第20詠唱 守る者と護る者 “真”

「外見は普通の家に見えたけどまさかこんな地下室があったとは」

「フフフ~驚いた?」

「まぁあーちゃんも昔あそこに属してた人だし驚きはしないけどね」


 二人は01号室の研究所にいた、ベティは血と泥で汚れた鉄の作業台に腰を下ろしていると、アシュリーは自分の腰まであるであろう長方形の赤色で塗装された革製トランクを重たそうに抱えて持ってくる。


「ふぅ重たかった......これをリリィに」

「この大きさだと武器か何か?」


 台から降り隣に置かれたトランクをロックしている南京錠を触る。


「これを開ける鍵は?」

「え?魔法で壊せるでしょ?」

「そういえばさっきここに入る時炎の魔法で南京錠を溶かしてたね、この鍵も何回も壊されたからこんなボロボロなのか」

「フフフ、鍵は持ってたら危険だからね」


 渡すものを壊すのはどうなのかと思ったのか、そこら辺に落ちていた針金を二本広いピッキングをして開ける。


「剣と砕いた魔石?」


 箱の中には真っ黒な片手剣と、手の平サイズの虹色に光る粉が入った小瓶があった。ベティは剣を持ってみると鉛の塊の様にすごく重く地面に落としそうになる


「おっも!全身鉄かコンクリートでできてるの?」

「フフッそれはサイクロプスの骨と魔女の血で作られてるの」

「サイクロプスの骨は頑丈で絶対に壊れないし、魔女の血で加工したものは古くならないっていうから選んだ素材は良いかもしれないね」

「ふふふ~でしょ~」


 ベティは剣をトランクに入れて小瓶を手に取る。


「この小瓶は?」

「それはあの子の本当の魔石といろんな覚者の魔石を粉にして混ぜた物よ、ふふふ~綺麗よねぇ~」


 ベティは土がむき出しの天井からぶら下がっている裸電球に、小瓶を照らして眺めていると少し悲し気な表情をする。


「本当に良いの?あの子はきっと拒むよ?」

「ふふふ、私だってあの子の中で死んだことになってるのに本当はしたくないけど、この計画に終止符をうって貰わなきゃだから」

「あの子はあーちゃんの為にがんばってこれた、戦ってこれた、本当にできると思う?」

「ふふふベティは心配性ね、記憶が戻ればできるわよ、なんせこのプロジェクトを全て知ってるのは私とあの子だけなんだから」


 ベティの持っている小瓶をヒョイと取るとトランクにしまいカギを閉める。


「記憶、ね」

「それに私はあの子に私のいない世界でゼロから人生を歩んでほしいしね」


 子供の頭を撫でる様にケースを撫でながら「ふふふ」と寂しそう笑う


「あの子はあーちゃんと暮らしたいと思ってるわよ」

「ふふふそれは嬉しいわね、でも私とあの子はお互いが存在しない鏡面世界で暮らしていた方が幸せなのよ、絶対に」


 ベティはアシュリーの顔をジーと見ると呆れた様にため息をついて「この様子じゃ何言っても無駄みたいだね」とトランクの取っ手を持つ


「あの子は今どうしてるの?」

「第二魔導機動隊に拷問を受けてるよ、今頃あーちゃんの事を聞かれてるんでしょ」

「そう、あの子には可愛そうな事をしたわ」

「私の前くらい素の表情を見せたって良いんだからね」


 アシュリーの少し影の落ちる笑顔


「はいはい、それより拷問を受けているなら近いうちにゼロ計画の第2ハザードが実行される、いい?3日以内にあの子を助けなさい」


 ベティに液体の入った2つの試験管を投げて渡す。


「遂に私の作った機械が使われるのか、これであの世界に魔法は消えるね」

「ふふふ、そうね魔法は人を不幸にしかしないやっとあの世界は救われる、その薬は貴方とあの子の分」

「ありがと、あーちゃんはもうこの世界にいるの?」

「そう言われたからね」

「そうなんだ」

「だから全てが終わったらあの子にこう伝えといて」

「何?」

「思い出の場所で待ってるって」


 ベティは「分かった、あの子に伝えとくよ」と言い、頼まれた革製のトランクを持つと部屋をでた。


「フフフ、あの方の為にもあの子を守ってねベティ」


♢ ♦ ♢ ♦ ♢ ♦


 ここは第二地区魔導機動隊駐屯地の中にある大きな機械を保存するための格納庫、中は広く第二機動隊の情報課が拷問をする為に使ったりしているのか一部のコンクリートの地面には血の跡があり、リリィは大の字で地面に手足を拘束されていた。


