常に肌身離さず持っていてください。

 一定距離以上離した人は強制的にゲームから追い出されます」


「あの、それでリアル相撲サバイバルというのは?」


「ルールは相撲と同じです。

 ① 土俵指定エリアから出ないこと。

 ② 床に足の裏以外をついてはいけないこと

 などなど、反則も相撲ルールと同じです」


スタッフが広げた地図には土俵と指定されている街の区画が丸い円で囲われていた。

この円の外に出ると「土俵外」として認可されるのだろう。


「ではみなさん、相撲サバイバルスタートです」


スタッフの合図とともに参加者は会場でいきなり相撲を取り合った。

すぐにライバルを減らす作戦なのだろうが、こんなところでもめても狙われるだけ。


別にガチで相撲を取る必要はないので、すぐに会場から出た。


【 残り 73/100 人 】


腕時計には残り人数が表示された。

あの会場で行われた相撲大会でいきなり27人も削られたらしい。


タクシーを呼ぶと土俵エリア内の自宅まで戻ることに。


「〇〇丁までお願いします」


「かしこまりました。△△道路でいきますね」


「あ! ダメダメ! その道路は土俵外に少し出てるんです!

 ☓☓道路でお願いします!」


「……えと、それだと遠回りになりますよ?」

「いいんです!」


強引に説得して道順をくまなくチェックしながら自宅に戻った。

自宅に戻ってしまえばこっちのもの。


普段の日常で床に手をつくことなんてほとんどない。

椅子に座るのも、ベットに寝転がるのもセーフ。


布団を敷いて床に寝るのはアウト。


「お父さん、お風呂に入ろーー」


「あーーごめんな。父さん、ちょっとシャワーしか入れないんだ」

「どうして?」


「湯船に使ったら床におしりがついちゃうんだよ」


「……ふーん?」


育ち盛りの息子は「何いってんだこいつ」の顔をしているが、

この息子のためでもあるのでけして譲れない。


翌日、会社に行くときもコケないように気を使って出社した。


「おはようございます」


「山田くん!! 君は一体何を考えているのかね!!」

「え……!?」


肉体がコケることはなかったが、仕事ではやらかしてしまった。

社長室まで呼び出されて上司は地面に手をついて土下座した。


「この通りです! 本当に申し訳ありません!!!

 おい、山田! お前も頭下げろ!!」


「いやそれは……!」


手をついてしまえば、相撲では敗北を意味する。


「私が頭を下げてるんだぞ! お前も土下座しないでどうする!」


ぐいぐいと上司は服の裾を引っ張ってくる。

しかし、それでもここは譲らない。


「いえ! 私はけして土下座しません!!」


「なにぃ!?」


「なぜなら、謝ることでこの場をしのぐことよりも

 今回の失敗の穴埋めにさらなる結果を約束するからです!!」


「なるほど、そういうことか。期待している」

「はい!!」


なんとかごまかして床に手をつくことは避けられた。

その後、土下座上司からは面目丸つぶれだとさんざん怒鳴られた。


「よぉ、山田。ずいぶんしぼられたんだってな」

「ああ……」


「こういう日は飲もうぜ。△△丁にいい飲み屋を見つけたんだ」


「△△丁!?」


そこは土俵エリア外。


「無理だ! ごめん、家で用事があるから!」


「んだよ。いつも付き合ってたくせにーー」


同僚の誘いも断り逃げ帰るように家へと向かった。

もはや安全地帯はここしかない気がする。


「お父さん、おかえりーー。ねぇねぇ、髪切って!」


「えぇ? 疲れてるのに……そんなに伸びたか?」


息子の髪を触ってみても、そこまで切る必要性を感じなかった。


「切って切って切って~~!!」

「わかったわかった」


ハサミを手に取り、毛先を整えるように刃を入れていく。


「あっ」


「え? なに? お父さん、失敗したの?」


「ちがうちがう。ハサミを落としちゃったんだよ」

「拾えばいいじゃん」


「ひろ……」


手を伸ばした瞬間に冷や汗が流れた。

危ない。拾ったら指が床に設置してしまう。


なんとか足の指でハサミを取り上げ手に移した。


「……なにやってるの?」


「あ、足の運動……」


もはや家も安全地帯とは言えなくなっていた。

むしろ気を抜いてしまうので、いつ床に手を触れてもおかしくない。


【 残り 2/100 人 】


ついさっきも人数が1人減って、残りは2人まで絞られている。

ここまで残った人間はよほどの凄腕なのだろう。


お互いのミスを待ち合う我慢比べがいつまで持つか……。



翌日、俺は仕事を休んで車で出かけた。それも1人。


「最後の1人になって賞金を手にするは俺だ……!」


腕時計には他の所持者の位置がわかるようになっている。

1つは俺の家、そしてもう一つの場所の位置も特定できた。


「ぼっちゃま、お迎えに上がりました」


「ああ。……ん? いつもと運転手が違うな」


「インフルエンザです。ぼっちゃまに移したら大変なので」

「ふーん」


バックミラーで子供の腕に腕時計があるのを確認する。

車のエンジンをかけると、土俵エリア外まで車を急発進させた。


「お、おい!? どこを走ってる!!」


「最後の生き残りがこんな子供だなんて思わなかったが容赦はしない!

 悪いが、このまま土俵外まで行ってもらう!」


「お前、参加者か! くそっ! 油断した!」


「うおおおお!!」


後部座席を開かないようにドアをロックし、自分はドアから飛び降りる。

車は自動運転の目的地まで爆走して停まった。


「はぁはぁ……どうだ……これで、最後の生き残りになったぞ」


「なんてやつ……」


土俵外に追い出された子供も、まさか使用人に扮して、車を乗っ取り

さらには車から飛び降りで体をずたずたにするような男に言葉をなくした。


【 残り 1/100 人 】


「やったーー! ついに! ついに優勝だ!! 賞金は俺のものだ!」


痛む体を引きずりながら会場へと戻った。

賞金を受け取ろうとスタッフに声をかけた。


「どうだ、俺が最後まで残ったぞ。さぁ賞金を!」


「いいえ、それはできません」


「なんだと!? 俺は反則なんてしていない!

 相手を土俵外に追い出しただけじゃないか!」


「はい、それは別に問題ありません。ただ、あなたはすでに敗北してますよ。

 この時計はゲームの進行がわかるように敗北しても人数表示されるんです」


「はぁ!?」


腕時計を確認すると、そこには残り人数ではなく。


「うそだ?! 俺は床に手をついてないし、土俵の外にも言ってないぞ!!」


「あ、優勝者がいらっしゃいましたよ」


会場に遅れて到着したのは小柄な見知った顔なのに、

顔つきはすでに別人だった。



「お父さん、相撲では相手の髪を掴んだら反則って知らないの?」

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