ウェルカム・トゥー・ザ・カオス・クラブ

綾川知也

Smells Like Chaos Club Sprits

 東京駅前は既に大惨事。


 赤レンガ造りの丸の内口駅舎は窓から紅蓮の炎をあげ、白い窓枠からは真っ黒な煙が吐き出されていた。

 時刻は午後五時。夕日は既にビルの間に消え、秋の空気は肌寒さを感じる。


「どうしてこんな事になっちゃたの?」


 僕の目の前で現在進行中の大騒ぎを理解したくない。



 


 この東京駅前の大惨事を説明するには時間を巻き戻す必要がある。


 話を五時間前に戻そう。


******


 僕はユウヤ。

 ブラック魔法ギルドで、システム開発に関するギル畜をしている。

 ギル畜の仕事は大変だ。標準的なシステム開発ギル畜の生活を見てみよう。


 朝食を食べてバグ取り。昼ご飯食べてバグ取り。晩ご飯食べてバグ取り。(※a)

 そして、深夜になってから、ようやく自分のプログラミング。

 これの繰り返し。


 僕は諸事情があって、異世界の中世スコットランドで生活している。

 けれど、転生プログラムにバグがあるらしい。


 そんなこともあって、バグ修正の為に、僕は東京駅の丸の内口駅舎へと転送された。

 つまり、今回の僕は派遣ギルド員になった訳。


 最近は扱いが何かと雑なので、スーツを新調したいと思ってる。

 今回バグ修正で、給料がアップするなら、いい生地でスーツを仕立てたい。

 ネクタイだって良いのを選びたい。



 しかし、飛ばされたのはいいんだけど、バグ修正するにしてもPCないんですけど?


 午前十二時。昼の東京駅は人通りも多い。

 途方に暮れていたら、僕の目の前に女子高生が居た。


 短く切り揃えられた黒髪は艶やかで、目元は涼しく背筋も真っ直ぐ。居住まいは正しい。


「ねえ、あなた」

 その女子高生は僕に話しかけてきた。

 関わりたくない。反射的にそう思った。


 認めよう。彼女は美少女だ。

 目は青みを帯びており、伸ばされた髪はサラサラで、絹糸のように細い。


 でも、間違っている。

 何故なら彼女の片手にガトリングガンがぶら下げられていたからだ。


 何だコレWhat’s the hell


「あなた、この世界の住人じゃないわよね? 私は緋山アリス。あなたの名前を聞きたいのだけれども」


 彼女の顔が近づいている。この娘。女の子って自覚があるんだろうか?

 パーソナル・スペースが近すぎる。

 風に彼女の髪がさらわれ、甘い匂いが鼻をくすぐる。


「僕はユウヤって言うんだけど。ええと、それでアリスちゃんは、どうしたのかな?」

「あなたから異世界から来た感覚を感じるの」


 何、この娘!

 アリスから、いきなりデッドボールを投げられた。

 アイ・アム・デッド。

 僕は一球目からスリーアウト。


 異世界から来たって!

 そういうのってわかるものなの?


「そうなんだ。うーん、そういうのって、わかるものなの?」

「わかるわよ。だって私は魔法使いだから」


 何だろう、この展開。

 普段ならイタイ子確定で終わりだけど、僕の世界では魔法は当たり前に存在している。

 もっとも、魔法開発は生臭いけど。


 しかし、アリスの発言に僕は驚きは隠せない。

「えー、マジで!」

 と、反射的に叫んでいたからだ。


「ええ、本当よ。私、自分の世界に帰りたいのだけれど。あなたなら何とかできそうね」

 サラリと彼女は髪をすくった。

 元より彼女は僕より背が低い。目線を白い首筋を沿わしてゆくと、広く開けられた胸が視界に飛び込んできた。


「ちょっと、ユウヤ。あなた、私の話を聞いてるの?」

「あっ、ごめん。ちょっと意識が別の所に吸い付けられていて」

「そう。あなたなら何とかできそうね。とにかく護衛対象者に危険が及ぶ可能性があるから、未然にそれを防がなくてはならないの。急いで帰りたいのだけれど」


 アリスは僕の視線について追求してこなかった。

 そういや、彼女は”自分の世界に帰りたい”と言っていた。

 となると、彼女も僕と同様に、この世界へと飛ばされてきたのだろう。


 でも、彼女の世界はどうにも不穏そう。

 それはそうだろう……


「そうだね。僕もそれをしに来たんだ。アリスちゃんのも同じ原因だと思うよ」

「そう。直してくれるのね。それは助かるわ」

 嬉しそうに彼女は笑って見せた。


 でもさ、アリス。

 君は嬉しそうにしてるけど、手にしてるガトリングガンを何とかして欲しい。

 東京駅前でどうして、そんな物騒なものを持ってるの?

