第48話 ばあちゃんは何もかもお見通し・2

 あれから二か月ほど経った。相変わらずチヒロはくしゃみした拍子に花や木の実を散らしたりしていたが、魔力は安定しつつあるようだ。


 マコトはマコトで祖母の元で朝稽古をつけてもらっていた。


「違うわよ、その構えではすぐに攻撃には転じられないわよ」


「こうか?」


「角度が変ねえ。もうちょっと腕をあげて」


「これでどう?」


「OK、合格。その感覚を忘れないでね」


「そうか……この角度か」


「そうそう。まあ、この構えだとすぐに攻撃しなくてはならないから、試合ではやらない構えね」


「でも、異世界こちらだと実践しないと捕まえられないな」


「確かに意表は付けるけど、防御ががら空きになるからリスクも高いのよ」


 マコトはいまだに祖母に良民リィアンミンのことや元の世界への送還計画のことを話せずにいた。

 このまま祖母を一人異世界に置いて行ってしまうこと、しかし、親友の敵討ちもまた大事なことでもある。そういった迷いがぐるぐると頭を支配していた。


「マコト、ずっと気になっていたけど、あんた迷いがあるわね」


 言われてマコトはギクリとした。


「こういう武道をしていると、迷いのある人間は型も動きも不安定になるのがわかるわ。試合ならば、そこを突かれて一本取られるわね」


「ばあちゃん……」


「私のことは気にしなくていいのよ。仕事は全力で取り組みなさい」


 まだ何も言っていないのに、何もかも見透かしたような祖母の物言いには本当に驚かされる。


「それにね、フィルさんとお付き合いすることになったから、私は一人ではないわ」


「ファッ?!」


「まあ、お互いに配偶者亡くした同士だし、同じ職場で働いているからね。意気投合するわよ」


 マコトは唖然としていた。何もかも初耳だ。


「それにフィルさんは転生組だから元の世界には一緒に行けないし、仮に行けたとしても言葉が通じなくなるわね。さすがにこの年で一からドイツ語学ぶよりは、こっちで言語変換魔法が効いた状態の方が便利だし」


「え、えーと、おめでとう……? なのか?」


めぇん!!」


 マコトが戸惑ったように、答えているとタマキが勢いよくマコトの隙をついて、面を打った。防具越しでもカァン! と小気味いい音が響く。


「はい、隙あり! 一本!」


「ず、ずりぃぞ!」


なぁに、言ってるの。実践だと死んでいるわよ。敵は待ってくれないわよ」


「ちっくしょう……」



「はい、そろそろ朝練終わり。朝食作りに行かないとね」


「……なあ、ばあちゃんは本当にいいのか?」


「何がよ?」


「孫が危険な目に遭ったり、元の世界に帰ったりすることにさ」


「だから構わないわよ、こっちでも一人ではないからね」


「……」


「あんたは自分の信念に基づいて仕事しているのでしょ。大丈夫よ、智樹君の仇を取ってきなさい」


「ばあちゃん……」


 本当に祖母にはかなわない。何から何までお見通しなのだ。


「でも、道具はどうするの? かさばるから移動に大変じゃない?」


「そのあたりはアレク達に相談して、魔法で何かないか聞いてみる。例えばコンパクトにしていざという時に大きくならないかとかさ」


「そうねえ。まあ、武器は竹はないから木製だし、チヒロちゃんの魔法が役に立つかもしれないわね」


「そうだな」


「そういえば、あんたはチヒロちゃんとはどうなったのよ?」


「は?」


「あんたが敵討ちするのはともかく、置いていくことになるけど、どうすんの?」


「ば、ばあちゃん?」


 唐突に何を言い出すかと思えば意味がわからない。


「まあ、単なるホームシックではなく理由ある帰還だから仕方ないかしらね」


「あのー……」


「まあ、私は異世界ここにいるから、特例であんたを呼び寄せできるかも」


「いや、その、ばあちゃん……」


「さ、そろそろ朝稽古を終わらせましょ。ご飯にしなきゃ」


 なんだか、いつかのアレクと言い、いろいろ誤解を受けている気がする。マコトは防具を外しながら、ちゃんと誤解を解いた方がいいのかもしれないと考えたが、間もなくそれどころではなくなった。






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