マジオナ

しょもぺ

第1話 ヌクときヌキたくばヌイとけ!

人は。

どんなにお金を持っていても。

どんなに権力があっても。

どんなに仕事がうまくいっていても。

どんなに友達が多くても。

どんなに健康でも。


人は『愛』がなければ生きてはいられない。


お金は貯金できるし、最近では健康で筋肉も貯金できるらしい。

では『愛』なら?……愛も貯金できるのだろうか?

この物語は、そんな素朴な疑問に立ち向かうひとりの男の物語である。


ボクの名前は、『臼田 ショウ』(うすだ しょう)

何のとりえもない平凡な29歳。会社員。彼女ナシ。


で……童貞。


ね? ごくごく普通の人生を送るフツーの一般の平均的な男性でしょ。 

仕事は特別に面白いわけではないけどツマラナイわけでもない。

上司には怒られるけど部下も出来た。それなりの出世。それなりのポジション。


毎朝6時に起きて車で30分かけて出勤。

ほとんど毎日残業で、帰宅は10時。

そこから自炊などするはずもなく、コンビニ弁当と発泡酒でカンパイ。

だらだらと遅くまで起きてテレビみたりネットみたりで12時にバタンキュー。

知らぬ間に朝。いそいそとシャワーを浴び、ヨレヨレのワイシャツを着て、何も朝食をとらずに出勤の支度に追われる。絵に描いたような独身男性のライフスタイル。しかし、そこである事件が起こった……!


テレビに映ったアナウンサーがあまりに可愛かったので、ボクの息子が梅雨時のタケノコのようにニョキニョキと隆起したからさぁ大変! 29歳といえど健康な男子の性欲はまだまだご健在。会社に出発するまで残り15分。いつもなら途中のコンビニに寄って朝飯のおにぎり兼昼食の買出しをするのだが、それをあきらめれば時間的に余裕がある。あぁ……ボクは何を考えている? そんなことをすればお昼には混雑する会社の近場のコンビニレジに並ばないといけないし、お昼の睡眠時間が削られるのはわかりきっていることだ。でも、いや、しかし。最大最強の悩み事がボクの脳裏を襲う。


オナニーをするべきか?

オナニーをあきらめるべきか?


幸い、ボクのパソコンのエロ動画コレクションには、様々なジャンルが搭載されておりいつでも閲覧可能な状態にスタンバっているのだ。恐れるものは何も無い。5分でシコれば何ら問題はない。さっきテレビで見たアナウンサーは清楚系の可愛らしい女子。ならば、マニアックなジャンルではなく、スカッとさわやかにヌケる動画をチョイスするのが礼儀だ。すでにボクの頭の中では、オナニー決行の命令が下されていた。


そうなれば話は早い。

すぐにパソコンを起動し、専用フォルダを開くだけで良いのだ。何ら問題はない。

ボクは、すぐさま電源をONしてパソコンを起動した。それまでの30秒ほどがやけに長く感じたのは、朝の出勤前にこんなことをしている自分への後ろめたさなのだろうか。とにかく、あと30秒ほどで、ボクは天界にいる天使のように昇天することが出来る悦びに浸っていた。それがどうだろう? まさかの事態が待っていたとは誰も想像がつかないだろう。


ん? セーフモード? 何コレ?


普段はいつもどうりの画面が映っているはずのモニターは、真っ黒な画面に白い文字を映し出した。

いやいや! そうじゃなくって、ボクが望んでいるのはこんなシンプルな画面じゃないのよ。薄青いグラデーションにズラリと並んだフォルダの画面が見たいのよ。なんでキミはこんな非常事態に不機嫌になってしまうのかなぁ? プログラムの事はよくわからないけど、いつもどうりに普通の仕事をしてくれればいいのよ。別にパソコンに詳しくなりたい訳でもなく、ただ純粋に動画を再生してくれさえすればいいのよ。それだけでいいのよ。さぁ、これでどうだ? いつもの画面が出てくれるだろうね? また黒い画面にならないだろうね?


待つこと3分。何がどうなっているのか仕組みはわからないが、何とかいつもの画面が現れた。余計な時間を食ってしまったから急がねば。ボクはマウスを高速に動かし、的確にエロフォルダをダブルクリックした。そして、時間にあせりながらもすでに決めていたエロ動画をこれまた高速でダブルクリックした。そして。片手にはティツシュを畳んだ物をそばに置き、パンツを強引に引きずり下ろした。ブルンとそびえ勃つピサの斜塔は天を崇め天界にいる天使の微笑みを待ち望んでいるようだった。したたる我慢の湿りが透き通るように亀を包み込む様はまるで竜宮城だ。天界と竜宮城。そう、そのふたつの桃源郷を今、手にしようとしているのだ!


アップデートが必要です。再起動してください。


バカヤロウ! この忙しい時にそんなことしてられるか!

ボクは警告を無視して、仕方なく他の動画再生アプリケーションを選ぶしかなかった。しかし、このアプリは常時使っている動画プレイヤーに対して動作が重かった。モタモタしていてなかなか再生されない。イライラは募る。時計を見ればすでに想定内の5分を過ぎていた。持ち時間はあとわずか。ボクに1分で射精しろというのか!? ふざけるな! そこまで早漏ではないんだぞ! みくびるんじゃねぇ!


1分後。ティッシュをくるんでボクは溜息をひとつついた。

為せば成る為さねば成らぬ何事も。ふとそんな一文が頭に浮かんだ。

さて、これから会社に出勤しなければならない。いつものように働いて小銭を稼ぎ、社会に貢献しないといけないのだ。言うならばこれは日本国民の成人男性の当たり前の義務なのだ。ボクは窓の外に流れる青い空と清らかに流れる雲を遠い目で見つめ、そして、携帯電話を取り出した。


「あ、すいません。本日は欠勤させていただきます。カゼがひどくって……ゴホゴホ!」


それから。もう一度エロ動画でオナニーしたことは言うまでもない。

臼田 ショウ。29歳。童貞。もうすぐ30歳を向かえ、今に至る。

恋人はまだいない……

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