 通り過ぎてる人達の視線とか気付かないの?

 昨期から皆がチラチラ、こっちを見てるんだけど。

 

 無自覚系なの、この娘?


 そんな所でアリスは声をあげた。

「あっ、あそこに同じ立場の人が居るわ」


 アリスの指先を辿ると、そこに美少女が居た。

 真っ直ぐに伸ばされた指先はちょっと沿っていて、”指先からエロス”なんて思ってしまった。


 指さされた美少女は僕とアリスの存在に気付いたらしい。

 ゆっくりとこちらへ足を進めてきた。

 彼女は容姿端麗で、一つ一つの動作に隙がない。

 

 その美少女の髪の色は栗毛色に近く、垢抜けた感じがする。

 ちょっぴり化粧もしてそうだ。アイラインがスッキリしている。

 彼女は僕とアリスの所へやって来て、こう言った。


「どうしたのかしら、いきなりこの世界に飛ばされて来ちゃったんだけど。勝手がわからなくって」

 彼女の仕草は、とても女の子っぽい。口元に手を当てて、困惑した表情をしている。

「ええと、僕はユウヤって言うんだけど。君も飛ばされてきたの?」

「ええ、そうなのよ。悪の組織を根絶させないといけないの」


 何だろう?

 根絶って言葉に違和感を覚えた。

 口元に可愛らしく手を当てているけれど、頭の中で警告音が鳴り始めた。


「ええと、こちらの女の子はアリスちゃん。同じく自分の世界から飛ばされてきたみたい」

「私の名前は井吹佳奈いぶきかな。カナって呼んで。でも、あなた達もそうなのね。本当に困ったわねえ。どうしよう」


 困ったと言いたいのは僕の方。


 カナは可愛らしく両手を口元に当てて、困ったアピールしている。


 そこはいい。そこには何も問題はない。

 だが、彼女のポケットからメリケンサックが、顔を覗かせていた。(※b)

 これが、これこそが僕が困った原因。


 この先、どうなるんだろう?


 頭の中で鳴っている警告音は更に大きくなっている。

 もはや、非常ベルと言っても差し支えない。


「よろしく、カナさん。私はアリス。あなたと同じように、こちらの世界に飛ばされたのよ」

「アリスさんね。こちらこそ、よろしくお願いね」

 カナはウィンクをして見せた。


 ウィンクの反動だか何だかしらないが、メリケンサックがポケットから落ちてきた。

 そのメリケンサックを見てみると、鋼鉄の拳にネットリと血が付着している。妙に生々しい。

 魔法少女って、そういう感じとは無縁だと思うんだけど?


「アリスさん、私もあなた達が異世界から来たのわかるわ。私も魔法少女だから、そういうのってわかるのよね」

「カナさんもそうなのね。私も急いで帰らなくてはならないのだけど」

「私、バイトがあって早く帰らなきゃ、お給料減らされちゃうの。今月は苦しいからお給料減らされたらピンチなのよ」

 美少女二人が握手するのは絵にはなる。

 だけど……


 何だろう?

