第5話 【灯籠廻船】と【ヤツマタ様】


【灯籠廻船】

 七夜かけて死者をあの世へ運ぶ船。

 客は時間の概念から解放された死者たち。干渉できるのは船頭であるノヅチのみ。


 走っているのは海ではなく、あの世とこの世の狭間。

 船の下に広がる『闇』に落ちた場合、誰にも助け出せない。


 死者を運び終えると此岸(=この世)に戻って来る。

 その際、迷い込んだ生者を連れて帰ることもできるが、船を統べる『主様』の名を呼ぶことができなければ彼岸(=あの世)に置き去りにされる。


 空気があるため生者も問題なく呼吸できる。

 船には帆がなく、漕ぎ手もいないが、沈没したり座礁することはない。




【灯籠廻船の構造】

 甲板と客室の二層で構成される。

 喫水線からの高さはマンションの五階ほど。


 <甲板(境内)>

 玉砂利が敷かれ、船べりにはサッカーボール大の石灯籠が並ぶ。

 広さは高校のグラウンド程度。


 船首には大きな鏡の置かれた本殿と、客室へ続く階段がある。

 右舷にカカシ。※解体済み。

 左舷に50メートルプール大の堀と橋。

 船尾には石造りの鳥居。


 <客室>

 中央には一車線道路とほぼ同じ広さの畳張りの通路が伸びている。

 ふすまを隔てた左右に二十四の座敷(客室)が並ぶ。

 各座敷は襖で隣室と隔てられている。障子窓を開けると外に繋がっている

 ※屋形船に似た造り。


 通路の突きあたりには大浴場とトイレがある。

 向かって右手のトイレは和式(床に穴が開いているだけ)。引き戸は重い石。

 左手は檜風呂ひのきぶろ。蛇口や桶はなく、浴槽が埋め込まれているだけ。お湯も張られていない。


 実体を持っているのは畳、襖、障子戸といった設備と船体そのもののみ。

 死者の持つ楽器や食器、遊具などに触れることはできない。

 ノヅチの枕と布団だけは実体がある。※没収済み。




【ノヅチ】

 灯籠廻船の船頭。

 狐の半仮面で頬から上を隠した、浴衣姿の女形。


 ヤツマタ様と同じく『主様』に仕える身だが、迷い込んだ生者に対しては中立。

 助けてくれることはないが、襲って来ることもない。

 ヤツマタ様を著しく不利にしない限りにおいて質問にも応じる。


 死と生を行き来することができる。

 普段は生者の姿をしている(=実体がある)が、ヤツマタ様が戦闘を始めると死者になる(=触れることができなくなる)。


 迷い込んだ生者の命を吸う(=灯籠廻船の客とすることでヤツマタ様に狙われなくする)こともできる。


 客室に枕と布団がある。

 お経を唱えると嫌がる。






【ヤツマタ様】

 灯籠廻船に迷い込んだ生者を『連れて行く』ために現れる八人の女。

 様々な方法で生者を船外に突き落とそうとする。

 ※殺す場合もある。


 手の平に『口』を持ち、『掴む』ことで様々な能力を発現する。

 ※言葉を話すことはできない。


 一夜につき二人、船に乗り込むことができる。

 船から突き落とされた場合、その夜に再び現れることはない。


 七夜に対して八人が控えているため、襲撃の『席』は十四。

 そのため、複数回に渡って襲撃を行うヤツマタ様もいる。


 死生の埒外らちがいの存在であるため、不死身。

 ただし疲労・負傷はする。臓器の配置や生理機能もほぼ人間と同じであり、強い負荷をかけることで腕をちぎることもできる。

 身動きが取れないほどの深手を負った場合、巨大蛇が迎えに来る。

 この場合も船から『降りた』ことになるため、その夜に再襲撃されることはない。





【賽銭箱の文字】


 なみなり なみなり

 われら なみなり


 彼岸ひがん此岸しがんの 狭間はざまの なみなり



 七芽しちがみ 九山くざんを泳ぎ 那落ならく送るがマムシにて

 十稲ととう踏み 十炎とえん降らすはカガチなり


 七夢しちむ裂き 六雨ろくうらすアオダイショウ

 九雪くせつ誘うがシロマダラ


 ひゃくいかずちシマ鳴らし

 八病はちびょうしてジムグリうた


 九情くじょうみ 千桜せんおう散らし 刹界さっかい伏したるヒバカリ酔えば

 そうとむらいてタカチホ去りぬ



 なみなり なみなり

 われら なみなり


 なみにあらねど われら なみなり


 名呼べ 名を呼べ

 迷い子 名を呼べ


 わが名呼ばねば 七夜しちやは明けず

 わが名呼ばねば 船は巡らじ

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