第22話 チート無効、それがスキルなり!

「「「チート無効化?」」」


「ああ、過去の勇者摘発でも常人には見切れない攻撃をかわしたり、勇者の魔法攻撃がマコトに対してだけ著しく威力が落ちていた」


 アレクが続けて羊皮紙を何枚か出す。何かの数字がびっしりと書かれている。マコトも勉強のおかげで少し読めるようになっていた。


「勇者の攻撃を数値化したものだ。これを全部説明すると長くなるのでざっくり話すと、勇者の魔法攻撃が通常なら千だとする。しかし、マコトへ向けるとほとんど威力が無くなり、ひとケタからゼロとなる」


「なんと!」


 ブルーノが感嘆の声を上げる。


「武力にしても常人が見切れない動きもマコトは難なくかわし、時には素手でうけとめる。これもチート無効化の効果なのだろう」


 いつかの真剣白刃取りが言われてマコトはむずむずした。あれは咄嗟にやっただけで、まさか本当に剣を取れるとは思わなかったのだ。


「あれ? でも、アレク様。あたしがかけた変身魔法はかかりましたよ?」


 チヒロが疑問を挟む。確かにそうである。魔法無効化というのなら、いつかマコトが変身魔法をかけられてオバチャン化したことはあり得ない。


「それは補助魔法だからだ。マコトへ向けた悪意や攻撃は無効になるが、助ける魔法なら有効なのだと思われる。如何せん、初めてのケースなので推測だらけだが、おそらくそうだろう。だから、チートが効かない、それがお前のチートと言える」


「はあ……」


 全然実感がわかないスキルである。マコトが思い返すと、確かに勇者の動きはとろいと感じたり、魔法も笑っちゃうくらいしょぼかった。それが自分のスキルだったとは。


「まあ、この仕事には最適だ。不法滞在勇者を連行するのにチートを使って抵抗する輩が多いからな」


「チート無効化とは、変わっているが確かに心強いな。摘発もスムーズに行きそうだ」


「じゃ、ジャンジャンと摘発してもらわないと! カルムかヴィオレット支部へ行く?」


 二人がわいわいと話すが、アレクサンドルは書類をマコト達の前に置いた。


「いや、マコトにはいろいろな仕事を学ばせて経験を積んでもらう。今回はこちらの勇者の在留許可申請だ」


「在留許可?」


「ああ、魔王は倒したが、諸事情でこの世界に残留希望している勇者も多い。今回はとある領地の姫と結婚しているため、配偶者ビザでの在留申請だ。今回はブルーノと組んでもらう」


 配偶者、在留資格許可申請、懐かしい響きだ。元の世界でも審査したものだった。早速マコトは書類を手にとって読んでいく。


「ええと。勇者ヒダカ・モンベツ。二二歳、二年前に魔王アドルフを倒し、法改正直前に姫と結婚して暮らしている。『フロルディア配偶者等(一年)』の資格を希望……って、名前が偽名くさいな。って、駅名じゃんっ!」


「エキ?」


「そうか、駅の概念がないのか。俺の世界の地名というか、馬車の発着場の名前とでも言うかな。いや、これは変でしょ」


 簡単にマコトが説明すると、ブルーノは納得しかねるように書類を指さす。


「しかし、ここの書類には『両親が自分の世界の神であるヒダカ・ホンセン』という神を崇拝しているからあやかって名付けられたとあるが、違うのか?」


「……いや、ならば本名だな。両親はアレなだけだ。こないだのナカヤマといい、好きな名前を名乗ればいいのに」


「まあ、嘘は嘘でもまだ許せる類いか、聞き取りをした書記官の勘違いかもな」


 ブルーノは赤いインクで二重線を引き、訂正をする。


「で、魔王倒したご褒美に領主の娘と結婚なのか。直前の婚姻届というのが引っかかるが、ゲームみたいな話だな。領主の娘なら金持ちそうだし、住まいは豪華そうだな」


「ああ、面談の後に自宅を訪ねることになる。そこで本当に婚姻の実態があるか調査をする」


 そう、元の世界でも日本人と戸籍だけの婚姻をして、女は水商売している輩は一定数いた。そんな時は、場合によっては自宅に突撃して調査を行ったものだ。

 夫婦で住んでいるはずなのに、住所へ行くと狭いワンルームであったり、日本人夫の物や服が一切無かったということもあった。


「で、チート封じの俺が関わるということは怪しい案件なのか? 」


「いや、書類の上では怪しくなさそうだ。この結婚相手はフィエルテの北の領地トーネソル公爵の娘とある。そこは名家だから偽装結婚は無いだろう。法改正直前の婚姻届も事実婚だったのを届けたようだし、今回は仕事の流れを学ぶものだから、そんなに変なものはさせん」


「どうかなあ、俺、変なの引き寄せやすいよ?」


「まずは書類審査だ。今の申請書に婚姻証明書の複写、召喚者の証言、履歴書がある。まずは一人で読んでみろ。読めない字がまだあったら教える」


 ブルーノが何枚かの用紙をマコトに渡した。


「ああ、わかった。それから、勇者と奥さんの面談だけど、個別で面談させる」


 受け取りながら、入管時代の方法で指定する。


「なぜまとめて面談ではないのだ?」


「そうすると偽装の場合は口裏を合わせてくる。別々にすれば偽装なら必ず綻びが出るのさ。不正の場合はそこを突くことになる」


「不正が前提なのか、厳しいな」


「いや、個人的なものさ。俺は何故か不正事案ばかり引いていたからさ」


 今回はまともであって欲しいと願いつつ、マコトは書類審査に専念を始めるのであった。





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