 カナの発言から生活臭がしてきている。魔法少女と言っているけど、話が妙に生臭い。


 仕草と発言が一致していない。

 先ほどのメリケンサックは、いつの間にか彼女の足で隠されていた。


「そうね。でも、どうしたものかしら。ユウヤだったら解決できるのよね?」

 その発言を聞いて、カナの表情が一変した。

 次の瞬間に僕のネクタイが、カナに捕まれていた。


「お前が原因か? お前、悪だな。悪の組織の一員なんだろ? ほら、何とか言えよ」

 カナの態度が急変した。

 オカシイ。

 この娘、主に頭がオカシイ。


「ちょっ、ちょっと、カナちゃん。落ち着いて。僕は……」

「うるせえ、今すぐぶっ殺してやるから、一々口答えするんじゃねえ」


 ヤバい。

 カナは人の話を聞かない人だ。

 彼女は憎々しげに口元を歪め、僕の首をねじ切ろうとしている。

 僕の首の骨は崩壊寸前。既にヒビが入っていると思う。


「ちょっと待ちなさい!」


 アリスがそう言ったかと思うと、ガトリングガンを斉射した。

 毎秒30~60発の猛威を振るう暴力が、東京駅前で木霊する。

 空間を引き裂くと思われるほどの轟音が殺到した。


 見れば足下のコンクリートが無残にも破壊されている。いつの間にか、カナが僕のネクタイを緩めていた。


 よかった。僕は死ななくて済んだらしい。

 なんとか生きながらえることができた僕。


 安堵して、飛びだそうとしている僕の魂を掴んだのはアリスの言葉だった。


「それで、ユウヤ。あなたはどうやってするの?」


 完全に忘れていた。そういやバグ修正に来たんだった。


 周りを見ると、先ほどのガトリングガンの斉射もあって周囲は大騒ぎだ。


「ええと、取りあえずPCがあればいいかな?」

「そうなのね。わかったわ。カナさん、あなたも協力してくれるかしら。この人、どうも元の世界に戻る修正をしようとしてるらしいの」

「ちっ、それを先に言えってんだよ!」


 カナは今にでもツバを吐きそうな顔つき。ここまで性格が逆転されると清々しい。

 しかし、彼女の手にはメリケンサックが付けられている。


 血にまみれたソレは、きっと悪人認定された人々の魂を削ってきたんだと思う。


「とりあえずPCを調達すればいいのね。この近くにPCぐらいあるでしょう」

 アリスのガトリングガンからは煙がまだ出てる。

 焼けた銃身からガンオイルの匂いがして、僕の心を戦慄せんりつさせた。


 ねえ、この状態が既にバグじゃないの?

 


******



 アリスとカナによって、東京駅近くにあった会社が強襲された。

 あの一連の騒動は余り思い出したくない。


 アリスのガトリングガンが火を噴き、カナのメリケンサックが血飛沫を沢山作った。


 獣の咆哮ほうこうが聞こえた気がするが、幻聴ということにしておこう。

 女子高生がこんな暴力とか本気で何か間違っている。

 

 僕はPCの電源を入れ、カタカタとキーボードを打っている。

 大まかなのだがバグは、ここにある気がする。


 バグはダークウェブ上にあるみたいだけど、どうも再現性がないバグらしい。(※c)

 この手のバグはかなりタチが悪い。


 既に昼ご飯を食べ終わり、時間は午後一時。


 どうにもバグが見付からない。

 なまじ再現性がないだけに、問題箇所を特定するのに時間がかかる。


 ビルの外でパトカーのサイレンが聞こえてきた。


 そりゃそうだろう。

 オフィスを占拠する為に、圧倒的な武力で解決すれば、普通はそうなる。

 だが、アリスとカナはそんなことは日常的らしい。


 彼女達がどういう生活しているのか知らないが、僕を巻き込まないで欲しい。


 早くなんとかしないと。


 先ほどから、アリスとカナにはバグ探しの手伝いをしてもらっている。

 修正箇所を見付けるのは大変な作業だ。

 アリスは黙々と作業を続けるが、カナはスマホでゲームをしてるっぽい。


 とんでもねえよ、この女カナ

 最初の出会いから印象がガラリと変わっている。

 既に地を隠そうともしていない。オマケに机の上に足を乗っけて、鼻歌まで歌い出す始末。


「ねえ、カナちゃん。バグ取りに協力してくれないかなあ? バグの箇所を特定できないと、色々とヤバいんだけど」

「ああん? で、手伝ったら、バイト料とかくれるわけ?」


 どうしよう?

 カナは僕の話を聞いてくれない。

 今は人手が必要なんですけど?

 こうして話しをしてる時間も勿体もったいないんですけど?


