第5話 本が好きになったきっかけ  レオ=レオニ『スイミー』


 小学二年生の時に、国語の教科書に載っていた『スイミー』という話を読んだ。

 海の中を描いた美しい絵と、小さなスイミーの勇気の物語に、私は心を鷲摑みにされていた。


 その中でも、一番惹かれたのは、以下のような文章だった。




 「にじいろのゼリーのようなクラゲ」

 「すいちゅうブルドーザーのようないせえび」

 「ドロップみたいないわからはえているコンブやワカメの林」




 見たことのない景色が、読んでいる私の目の前に広がった。

 生物や景色を、身近なものなどで例えていたのが、当時の私には目新しく、きっと初めて、「本って面白い!」と感じることが出来たのだ。


 それからは、図書室に足繁く通い、レオ=レオニの絵本を片っ端から借りて、読んでいった。

 その後は別の絵本を、学年が上がると、厚みのある児童書を読み、その読書欲は、現在でも続き、いつの間にか自分で小説を書くほどになった。


 さて、私は大人になってから、『スイミー』の絵本を購入した。

 久しぶりに再読して、一番驚いたのは「絵が多い!」ということだった。


 教科書に載る分には、ページ数が限られているので、数枚の絵が削られて、文をいくつかまとめて載せられていた。

 私が想像していたクラゲやイセエビの絵は、教科書に載せられていなかった。今、手元に当時の教科書が無いため、記憶を頼りにそう言っているのだが。


 改めて、言葉だけで光景を空想させる、本の力というのを感じられた。

 これは、レオ=レオニの想像力と、谷川俊太郎の名訳によるものだ。

 何度見ても、「すいちゅうブルドーザー」とイセエビが例えられているのには、否応にもわくわくさせられてしまう。


 それなりに本を読んできて、「こんな文章が書きたい!」と思うことはたくさんあったが、その根底には、小学二年生の時に呼んだ、『スイミー』が息づいているのだと、大人になっても感じることが出来る。

 そして、その事を思い返すたびに、「本が好きになって良かった」と、心底思うのだ。


 私を本が好きにしてくれた、レオ=レオニと谷川俊太郎への感謝を込めて。

 


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