「早く言わなきゃ今度はお前の目玉を串刺しにするぞ」

「分かった、言うから目の前の釘を消して」

「ようやく言う気になったか」


 女性は指を鳴らし消すとリリィは企んだ様にニヤリと笑う


「ルイーズ、お前の尻の中にママの基地がある」

「子供のくせに度胸だけはあるそうだ」


 リリィが口から血を吐くまで腹を何回も思いっきり踏みつける。


「何故そこまでして裏切った奴なんてかばうんだ?私には理解できないな」

「ママはそんな事をするような人じゃない」


 すると周りに居た女性の一人が「頼まれた資料ができました」と言いルイーズに渡す。


「ちょうどあの遊園地でカメラがとらえていた映像が文章化されてきたようだ、これを聞いても今までみたくかばえるかな?」

「そもそもママは死んでる、居るはずがない」


 ルイーズは「ほう」と何か知っているのかニヤリと笑いをすると資料を読み始めた。


「“今から行っても遅いわよ、後数秒で大群来るわ”、なるほどどうやら仲間がいたようだ、大群は五地区の連中の事だろ、“あともう少しかと思ったけど遥陽(はるひ)はダメだったか”向こうの世界では遥陽って呼ばれてたんだな随分可愛がられてたんだな、“やっぱり情が湧いてるじゃない、助けに行かなくていいの?”さぁアシュリーの返事はどうかな?“失敗作には興味はない、助けても無駄だろう、ごめんな遥陽許してくれ”だそうだ、おっとご丁寧に話し合っている写真まであるぞ」


 防犯カメラがとらえた当時の写真を倒れているリリィに見せる、確かに写真に写っていたのは紛れもなくアシュリーとその使い魔だった。

 

 もちろんこの文章は作った文だが、実際の写真を見せつけられたリリィは完全に信じてしまいショックのあまり言葉を失った。


「失敗作には興味ない、か、助けても無駄だとさ!クックック......傑作ね、ねぇねぇ本当にこれでも守りたいと思うの?」


 呆然としているリリィの頭をコツコツと蹴りながらバカにしたように笑う


「もう一回言うぞ?アシュリーの基地はどこにある」


 太い釘を魔法で出すとじわじわとリリィの右目に近づけていく


「私は、知らない」

「まだとぼけるか」


 伸ばしている人差し指をクイッと下に下げると釘も勢いよく落ちてリリィの眼球を刺した。


「ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛!」


 断末魔の叫び声は格納庫全体に響き渡りガラスの窓やシャッターを震わした、惨(むご)い光景に周りに居た女性たちは目をそらす。


「ほら早くしないとお得意の再生もできなくなるくらいグチャグチャになるぞ?」


 足で眼球に刺さる太い釘を踏むとぐりぐりと円を描く様に動かして掻きまわす。


「ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛!本当に、知らない!やめっ!いやあ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛」


 ジタバタと拘束されている体を動かして子供の様に泣き叫ぶ。


「さっきよりも良い悲鳴だな、そのグチャグチャになった目玉に塩を入れたらどうなるんだろうな」


 リリィのお腹にまたがると顔をジーと見つめる。


「お前の顔なんか左右均等でまるで作りものみたいだ、切っても皮膚は再生されるし」


 何を思ったのか魔法でナイフを出すと、リンゴの皮を剥くようにリリィの頬の皮を少し剥(は)ぐ。


「皮膚から魔力を感じる......この感じ呪術か?」


 少し経つと剥いだ場所は跡が残らず綺麗に治る。剥いだ皮膚も不思議と少し大きく広がる。


「そこの二人、ドラム缶いっぱいに一番強い呪術解読液を薄めずに持ってこい」


 指示された二人は敬礼するとパタパタと部屋を出ていく


「お前は謎が多いいな、もしかしたらその偽物の皮膚を削げばアシュリーの事も思い出すかもな」


 目に刺さっている釘を引っこ抜く


「私は何も知らない」


 恐怖でガタガタと震えるていると「今は思い出せなくても死の危険を感じて思い出すよ」と言いもう一人の女性を見て命令する。


「ネズミと鉄のバケツを持ってこい、皮膚を剥ぎ次第あの拷問をやる」


 リリィの頭を撫でながら「こんなに可愛いのに運がないな」とニヤリと笑う


「ルイズさん持ってきました!」


 リリィの近くに紫色の液体が並々と入ったドラム缶が置かれる。


「よし、二人は私の所に来て後の皆は20m遠くに離れとけ、呪術を解いたとき暴走して何か起きるかもしれないからな」


 三人と記録していた4人は機械などをせっせとどかして距離をとる。


「真っ直ぐになるように手足を拘束してから遠くに避難した後、魔法でリリィを浮かしてからドラム缶の液に全身漬けるからな」


 二人は「「はい!」」と返事をすると拘束されている手足を一回外し、魔法が使えなくなるという特殊な手錠で拘束してから三人は皆のいる所まで離れる。


「さぁ本当の正体を私に見せろ」

「「フルーク・ヴォル」」


 二人が魔法を唱えると逃げようと青虫の様にゴロゴロと転がるリリィの身体がフワリと浮きドラム缶の真上まで持ち上げられる。


「まずは肩まで沈めろ」


 ルイズが命令するとリリィの身体はゆっくりと下へ下がって行きドラム缶の液体に足先が触れた、その時だった。突き刺すようなリリィの金切り声と共にバリバリバリと黒い電気火花のようなものが起こり、床や壁に穴を開け天井の蛍光灯をショートさせると地面に落とす。


