愛

「ヨーイドン!」


 合図でチクビとはみ出し涼介のバトルの火ぶたが切られた。


「はやい」


 ストレートでは追いつけないとは覚悟していたチクビだったが、はみ出し涼介の速さは想像以上。弟の啓介よりもはるかに速かった。


 きゃー涼介サマー


 今日のギャラリーはいつもと違い女が多かった。イケメンで天才よ称されるはみ出し涼介の尻が生で拝めるとなれば、普段尻神輿に興味のないババァまでもがガードレールの向こうでヨダレを垂らしているのだ。


 ブチブチブチブチィいいい!


 最初のコーナーでいきなり涼介のケツ毛が一気に抜けて、ギャラリーの女どもは飛んできたケツ毛を拾おうと、まるで米騒動という騒ぎであった。


「はやい!」


 チクビが驚いたのは、涼介のコーナー技術、わずか3コキだというのに、チクビの6コキの攻めでも追いつけない!


 これが天才、はみ出し涼介のコーナーリング。


 涼介の秘密は、シリコンおっぱいと勘違いされるほどの鳩胸にあった。ケツと対角線に位置するこの小さなお胸で、コーナーの外へと向かう遠心力と、乙女の純情な多いを一手に受け止めているというのだから、こりゃ癪だ。


 天才、はみ出し涼介の秘密は小さな鳩胸。しかし、ケツ毛の抜ける音があまりにも凄いがために、目が尻に行ってしまうのだ。


 まさにお鳩を隠して、尻隠さずとはよく言ったものだ。恋に神輿に大磯ロングビーチク。


 チクビはこの時、啓介とは違いものを涼介から感じていた。何者すらも寄せ付けない、それどころか雲を摑むような感触しか帰ってこない殿上人。


「こんな男に俺は勝てるのか?」


 チクビが生まれて初めて感じた、敗北への恐れであった。


 負けたくねぇ。


 そして、チクビの奥からワナワナと燃え上がってくる何かがあった。


「うおおおおお!」


 チクビは覚醒した。次のコーナーでの7コキで涼介の距離を詰めた。


「ふ、やっと自分の気持ちに正直になったか、それほどの腕があって、尻神輿が嫌いなんて、ありえないからな」


 涼介も久しぶりに湧き上がってくる乙女の気持ちがあった。勝利への乾き。久しぶりに湧き上がる闘志。


 うおおお!


 二人がほぼ同時にズボンを脱いで、コーナーに入った。


 ア、デ、ト、ク、ン、ボ


 マ、イ、ケ、ル、ジョー、ダ、ン


 涼介は6コキ、チクビは7コキ、ほぼ同時にストレートに入る。


「追いつけない」


 ストレートでまた涼介の距離が開いていく。しかし、その距離がじりじりと詰まっているのを涼介は感じていた。


「流石だな。こちらも、そろそろ本気と行かせてもらおう」


 そう言って涼介は頭の上に乗せていた壺から、きりたんぽを一本取り出した。


 ズボンを脱いで、先にコーナーに入る。


 直後にチクビもコーナーに入る。


 レ、ブ、ロ、ン、ジェー、ム、ス


 涼介との今日が一気に縮まる。チクビの顔の目の前についに涼介の尻が……


「何!」


 チクビは驚いた。涼介の尻から尻尾のようなものが生えている。それは、尻尾ではない。

 ケツに刺したキリタンポだ。


 ケツに刺されたきりたんぽは涼介の高速コーナーとの空気の摩擦で、ちょうど良い頃合いに焼けて、とても美味しそう。


 ああ、美味しそうだ。


 チクビの口は涼介のきりたんぽに惹きつけられ、そして……


 パクっ。


 コーナーを曲がっている間、チクビはずっと涼介のケツのきりたんぽをムシャムシャと食べてしまった。


「しまった!」


 チクビが気づいた時にはコーナーは終わり、追い抜くのを忘れ、ストレートになっていた。


「くそおお!」


 またしても引き離していく涼介を追いかけるチクビ。そしてコーナー、ズボンを脱ぐ、尻を突き出す!