「カナ、あなたも手伝ってくれないかしら?」

「ええ、マジかよ。アリスが言うなら仕方ねえな」


 カナは鼻息を吐きながら、キーボードへと向かった。


 これが午後一時の状態だった。




 そして、一時間が経過し、午後二時になった。


 カナはPCを叩き壊した。

 ディスプレーは粉砕され、PCの基盤は剥き出しになっている。

 カナは累計すると既に十台PCを壊した。六分毎に彼女はキレてPCを叩き壊す。


 勘弁して欲しい。


 それでなくとも、外では拡声器を持った機動隊から「早く出てきなさい」と催促されている。

 外を見たくない。現実から逃避したい。


 でも、バグはあって、そこから意識が逸らせない。


 既に僕の髪が乱れて、目がチカチカする。

 アリスから舌打ちが聞こえたような気がしたが、そこには触れないでおこう。

 カナに至っては髪が乱れている。


 どうしたらいいの?




 そして、更に一時間が経過した。時間は三時さんじ

 言わせてもらうなら、僕の目の前も惨事さんじ


 新たな事実が判明した。

 アリスがキレるのは二時間周期だったらしい。


 突然、彼女が立ち上がったかと思うと、ガトリングガンが盛大に火を噴いた。


 轟音と共に吐き出される薬莢が、僕の足下まで転がって来たが、アリスと目を合わすことができなかった。

 理由はアリスの鼻息が荒かったから。


 僕は本気で命の危険を感じた。


 既にカナは累計三十台のPCを壊している。指数関数的に破壊PC数が増えている。

 一日終わる頃には地球上のPCは全て壊される可能性がある。


 外に居る機動隊。拡声器から投降を呼びかけているが、そんな事に構ってられない。


 本音を言うのであれば、僕は投降したい。

 逮捕される時って、揉みくちゃにされるだろうが、それでも構わない。

 今の僕の状態は既に地獄だ。


 僕の髪は乱雑になっており、目がカピカピする。幻影が見えてきそう。

 アリスから、小さく「氏ね」と言葉が聞こえた気がしたが、そこには触れないでおこう。

 カナに至っては髪を振り乱している。スカートの裾をまくって破壊活動に従事している。





 午後四時になった。


 カナの破壊PC数。それは累計七十台を達成した。

 つまり、僕の推測は正しかった訳だ。経過時間と共に破壊PC数が指数関数的に増加している。


 今じゃ、1分30秒毎にPCを壊している。

 席に付き、PCが起動している最中にカナはPCを壊す。


 このカナ、絶対にバグを修正する気がない。

 断言してもいい。もはや修正する気が微塵も見えない。PCを壊す理由を探しているだけだ。


 そんな事を思っていると、アリスが立ち上がって、ガトリングガンを斉射した。

 隣でガトリングガンを発砲される身にもなって欲しい。


 排出された薬莢って、実際かなり熱い。

 先ほど、首筋にあたって仰け反ったほどだ。火傷になっているかもしれず、ヒリヒリする。


 なるほど、アリスがキレる時間は指数関数的に短縮されるらしい。

 キレる周期が短くなってきている。


 推定すると、次にアリスがキレるのは三十分後になるだろう。

 恐らく、四時半に彼女はキレる。


 このフロアは広い。規模的には三百人ほどが作業できるほど。

 だが、おおよそ半分のPCは破壊されている。


 これはヤバい展開だが、バグはまだ見つからない。


 僕の髪は爆発しており、目が霞んできた。もはやコードがわからなくなってきた。

 アリスがハッキリと「殺○」と言っていたが、そこには触れないでおこう。

 カナに至っては中指を立てて「F○CK YOU」と絶叫している。彼女のブラウスがはだけているが、こちらはそれどころではない。


 外に居る機動隊は、拡声器から突撃するぞ、と言ってるが、極限状態のギル畜に正気を求めて貰っても困る。


 そもそも、開発現場は何時だって絶叫調にクレイジーなのだから。




 そして、三十分後。


 僕の側頭部にゴリゴリと金属が当たる感触がある。

 メリケンサックとガトリングガン。


 このフロアーにあったPCは破壊され尽くされ、アリスとカナは僕のPCを壊したがっている。

 彼女達のPC破壊周期は僕の予想を遙かに上回っていた。


 今、僕は声高に主張をしたい。


 この世界って絶対に間違っている。


 オカシイ。

 根本的にオカシイ。 


「ちょっと、ユウヤ。そのPC壊してもいいわよね」

 アリスの目が少しだけ血走っていそう。口調は穏やかだが、激情が隠されている。


「なあ、壊したいんだけどよ。そのPC。絶対にそのPCって悪だろ? 悪だよな? いいから頷けよ。壊してやっから」

 壊れているのは君だと言いたい。僕だって壊れている。


 で、バグの原因を発見!