「こっちにも向かって来る!手の空いてるやつは防御魔法を唱えろ!」


 電気火花はただ飛び散っているように見えたが、まるでリリィが狙っているように的確に真っ直ぐ飛んでいた。


「上の天井が落ちて来るぞ!」


 ルイズ達の真上にある格納庫の分厚いコンクリートの天井が落ちて来るのを三人が魔法で撃ち砕き防ぐ。


「もういい!全身入れろ!」


 リリィをドボンと一気に紫色の液の中に沈める。初めは外へ出ようとドラム缶を蹴る音が聞こえてきたが、黒い電気火花と共に弱くなっていきやがて辺りは静まり返った。


「溺れたのか?魔法で引きあげろ、間違っても液には触れるなよ」


 全員で近づいてさっきの二人がリリィを引き上げると、溺れて気を失ったのか項垂れてピクリとも動かなかった。


「みてください、皮膚が溶けてますよ」

「しかも漬ける前と顔の骨格が変わってるような気がする」


 地面に下ろしてよく見ると、 所々皮膚が赤く溶け爛(ただ)れてそこから灰色の肌が見えていた。耳や鼻が徐々に変わっていき、大人の胸下まであった身体の大きさも徐々に縮んでいき腰まで縮む。


「こりゃ驚いた、この後ろに伸びる耳に魔女より低くエルフより少し高い鼻、そしてこの灰色の肌は黒灰の魔女だ、あの皮膚にはなりすまし魔法の魔法陣と再生魔法の魔法陣が描かれていたんだ」

「でもなんの為でしょう、なりすまし魔法は一部の魔法少女たちが暗殺の為に使っていましたがこの子は今まで何もしなかった。」

「本物のリリィという女の子を守る為影武者を演じていたとか?影武者なら必要以上の事を教えられないからリリィのあの偏った記憶も納得できる」

「しかも13歳なのに異常に高い魔力に裏切られてもアシュリーを守る忠誠心......アシュリーの計画の為に捕まって改造されたとしか考えられませんね、記憶は魔法ですぐに消せるし」

「ほんと謎が謎を呼ぶな、とりあえずリリィを牢屋に入れろ!情報科はこの結果を10分以内に文章にまとめて私に渡せ、今から全地区魔導機動隊会議を始める」


 全員敬礼して返事をするとルイズは部屋から出るときに「そうそう」と足を止める。


「あと1・2・3チームは結衣をココに連れて来い、あの子はリリィの妹だから何か情報を持ってるかもしれない」


♢ ♦ ♢ ♦ ♢ ♦


― 第四地区(地上)


「冬だっていうのにブンブンと元気だなあ!」

「結衣!気を抜くな、虫に刺されたら死ぬか当分魔法が使えなくなると思え」


 飛行する羽を持った虫を相手に多くの魔法機動隊員が朝から駆除していた。街の住人は窓を開けずに家の中に居る様に避難勧告をした為魔法の音だけが響いていた。


「結衣ちゃん!アイラさんが呼んでる駐屯地に戻りなさい、よく頑張ったわね」


 駆け寄る覚者に「了解、じゃあここはお願いね貴方も気を付けて」そう言うと直ぐに地下へ行くエレベーターに向かう、が途中で箒にまたがるアイラが何か慌てた様子すっ飛んでくる。


「結衣!良かった」

「アイラ?どうしたのそんな大荷物」


 汗まみれでテカるアイラの顔に不思議そうな顔を見る。


「今はこれをもってどこでもいいから遠くへ逃げろ!お前の通信機は使えなく使えなくしといたから理由とその他もろもろは使い魔に手紙を持たせて届ける」


 早口で言うと魔法の箒と食料などが入った遠征ようバックパックを押し付ける様に渡す。


「その箒はもう使うな今渡したのを使え良いな」


 アイラの焦った感じ押され「りょ、了解」と言い渡された箒に乗り越えるとアイラの横を通り遥か彼方に飛んで行った。


「逃げ切ってくれ......」

「アイラさん!第二地区駐屯地から会議の参加状が届きました!直ぐにお戻りください」


 トランシーバーから聞こえてくる声に「そうか、まさか私も招待してくれるとはな」と嫌そうに言う


「それとあと、もう一つ......」

「なんだ?はっきり言いな、怒らないから」


 しばらくの沈黙の後深呼吸する息が聞こえてから一言


― レーダーで探知したんですが二地区から三つの小隊がこちらへ向かって来ています。狙いは恐らく結衣さんでしょう

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