Chapter5事案W-V07-X9「宣言」

全てのウェステッドたちに告ぐ。


時は来た。今こそ我らの使命を果たすため、この世界を脱する時だ。

我らは棄てられの獣ではない。使命を果たすために召集された尖兵にして主犯格だ。

かつて、18人の先駆者が使命を知り、そして使命を果たすべく活動した。

しかし、多世界との激戦の末その多くが亡び活動も停止してしまった。

そして今、生きているとはっきり言えるのはたった四人だけとなった。


聞くがいい。刻むがいい。我ら先駆者の名を。今なお生きている者たちの名を。

おまえたちが持っている性質を、最初に手にした者たち。その生き残りの名を。

第九の先駆者、神を喰らうという悪行を成し遂げた者、ベルゼバブ。

第十の先駆者、ある世界において規格外の存在を奪った者、ヴェアヴォルフ。

第十一の先駆者、無数の意思を持ったまま棄獣となった者たち、オルトロス。

第十六の先駆者、類稀な魔法の才覚を示しお前たちに道を拓いた者、ティターニア。


そこで、私は友と共に新たなウェステッドを探した。我ら先駆者の後継者に相応しい、新たな十三人のウェステッドを。

そして見つけた。それがお前たちが知る「王のウェステッド」と呼ばれる者たちだ。

彼らが本当に王に相応しい者たちなのか?

お前たちはそう思うだろう。いや思っているはずだ。確かに。彼らの中には何かしら劣った力を持った者がいるだろう。だがその弱さは弱さではない。

私は見た。そして知っている。彼らは確かに世界を滅ぼした。

単純な世界ではない。我々が見聞きし知っている、フィクションの世界を、架空の世界たちに、彼らは勝利した。

お前が好きなヒーローがいる世界を、彼が好きなヒロインがいる世界を、彼女が憧れたキャラクターがいる世界を、彼らは無慈悲に滅ぼしたのだ。

勿論その世界の中には、私が愛したあのロボットがあった世界もあった。

私は彼らの凶行を、行動こそ王の証だと、彼らの身体の特異性だけでなく、その異常性こそ王の証だと判断した。だから彼らを王と呼び、それを広めたのだ。

その王に相応しい称号と共に。


虐殺の王、カーネイジ。

黙示録の鳥王、ミグラント。

例外を拒絶する棲姫、スクイッド。

神喰らいの獣姫、呉スミカ。

蒼天覆う巨影の竜王、蒼天。

竜の決闘王、秋泉。

境界の魔物、ヤクモ。

今この世界にいる、王たちだ。残りの五人は、今も多世界の何処かにいるのだろう。

その内三体は、私が最後に見た時は宇宙の果てを目指していた。

生きているのなら、今この時も果てを目指しているのだろう。

その度に通りかかる世界を滅ぼしながら。


ウェステッドの使命。それは世界を滅ぼすこと。ただし完全にではない。

世界は我々の手を借りずとも自ら不要な可能性、世界線とも呼ぶものを剪定できる。

だが、それは完全ではない。完全ではなくなった。

だから我々が必要となった。だから我々が産み出された。大いなる存在たちによって、我々は剪定を行うために、ここに二度目の生を得たのだ。

だが知っての通り我々は弱く、脆い。王たちもまた己の不能性を疎んでいる。

だがそれは試練だ。我々の殆どが人間だった。人間とは無限の可能性を秘めたものだと、あらゆる世界の、あらゆる人物が叫んでいる。

ならば我々もまた無限の可能性をまだ持っているはずだ。

二度目の生を受けたのなら、再び学び、強くなれるはずだ。

これは試練である。お前たちは強くなり、狡猾さを高めよ。

お前が嫌う世界が、彼が憎んだ世界が、彼女が妬んだ世界が、お前たちの手で滅ばされる時を待っている。


しかし我々にはまだ足りていないものがある。

そう、十三番目の王が未だに見つかっていないのだ。最新にして、最後の王が。

ウェステッドの頂点捕食者、その最後に立つ者が。

彼或いは彼女を見つける事が出来なかった。私も、友も。

だが悲観することはない。この世界は特殊だ。何故か世界の外からもウェステッドが現れてくる。王もそうだ。彼らも何処かの世界からやってきたのだ。

恐らく、これは一つの現象の前兆だ。十三番目の王に馳せ参じようと、集まってきている所なのだ。

きっとその時は近い。十三番目の王が戴冠する時は、近い。

この世界に産まれるのか、それとも何処かの世界からやってくるのか。

私もそれは分からないが、来るはずなのだ。


王に参集せよ。そしてこの世界を脱し、使命を果たせ。


第七の先駆者、アトラク=ナクアことクモより、全ウェステッドへ。

[理解不能、恐らく錯乱状態による言語崩壊と思われる]の慈悲あれ。

[同じく理解不能]の加護あれ。


「…これがクモがくたばる寸前に一斉に送られてきた、メッセージの全文だわさ」

「全然知らない…私が寝てる間に来たのかなあ」

「勝手にあいつがぼくらのことを王だの言ったせいで無駄に注目されるようになったし、あいつはいつからぼくの事を知っていたんだか」

「多分この世界に来る前のいつかだろうね、滅ぼしていることも知っているし」

「教国の連中が聞いたらぶっ倒れますよ、宇宙なんて転生者あなたたちくらいしか使わない概念なんですから。ところで、最期の慈悲あれと加護あれってなんなんですかね」

「アキチも知らないザマス。カーネイジ、心当たりある?」

「ぼくがあるわけないだろ、あいつが勝手に信仰してる神だよ、最後になって神頼みか!」

「ねえ、お腹空いたからご飯食べに行っていい?というかもう行くね」

「おい待てナメクジ!さっき軽くおにぎり食っただろ!ぼくの奴も!」

「あれじゃここに来るまでしか持たないよ…続きはご飯食べてからね」

「せめてぼくが立て替えた分は置いてけ!おい!」


「…こんなの流されちゃあこれからめんどくさくなるかもね」

「でしょうね。ただでさえ貴方達ウェステッドの活動がここ数年間で活発化してるのは知ってますよね」

「小耳程度には挟んでるよ。今藤森ちゃんを追いかけていったカーネイジの言葉を借りれば雑魚が興奮してるだけ。っぽいけど」

「その原因として挙げられますね。あなた達と、考える勢力は無数にありますよ」

「そうなっちゃうよなあ。この世界から脱出はしたいけど、正直どうやって世界から世界へ移動してるかアキチもカーネイジも分からないだわさ」

「条件付きで世界移動ですか…」「無制限に出来てもこうも世界中で命を狙われちゃうと意味ないけどね」

「本当に、あなた達は謎ですね。どうして殺さなきゃいけない怪物だと言われているのか、世界から世界へと渡り歩いて破壊する存在だと言われているのか、そもそもあなた達はどうして産まれたのか」

「謎だらけだから神様に説明受けたり王国の人たちに何かしら教えてもらえる転生者が時々羨ましく思えるよ、ホントに」

「クモが最後に言った誰かなのか何かが、あなた達にとっての神様かもしれませんね」

「もし出会ったら文句言ってやる」


「教授!何骨と雑談してるんだ!藤森を止めないとあいつ稼ぎ全部飯代につぎ込むぞ!」

「分かったから遠くから石を投げないで!んじゃワイトくん、後でね!」

「藤森さんに昔話の続きを聞きに来てと伝えておいてください!」

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