 ああ、そういうことか!


 バグは巧妙な仕組みになっていた。

 どうやら、一定期間放って置かれたキャラが、平行世界に存在していた場合、バグが発動する仕組みになっている。


 道理で見付からない訳だ。

 奇跡的なタイミングで発生したとしか思えない。


 そんなこんなでバグを修正する。


 再現性のないバグを修正した時って、最高にテンションが上がる。

 僕ってスゲー、みたいなの!


 自分でない自分が出てきて、拍手喝采の大騒ぎ。

 何でもできるぞっていう万能感。今なら主人公になれるかもしれない。


 僕の頭の中で洋々たる海が広がる。

 名付けるなら「ナルシストの海」だ。


 達成感で軽く意識が飛びそうになる。

 ようやくバグが修正できた。


「これで帰れるようになったよ。バグは修正したから」

「そうなの」

「よし、わかった」


 それを合図に僕が操作していたPCが破壊された。





 そして、四時四十五分。 


 僕とアリスとカナはビルの入り口に来ている。

 見ればバリケードを組んだ機動隊がズラリと並び、鉄壁を築いている。


「さて、東京駅。つまり、私達が出現した場所に行けば戻れるのよね?」

「そうだよ、アリスちゃん」

「さて、どっからボコろうかな」

「カナちゃん、あのさ。手加減はしてあげてね。あの人達も生きてるんだからさ」


 二人は異口同音に言葉を発した。

「そんなのはどうでもいいでしょ?」

「……」



 そして、午後五時になる。

 目の前に繰り広げられている、大惨事を理解したくない。


「アリスちゃん、もう戻れるからさ。東京駅とか壊さなくてもいいと思うんだけど?」


 僕の声を聞いて、アリスは黒髪をたなびかせて、僕の方を見た。

「ようやく怒りも収まったわね。そうしたら私は帰るわね。ありがとう、スッキリしたわ」

 そんな事を言って、アリスは自分の世界へと戻っていった。


 そして、僕はカナの肩に手をかけた。

 カナは機動隊員をフルボッコにしている。

 絶対、これは正義じゃないと思う。魔法少女的に間違っていると思う。


「カナちゃん。もう帰ろうよ。帰ろうと思ったら帰れるからさ」

「こんなもんか。いい加減、PC作業でイライラ感がハンバなかったからな」

 いや、君の場合、主にPCを壊してただけだよね、とは言えない。


「いや、ここまですることないでしょ? ていうか、その人、気絶してるじゃん」


「いいよ、別に。お陰でスッキリした。じゃあな、世話になったな」

 そう言って、カナは自分の世界に戻っていった。


 残された僕は東京駅前周辺を眺める。

 こんなヒドいことになるとは思いもしなかった。


 死屍累々ししるいるい

 見渡す限り立っている人間が僕しかいない。誰もが口々に苦悶くもんの声をあげていた。

 絶望に満ちた荒野に立っている気分。吹き抜ける風が肌寒い。



 まあ、再現性のないバグが発生した開発現場って、こういう感じなんだよね。



 肩をすくめた後、僕は僕の世界に戻ることにした。


 でも、その前に全てのシステム業界に携わるギル畜に応援歌を送ろう。

 君なら大丈夫You Yeah



<Supplement>

 この物語は以下の物語から構成されています。


「退かずのアリス~はじめる編~」

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054886727680

 Copyright 正宗あきら

 

「期待していた魔法少女と違うんですけど、他の方になりませんか?」

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054886756957

 Copyright 夕凪 春


「異世界.アンダーグラウンド ー GrayHacker in DarkWeb ー」

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054885882807

 Copyright 綾川知也




 ※a バグ取り


 プログラム内にある間違いを見付け、修正する作業を指す。

 プログラマPGシステムエンジニアSEグループリーダーGLグループマネージャーGMの大半が巻き込まれる人災。


 週末進捗報告会で複数バグがあると報告された場合、その人災は恐竜を絶滅させたメネシス並の威力になる。

 J《ジュール》換算をした場合、1バグ辺り3.14×10^17Jジュールの威力がある。

 今回の終末的な週末には、2つ報告されたので、6.28×10^17Jジュール規模の人災が発生した。


 会議中、ギル畜はバグ野郎を絞め殺したいな、と本気で思った。

 某国から変なバグ入りソースを送ってこられて、ただでさえ、開発現場は殺伐としている。

 なのに、内部犯行者が居る訳である。

 本気で絞め殺したい。

 

