昔、昔のおはなし。

 どんな病も治すお医者さまと、それを助けるヒトの姿をしたお犬様がおりました。お犬様は看護師さんの仕事も、大工も、お料理もなんでも器用にこなされていました。お犬さまは、女神さまがお医者さまのために遣わされた天使さまなのですから、当然です。

 お医者様は無口でしたが、病気をなおすために一生懸命で、とても優しかったのです。村のみんなはお二人が大好きになったのでした。

 お医者さまの代わりに、病気を教えてくれるのはお犬様の役目でした。

 お医者さまは、おしゃべりが苦手だったのです。

 お犬様は言います。

 必ず治る病気はありません、と。

 あなたが治るココロをもたなければ、治りませんと。

 この薬を飲む飲まないはあなたの自由なんですよ、と。

 先生を信頼できなかったら、お薬は出せないんですよ、と。

 その上でお犬様は先生の方を見ます。窓からは金木犀のお花が咲いているのがよく見えます。

 そして先生はこの一言から呟くのです。

 

 

 

 「あなたにパナケイアの祝福を――」

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あなたにパナケイアの祝福を 尾岡れき@猫部 @okazakireo

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