 パクっ。


 が、また誘惑に負け、涼介の尻のきりたんぽを口に入れてしまった。


 追い抜いたら食べられないという魔力によって、チクビは事実上、涼介を追い抜くことはできない。


 そう、キリタンポが美味しい限り、はみ出し涼介は無敵なのであった。


 しかも今回は最後のコーナーまで20本、たんまりある。


 パクっ! パクっ! パクっ!


「くそお、追い抜けない」


 チクビは気づいていない。きりたんぽの恐ろしさを。直線でのチクビのスピードは微妙に遅くなっていた。


 そう、太ったのだ。


 ニュートンが地球の引力を発見してしまったがために、チクビはどんどんストレートで差を広げられてしまう。


 きりたんぽとニュートンの最強コンビによって、チクビの敗北は濃厚となった。


 そして、最後の5連続カーブに二人が入ってきた。


 ズボンを脱いて、コーナーに尻をクイッ! クイッ!


 はみ出し涼介が軽やかにかわしていく。


「もう、あれしかない」


 チクビは覚悟を決めた。最後の手段である。


 狙いは2連続S字ヘアピン。啓介を地獄に葬ったコーナーで勝負を仕掛ける。


 そして、2連続コーナーに入った。


 流石にコーナーで分があるチクビがここで差を詰めてきた。そして、久しぶりのきりたんぽを美味しくいただきました。


「次が最後のコーナーだ。このきりたんぽで終わりだ!」


 二人は同時に最後のコーナーに入った。

 同時にズボンを脱ぐ。涼介がケツにきりたんぽを装着。チクビが食らいつく!


「これで終わりだ藤原チクビ。ストレートではお前は俺を抜けん」


 ス、テ、フィ、ン、カ、リー

 ケ、ビ、ン、デュ、ラ、ン、ト


 結局、チクビは最後のコーナーでもきりたんぽに食いついてしまい。そのままストレートに入った。


 残り200メートル。


「終わりだ藤原チクビ! あとはストレート」


 しかし、涼介は異変に気付いた。


 ズボンを履こうとしても、何かが邪魔で履けない。なんだ? と振り返る。


 そこにあったのは、チクビの顔だ。


「まだ食ってやがる!」


 そう、チクビはストレートに入っても、まだきりたんぽを食べていたのだ。


「これが最後の、賭けだ。くらえ!」


 そしてチクビは、ストレートだというのにズボンを脱いた。そして、


 コー、ビー、ブ、ラ、イ、ア、ン、ト


「八コキだと!」


 きりたんぽを咥えながら、チクビが起こした嵐の八コキによって、二つの尻神輿は直線で、きりたんぽを中心に回転。

 チクビの尻神輿はゴールに背を向けた状態で、はみ出し涼介と順位が入れ替わった。


「うおおおおおおおお!」


 そしてそのままお尻を突き出したままゴール!


 チクビがあのはみ出し涼介を倒した!



 試合後。


「完敗だ」


 沿道できりたんぽを食い過ぎてゲロを吐いていたチクビに涼介が手を差し伸べた。


「俺は今日で、尻神輿を引退する。プロジェクトDは今日で終わりだ」


 涼介さん。

 チクビはどうでも良かった。


 その日、俺たちおヒップ組は解散し、新たなチクビ伝説が始まった。


 涼介は言った。


「Dには、脱糞、大便以外にも、もう一つ、大きな意味がある」


『愛』


 それこそが啓介が込めたDへの思いであった。


 それを聞いた一同は、思った。


 愛のどこにDの要素があるのだろうか?


 涼介は、DREAMを愛という意味だと間違えていたのであった。


 お尻に味噌を取られ、脳の味噌が疎かになる。それが尻神輿。今日もお尻屋は峠を走る。


 だって、暇なんだもん。











  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

尻神輿D ポテろんぐ @gahatan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

参加中のコンテスト・自主企画

同じコレクションの次の小説