遠出

 まず俺は何でも屋では無い、と言っておきたい。しかし、彼女みたいな人間を見てしまうと「助けてやれないかな」となってしまうのが俺の根性である事は確かだ。


 以前の例に漏れず、少女をテーブルに着かす。どうやら、ゾンビに対する恐怖は無いみたいだ。寧ろ安心した様な表情が伺える。


「何があった……というよりは、お前は何者なんだ?」


 クレイグは興味が無いようで、不満げながらも掃除に戻っていった。今、広間にいるのは俺とレティシアと少女だけ。


 質問を受け、少女はゆっくりと口を開いた。


「名前は……エルフィリード、って呼ばれているけど――」


「ん? 姉さんが言ってた"ダンジョン"と同じ名前?」


 レティシアが呟く。確かに、人名にしては違和感があるし、エルフィリード自身、妙な言い方をしている。


「違う違う。同じ名前じゃなくて、ダンジョンそのものだよ」



 



 ダンジョンとは魔力が濃い場所にあり、形状は様々だ。洞窟だったり城だったりする。次々に魔獣が沸くが、冒険者は危険を承知で鉱物や財宝を求めてダンジョンに潜る。


 現在、地上に魔獣が蔓延るのもダンジョンのせいであり、ダンジョンを破壊するのは人類の悲願である。


「それは、ちょっと違ってるかな」


 若干だが元気を取り戻したみたいで、エルフィリードの口が回り始めた。


「まぁ、そう考えてもらえる様に仕向けたんだけどね? 繰り返すけど、わたしはダンジョンの主。あと……君達からしたら大昔の人間だね」


 レティシアは悩ましげな表情だ。何を言っているのか分からないのだろう。勿論俺も分からない。


「じゃあ、順を追って説明するよ」


 理解されていないのを察したのか、苦笑を浮かべて。

 

「かーなり昔。魔法が初めて発見された頃。皆が皆どんどん魔法を開発していた。すると、どこからともかく魔獣が沸きでたんだ」


 つまり、「かーなり昔」には魔獣はまだ居なかったのか。


「原因はすぐに分かった。魔法を使うと、崩れた世界の理を修正しようとする力が魔力を介して働いて、魔獣が生まれる」


 初めて聞いた話だ。かなりの量の魔導書を読んだが、そんな事は一切書かれていなかった。そんなことが有り得るのか?


「でも、それを知ったところで、魔法を使わずに生活をするなんてのは、もう出来なくなっていた。皆、味を占めてしまったんだよ」


 今でもそうなるだろう。なにせ、魔法がないと生活が成り立たないのだ。きっと光も点かないし火も起こせないだろう。


「詳細は省くけど、現在よりずっと酷い争いが起こってね。よりたくさんの魔法を使ってしまった」


「君達がこの事が知らないのは、反動によって生み出された魔獣のせいで、大昔の人達の大半が死んでしまったからなのさ」


「もう分かったかな? 言わば、ダンジョンは魔法の副作用の捌け口になっていた、て訳だ。わたし達ダンジョンは大昔の人の生き残りが生み出し、管理してる」


「でね、実はわたしのダンジョンに凄い人が潜ってきてて……もう少しでわたしの本体が殺されちゃいそうなんだ」


 壮大な昔話から一転。助けを求められていた理由が明かされた。  





「なんで僕も行くんですかッ? トイレ掃除の途中だったんですけど……!」


 しっかり下男が板についてしまった哀しいクレイグからのクレームだが、付き合っている暇はない。どうせ何だかんだ言いながら付いてくるのだ。放っておいて構わない。


 ローブと仮面を被り、いつもの装備に着替えた俺は、庭のデザインと一体化していたゴーレムを起こすと、その手の平に乗った。右肩にエルフィリード。反対側の肩にクレイグ。レティシアは頭の上だ。


 南に行くのだが、まだ昼間であり、辺りは人が多い。


 だからこそクレイグだ。彼の先天的魔法――幻影魔法は隠密行動に向いている。


 間もなくして、ゴーレムは"第八迷宮エルフィリード"に向かった。

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