第3話

 グリム学園で新学期が始まり約二か月。つまり、アレの時期だ。


「レイナは何の種目に出るの? 体育祭」


 ある日の昼休みのこと、僕が何気なく尋ねるとレイナはあからさまに嫌そうな顔をした。

 はあーっと大きなため息を吐くと、頬に手を当てて呟いた。


「一応、100m走と借り物競争に出るけど……。けど私、体育祭って嫌いなのよね」

「そうなの?」

「んー、何というか、運動が苦手で……。体力には自信がないのよ」


 意外にも、完璧美少女(笑)ことレイナ・フィーマンにも苦手なことがあるらしい。こうして話していると、やっぱり彼女について知らないことが多いことを思い知らされる。同じクラスになったのは今年を含め二回だけだから仕方ないといえばそうなのかもしれないが、なんとなくもやっとしてしまう。


「エクスは何に出るの?」

「僕は200m走。あと障害物競走と……あ、二人三脚にも出るよ」

「……なんか走るのばっかりね」

「うん……。僕、走るのあんまり得意じゃないんだけどなあ」


 毎年モブらしく、上位でもなく下位でもない目立たない順位をとることを思い出して苦笑いする。今年はできることなら、少しでもカッコいいところを見せたい気もする。


「……ん?」


 カッコいいところを見せる__って、誰に?

 思わず浮かんだその発想に自分で困惑する。幼なじみのシンデレラは今まで僕の無様なところをさんざん見てきているから今更だし、それ以外の女子には名前すら覚えられていない。じゃあ誰に――


「どうしたの、エクス?」


 考え事をしてフリーズしていた僕をレイナが覗き込む。

 ――いるじゃないか、ここに一人。

 今まで無様な様子を見られたわけでもなく、名前を覚えられていないわけでもない、最近親しくなった女の子が。

 え、つまり僕は無意識にレイナにカッコいいところを見せたいと思ってたってこと――。


「…………っ」

「?」


 自分の考えていたことに気づいた僕の顔が一気に熱くなっていく。口元を手で覆い、表情を見られないようにする。レイナの声から、恐らく僕の様子が気になっていることは分かるが、彼女の顔を見るだなんてそんなことは今はとてもできそうにない。


「ねえ、エク――」


 レイナが僕の名前を呼ぼうとしたが、タイミングよく鳴った予鈴の音にかき消される。レイナが慌てて弁当箱を片付け、じゃあまた後で、と教室に帰っていくのを黙って見送る。

 レイナがいなくなり、一人になった階段で脱力しながら大きく息を吐く。


「……僕は、レイナのこと――」

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