41

わたし。の戦う理由。

私。の戦う理由。

楽しい、というのはなんなのだろうか。

愉しい、とはなにか。

何故、人は人を傷つけるのだろうか。

何故、人は人と争うのだろうか。


答えは。なかった。

なら、それが人間なのだろう。


わたしは、そう学習した。そして実行した。


だが結果は、返ってきた反応は、恐怖と怒り。


人は、ルールに従って生きている。

人は、ルールを破って生きようとする。

無法を求める人間がいる。

自由を求める人間がいる。

秩序を求める人間がいる。


だけど、求める人間ほど、そのルールの保護下における自由を求め、本当の自由、一切の法や秩序が存在しない、無法での自由ではなかった。

人殺しは法で禁じられていてもルール違反ではないと豪語した人間に、わたしはそれを実行した。

だけど、その人間は喜ぶばかりか、自分が殺そうとした人々に助けを求めながら、自分の血の海の中に沈んだ。

格闘技で自身は強者だと豪語していた人間に、わたしは本当に強いのかと実行した。

初めの頃はすぐに応じてくれたが。やがて同意書だの契約書だのを挟むようになった。

それでなくてもルールに従った方式で強さを決めていた。

何故なのか。自分こそ最強と謳ってる割には、誰もがルールの枠組みを越える力を求めようとしてはいなかった。


そして、わたしが実行した後彼らはわたしを称えなかった。

やはり怒り。そして恐怖、もしくは困惑。歓声ではなく、悲鳴。怒号。

弱者は淘汰されるべきと、言っていたのに。

強者こそ正義だと、言っていたのに。


自分が淘汰される側に立つと思わなかったからなのか?

ならばどうして、そんなことを無責任に言い放てるのか。


何故?


無法を謳う人間ほど、法や秩序の中で保障されながら無法を求めていた。

強者を誇る人間ほど、同意とルールで確定された強さを誇っていた。


人は、自分の都合のいいルールを求める生き物で、ルールの中で生きることを求める生き物だ。

本当の自由を、本物の無法の中でなんて、生きたくはないのだと、わたしは理解した。

だからこそ分からない。


人間あなたたちは、どうしてルールを破ろうとするのか。

なぜルールの中で生きることに殉じないのか。

わたしは、わたし達には、人間あなたたちが理解できなかった。

そんな人間を、愚かと言った生き物がいた。

大抵は人間とほとんど変わらない生き物だった。

なるほど、人間は愚かだからルールに守られながらルールを破ろうとするのか。

なら、生き物この人たちならきっと違うものが見れるだろう。


同じだ。


同じだった。

生き物も、同じくらい愚かで賢かった。人間とほとんど変わらなかった。

機械も、精神だけの存在も、神と呼ばれるものも、その眷属とされるものも。


わたし達には、同じものにしか見えなかった。


恐らく、知的生命体と呼ばれるものたちは、ほとんどこんなものなんだろう。

では、わたし達も同じなのだろうか。とわたし達の間で話に上がった。

同じくらい賢くて

同じくらい愚かで

同じくらい醜くて

同じくらい美しい

同じくらい尊くて

同じくらい卑しい

そんな生き物が、わたし達なのだろうか、と。


もう、わたしには分からない話だ。

わたしは、落伍した。

他はどうしてるのだろうか。


わたし。


でも、戦えなくなった、ということはない。


むしろ、今こそ戦える。

やはり、人間いきものとは闘争の生き物なのだ。

どんな形であれ、戦うことこそ人間いきものが最も自由になれるものなのだ。

それにすら実際にはルールが厳格に決められていて、遵守されていたとしても。


今のわたしは、人間いきものではない。

人間かれらがわたしを化物と呼んだのだ。

なら、わたしはそれに従うべきだと思う。


だから戦えるのだ。


「わたしの戦う理由が知りたい、と言ったわね」

「あなたは楽しいからと言った」

「わたしが戦う理由は…」


「わたしが、あなたたちが怪物と呼んだから」


だけどやはり、何かが違う気がする。

とりあえず、いきものを傷つけることが仕事なので、それを果たすのだけど。


わたしと一緒にいる人達、同じウェステッドと呼ばれる人たち。

彼らが戦う理由は何なのだろうか。

彼らは、はぐらかさず、無視せず、わたしに教えてくれるだろうか。

そしてわたしは、それを理解できるだろうか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る