第47話 緑の属性
「キツネが草に絡まった?」
お昼を食べて執務室へ急遽戻ってきたチヒロから話を聞いた一同が首を傾げていた。
「ええ、急に周囲の草が伸びて。何かご存知ないでしょうかアレク様」
アレクは書棚から何かの本を取り出し、しばらくページをめくり、考え始めた。
「ふむ、一応あるのか……うむ」
何やらぶつぶつ言っている。答えを待っているこちら側としては、なんだかやきもきとする。しばらく本をめくったのちにアレクが顔をあげて 放ったのは意外な一言だった。
「もしかしたら、チヒロは『緑の属性』かもしれぬ」
「「「緑?」」」
「ああ、かなり昔の記録になるが、ある異世界人が植物に関する魔法を扱えたという記述がある。今の話のように、植物を成長促進させて敵の動きを封じるなどだ。この記録でも属性が特定できずに『緑の属性』とした、とある。確かに検査でチヒロに反応していた魔石は光、水、土、風。全て植物が育つのに必要なものだな、そういうことだったのか」
「あたしの属性が緑……」
「もっと詳しく調べないとならないが、ほぼ決まりだな」
「すげえじゃん、チヒロ! 属性が決まったな!」
マコトが肩をポンと叩いて祝福する。
「良かった、落ちこぼれじゃなかったんだ」
チヒロが杖を持ったまま泣き出した。
「え?! おい、大袈裟だな」
「ずっと、ずっと未確定で落ちこぼれだと思っていたから。私は強制送還にはならないけど、ずっと引け目感じていたの」
チヒロが泣いているそばから何かが上から落ちてきた。
「痛てっ!」
(なんだこれ? このとげとげは栗のイガだよな? どっから来た?)
「良かった、本当に良かった。うわーん!」
「うわ、なんだよ! これ! 痛い痛い痛い!」
「机の下に潜れ、マコト!」
「いや、さすがにこの量は部屋から出た方がいい」
チヒロが盛大に泣くと同時に大量の栗のイガが降り、執務室は軽いパニックに陥った。
「うう……ごべんなすぁい……」
「もう少し加減をしろよ」
チヒロが泣き止んだ後、部屋いっぱいに落ちた栗のイガをマコトは二人で片付けていた。こういう掃除は下っ端の仕事だから、アレク達は別室で仕事をしている。
アレク曰く、「属性が出てきて魔力が安定するまでにこういうことが時折ある」のだそうな。
水属性の者が感情を爆発させて洪水を引き起こす、光属性の者だとスパークを起こすなどということもあるそうだ。チヒロは緑属性なので植物が降ってきたということだ。
(火属性でなくて良かった。そうでないとこの教会が丸焼けになるな)
「しかし、降ってきたのがまだ食べられるものでよかったな。毒性ある花とか、スギ花粉だと洒落にならんし。あとでカフェに持ち込んで焼き栗かマロングラッセでも作ってもらうか」
「はーい……」
そう言いながら借りてきた軍手と手袋でイガを拾い集めていく。
「しかし、属性が決まったとはいえ、手探りなんだな」
「うん、あんな古い記録しか無いということは本当にレアケースなのだわ」
「戦闘シーンではどんな使い道なんだろうな」
「森でやったような相手の動き封じとか、捕縛ツタがなくても相手を捕獲できるとか?」
それを聞いてマコトは吹き出してしまった。
「なんだよ、捕まえてばかりだな」
「うーん、だって思いつかないよ。あとは砂漠の緑化にも貢献できそうね」
「あ、それ、いいな。平和的利用ってやつだ」
「西部は砂漠化が問題化しているし、呼ばれたら行ってもいいかな」
「まずはカウルーンの決着だな」
「うん、戦いになった時、役に立てるように頑張るよ」
「ああ、頼むぞ」
「さらにその前にこのイガを回収しないとな。どんだけ降ったんだよ。袋三つ目だけどまだ床が見えないぞ。しばらくカフェで栗フェアでもしてもらわないと捌けないな」
「うう……ごめんなさい」
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