2話

別に私が誰と付き合おうと私の勝手だ。由利に迷惑をかけているわけではないのだからどっちでもいいじゃないか。

「あなたが、柚利愛と?」

朔さんを不審者を見るような目で頭の先から足の爪先まで見つめる母。失礼にも程がある。

その視線に気づいている朔さんには不快な思いをさせているはずなのに朔さんはいつもの笑みを浮かべていた。

まるで母の視線には気づいていないかのように。

あそこまであからさまに見られて気づかないのは緋紅ぐらいだろう。

それに長い付き合いって訳でもないけど。知り合ってまだ一年も経っていないから。それでも分かる。

朔さんは笑っているけど目の奥が冷めている。

底冷えするぐらいに。

そりゃあ、あんな不躾に見られたら怒るよね。

母達がこれ以上、朔さんに失礼な態度をとらなければいいんだけど、無理だろうな。

「友達が言ってた。シャノワールの店長は元ホストだって」

由利が口を挟んできた。

しかも由利の言葉で母の眉間のシワが深くなる。

母は風俗で働く人をあまり良く思ってはいない。

緋とに媚て、楽しく話して、お酒を飲むだけでお金を稼げる落ちこぼれの仕事だと言っているのを聞いたことがある。

でも私はそういう仕事をしたことがないから分からないけど、楽な仕事はないと思う。

お母さんはいつも自分の仕事は大変だ、自分が一番苦労しているというがお母さんの理論で行くのならパートのお母さんよりも正社員のお父さんの方が大変なのではないだろうか?

まぁ、人間はいつだって自分よ都合の悪いことは見ないようにする。

臭いものには蓋をしろ。

これは人が最も得意とする行為に思える。

「どうして柚利愛とお付き合いをされているんですか?由利なら分かりますけど、この子は」

そう言って母は私を見る。

そんなにアルビノが人に好かれることが可笑しいのだろうか。

アルビノだって人間だ。

人を好きになることも人に好かれることもある。とは言え、私も少し前までは誰も私のことを好きにならないと思っていた。

私を読んだアルビノだからと差別する人間に怒りを感じながら仕方がないと諦め、私自身が差別を受け入れていた。

私は怒りを感じながら、心に傷を負いながら、嘆きながら人と違うからと私は私を卑下していた。

今思えば実に馬鹿らしいことだ。私が私を認めなくてどうする。

「朔さんは良いひとよ、お母さん。

自分のお店をもつのが夢でホストで頑張って稼いで念願のお店をも手に入れたのよ」

「柚利愛、あなたは由利と違って本当にダメな子ね。

お母さんの言う通りにしていれば間違いはないから。あなたは少し黙っていなさい」

「それは虐待と同じです」

朔さんはドスの聞いた声でそう母を嗜めた。

母はビックリし、そして底冷えするような朔さんの目を見て僅かに後退りした。

けれど母親としての矜恃なんて持ってはいいないだろうが変なプライドだけはあるのでホストの朔さんに臆するのが嫌なようで何とかその場に留まっていた。

「あなたのような人とお付き合いがあると近所にあらぬ噂を立てられることになるわ。

ましてや柚利愛は由利と違ってご近所の評判が悪いんだから。これ以上、変な噂を立てられるのは迷惑なの」

近所の評判って私、聞いたことがないけど。

「正当な評価ではありません。柚利愛はしっかりした子ですし、真面目に働いてくれるのでシャノワールとしても助かっています。

気配りもできるのでお客さんに評判はいいです」

「男の、でしょ」

皮肉的に笑みを作り母は嗤った。どこか自嘲を含んでいるような笑みだった。

「男女関係なくです」

きっぱりと朔さんは母の言葉を訂正する。

だが母は信じない、信じたくないように目を逸らした。

そんなに私を悪人にしたいのか、悪人でないと困るのか。

私の存在が母を苦しめる。それは生れてきたときからずっとそうだった。

そのことが、ただただ悲しい。

「仕事があるので今日はこれで失礼します。また改めてご挨拶させて頂きます。

どうか、曇りなき目で柚利愛さんのことを見てあげてください。

柚利愛、行こう」

「はい。行ってきます」

母からの返事はない。 目も合わせてはくれなかった。

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