デスゲーム設計士のただしい使い方

ちびまるフォイ

ポンコツはどちらか

「ここだな……?」


ドアをノックすると、ダルダルの服を着た女が出てきた。

地下から這い出てきたような縦横無尽の髪の毛が目に入る。


「あ、いらっしゃいませ。デスゲームの人ですか?」


「はい。よかった、迷いましたよ。設計をしてほしいんです」


「おまかせください~~。これでも作った閉鎖デスゲームは数知れないんですから」


部屋に上がると、壁にはデスゲームに使われた部屋の間取り図がピンで貼り付けられている。

噂以上にデスゲームを手がけてきた凄腕らしい。


「お客さまは、今回はどういったデスゲームにするんです?」


「なんかこう、閉じ込められた部屋で人間の汚い本性が出るような。

 で、最後には俺が登場して"ゲームオーバー"とか言いながら戸を閉めたいです」


「あいあい。そういう人多いですよ~~」


「でも、そういう施設ってどうやって作るんですか?

 人に見つからないようにたって、作業員にはバレますし。

 このご時世、SNSにでも投稿されれば即ネタバレですよ」


「ふっふっふ~~。私をただの女だと思って甘く見てますねぇ~~?」


設計士は真っ白な紙を取り出した。


「私の能力は自由設計っていうんです。

 この紙に書いた間取りは自由に即設計できちゃうんです。

 これなら誰にも気づかれずに即日建築が可能ですよ」


「す、すごい!」


「それじゃ、どういった器具を部屋に組み込みたいのか教えてくださいな」


「徐々に謎を解き明かしながら先に進んでほしいから隠し部屋はほしいな。

 あと、極限感を出したいから時間制限タイマーを壁に組み込んで――」


「あいあい。いいですねぇ、任せて下さい。できました!」


デスゲーム用の部屋の間取り図が完成した。


「これでもう作られたんですか?」


「はい作られましたです。後はここに人を放り込めば、

 身の毛もよだつ、極限のデスゲームが始まりますよ~~!」


「……すでにSNSで拡散されてますが」

「うそ~~!?」


SNSでは突如生成された謎の密室の情報が流れていた。

興味を引かれた人が壁を破壊し始め、中の器具を調べていく。


「って、これ、都会の一等地じゃないですか!?

 こんな場所にデスゲーム部屋作ったらバレるに決まってるでしょ!?」


「どこにでも作れるのなら一等地にしたいじゃないですかぁ」


「ここに住むわけじゃないんですよ!!」


聞くと、この設計士はとにかく凄まじい能力を持っているが

本人の性格からか小さな失敗が多く、ついたあだ名が「設計士の姫」。

姫というのが世間知らずでいかにも仕事できなさそうな感じ。


「通りで俺の他に客がいなかったんですね……」


「それは私の家の立地がわるいからじゃないですか?」

「自分の落ち度ゼロか!!」


姫に設計をぶん投げるのは危険。

かといって、すでに捕獲して眠らせている被験者が目覚める前に

なんとかデスゲーム部屋を作る必要がある。


「あの、質問なんですけど、

 すでに設計されている部屋の間取りを作り変えることはできますか?」


「もちろんです~~。間取り図を書き換えればすぐですよ」


「それじゃ、この部屋を改築してもらえませんか?

 それで、デスゲーム始まる前に自分でリハーサルしたいんです」


「なるほどです。まかせてください!」


姫は自宅の間取りを書き換えてデスゲーム部屋を作った。

パッと見では完全なる密室に見えるが、

ゲーム進行とともに隠された謎解きと殺人トラップが出てくる。


「おお、すごい。その能力は本当にすごいですね」

「私もそう思います~~」


実際に自分が被験者になった気持ちで部屋を確かめていく。


「ここはもう少し位置低くできませんか?」

「あい」


「このスイッチを押すと、あれが出てくるようにしてください」

「こころえました~~」


「あ、ココから抜け出されそうです。補強してください」

「お安いごようです~~」


結局、ありとあらゆる場所の改築と修正を丸1日かけて行われた。

完全に出来上がる頃にはすっかり日が暮れていた。


「ありがとうございます。これでOKです」


「大丈夫ですか? 部屋の中央に観葉植物とかもおけますよ~~」


「デスゲームに癒やしを与えんでよろしい」


姫の家の間取りをもとに戻すと、

今度は細かく住所を指定して間取り図を書かせた。


「せっかく完璧に脱出不可能なデスルームを作っても

 ひと目についてしまったらそれだけで終わりですからね」


「でも駅からのアクセスが良いほうが便利だと……」


「いいから! ちゃんと指定した住所に作ってくださいよ!!」


「私のオリジナリィ余地もほしいです~~……」


「同じ間取りで作ってください!!」


ちゃんと住所が指定した廃病院の地下にあることを確認。

間取り図にも変な要素が書き加えられてないことを確認。

完璧に準備が整った。


「ありがとうございます。これでデスゲームが開催できます」


「頑張ってくださいね。テレビで見てます~~」

「地上波できるわけねぇだろ」


姫と分かれると睡眠薬で眠らせた被験者をリヤカーに乗せて運ぶ。


被験者2名はすやすやと眠ったまま起きない。

これから始まる恐怖と絶望と血にまみれたデスゲームが始まることも知らずに。


「くっくっく。お前らはこれまでの自分の行いを反省するとともに

 醜く歪んだ自分の本性と対峙することになるのだ!」


そろそろ睡眠薬が切れる頃。

デスゲームの部屋の前に到着し、すべて悟った。


 ・

 ・

 ・



その後、姫のもとに戻ってきた。


「おかえりなさい。デスゲームはうまくいきま……どうしたんですか、その顔!?」


「被験者にボコボコにされた……」


「ええ~~! 脱出されたんですか? あんなに頑張ったのに!

 どこにも抜け穴はないって確認したのに~~」


「ああ、完璧な密室だったよ……。完璧すぎるほどに……」


「じゃあどうして被験者に襲われちゃったんですか?」





「お前が部屋に入り口作ってないからだよーーーー!!!」



「同じ間取りで作れって言ったじゃないですかぁ~~!」


この後、お互いの責任転嫁の末に、お互いにデスゲーム卒業を決めた

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