 普段から、こういうことを書いているので、万が一、バグ野郎が交通事故に遭ったのだとしても、ギル畜が第一容疑者として上がってくる可能性がある。

 だが、普段からバグ取りさせられているギル畜の気持ちなど誰もわからないと思う。

 むしろ、尋問されるのだったら、開発現場から連れ出される訳なので、そっちの方がいいかも、と考えてしまう程である。

 むしろ、バグ野郎が交通事故にあって、尋問されたいぐらいである。


※b メリケンサック

 拳に嵌める金属製の武器。打撃力を強化する。

 バグ野郎をこれを付けて殴りたいが、携帯している時点で軽犯罪法にかかるので注意。

 場合にもよるが、職務質問されたら黒歴史が一つ作れる。


 (安全確認済み:18/10/2018)

 https://ja.wikipedia.org/wiki/ナックルダスター


※c 再現性のないバグ


 (安全確認済み:18/10/2018)

 https://ja.wikipedia.org/wiki/特異なバグ


 ギル畜にとって、最大、最強の敵。最狂にして最凶である。生命を脅かす存在。

 多くのギル畜はこれによって、理不尽に苦しめられてきている。

 ボーアバグならまだしも、ハイゼンバグ、マンデルバグ となると、開発現場は瞬時に地獄になる。

 土日出勤は当たり前、一日千時間ぐらいないと解決は困難。

 納期前でこれが発生されると、ギル畜は悲鳴をあげて、自動的に近況報告に爆撃を開始する。


カオスChoseクラブClub・メンバー紹介


正宗あきら

https://kakuyomu.jp/users/sabmari53

 カオスクラブ構成員

 女子高生、父親がSE。

 疲れ果てた父親から愚痴を延々と聞かされる。

 愚痴・無限ループにより、女子高生内にSE的な人格が発生。

 正宗あきらとは、その人格を指す。

 尚、先週にカクヨム上で発生した、近況報告爆撃の被害者の一人である。

 愚痴をキチンと拾うクール・ガイ。


 先週発生した近況報告爆撃の犯人の供述によると徹夜確定し、たまったストレス発散により、犯行に及んだとの事。

 反省はしていないようである。


夕凪 春

 https://kakuyomu.jp/users/luckyyu

 カオスクラブ構成員

 彼の存在はシークレットである。某国のスパイである可能性がある。

 しかし、アタッカーであるのは間違いない。

 世の中は小説よりも奇なり、を地道に実行する人物。

 尚、先週にカクヨム上で発生した、近況報告爆撃の被害者の一人である。

 愚痴に心優しい対応してくれるナイス・ガイ。

 ギル畜が近況報告爆撃開始時、たまたま政次あきらの近況報告に書き込みがあった為に巻き込まれてしまう。


三谷 朱花

 https://kakuyomu.jp/users/syuka_mitani

 準カオスクラブ構成員

 思いつきで無茶振りをしてくる、不審者テロの主犯。

 カオスクラブには顔を出していないが、カオスクラブ準構成員ではある。

 本小説の震源地であるのは間違いないと、本事件担当関係者から推測されている。

 尚、先週にカクヨム上で発生した、近況報告爆撃の被害者の一人である。

 毎度毎度ギル畜が愚痴に心のある対応してくれるナイス・レディー。


綾川知也

 カオスクラブ構成員

 別名、綾川知子。

 ギル畜。日夜、バグを修正し続けている同情すべき存在。

 

 尚、本小説が書かれたのは、三谷朱花が頻繁に発砲してくる「無茶振り」を、政次あきらが拾い支援射撃を開始、夕凪春が最終的にアタッカーとして突撃することにより引き起こされた。


以下は近隣住民の証言

 いつかあの人達何かやらかすと思っていました。


</Supplement>

<Image Music>

 Smells Like カオスクラブ Spirit 18/10/2018

 (安全確認済み:18/10/2018)

 https://www.youtube.com/watch?v=jS826PwLHdQ

</Image Music>

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