Chapter1-1「検索:異世界 突然ボウガンで撃たれる」

トンネルを抜けるとそこは異世界でした。のようなノリで異世界に転生する小説や漫画は沢山読んできた。だけど、今まで見てきたどの話でも。

言葉が通じないけどとりあえず「敵意はない」と言ったらクロスボウで撃たれるなんて展開から始まる話は読んだことがなかった。

そんな冷静な思考が動いたのは、事が起きてから街のような場所の裏路地に逃げ込んてから暫くたった後だったし、そんな衝撃的な始まりなんてすぐに軽いものになってしまうようなことが起きたのだけど。




椎奈が意識を取り戻すと、彼女は草原の上に倒れていた。

ぼんやりとする思考の中で彼女は考える。確か自分は子供を庇って死んだはずだと。

生きていたとするなら病院のベッドの上にいるはずで、草原に倒れているなんてありえない。そもそも庇った場所はアスファルトの横断歩道でこんな田舎でもないような場所ではなかったし、ついでに天気だって当時の自分の心境のように曇り空だった。

こんな、太陽の光を感じて優しい風が吹いているようないい天気ではなかった。

とりあえず起き上がろうと身体を起こすと妙に身体が重く感じた。だるさとは別で、肩に感じがするのだ。

そこで彼女は考えた。そうだ、ここは天国なのだと。

天国じゃなくても死後の世界であることは間違いないだろう。やはり自分は子供を庇って死んだのだと思った。背中の異物感は翼が生えているからだ。きっと頭の上にも天使の輪っかのようなものが浮かんでいるに違いない。

そうとなれば、そうとなれば?そこで彼女の思考が停止する。

ではどうすればいいのか。ただ消滅までこの死後の世界(仮)を彷徨い続けるのか?

草原と、遠くには山が見えて、後ろには枯れ木なのか葉がない大木が一本。

落ち着いていて綺麗な場所ではあるが見方を変えれば殺風景なこの世界で?


それは流石に無理だ。


自分以外の人間あるいは天使に会わなければ。椎奈はそう思い異物感はそのままに草原だと思ったら小さな丘だったそこを下り始めた。

下りた先には土がむき出しになった道があった。何かが通る道がある。と分かると、彼女は少し気が楽になったような気がした。

少なくとも道の先には町か村、とにかく人がいる場所があるはずだ。そこで人に会ったらここは何処なのか聞いてみるとしよう。

道なりに進んでいるとが見えてきた。死後の世界はやけにファンタジー的だと思いながら、天国という概念はどちらかと言えばキリスト教や海外の宗教の方が強いなと思い、天国が万国万民に共通するなら和風なのもむしろおかしい方かと考え彼女は歩き続ける。

天国は日本語が通じるんだろうかと考えながら進んでいると、後ろから何かが走ってくる音が聞こえてきた。実際に走っている所を見た事はないが、それは馬が走っているような音に聞こえた。

立ち止まって振り返ると、鎧を着た男二人が馬に乗ってこちらに近づいてきている。

男もこちらに気付いたのか速度を落とし、馬を静止させて降りて歩いてきた。

二人は手を振りながら何やら言っているのだが、椎奈はそこで気づいた。

言葉が分からない。英語ですらない。もっとも、彼女は英語の成績が悪かったので仮に彼らが英語を話していても分かるかは微妙だった。

しかし、言葉が分かる分からないの問題はすぐに過ぎ去った。何故なら男たちの表情がこちらに近づいてくるにつれて険しくなり、そして驚愕と怯えたような表情になっていったのだ。たとえるなら、見たことのない怪物を見てしまったような。

一人が腰に提げていたクロスボウを手に取り折りたたまれた弦を展開した。コンパクトながらも滑車が取り付けられており、どういう効果があるかは椎奈には分からなかったが高い技術力で作られていそうというのは分かった。

どういうことなのか全く分からなかったが、とりあえず椎奈は両手を上げ、通じるか分からない日本語ではっきりと言った。

「あの、私危ない人じゃありません」

直後、びゅんと風を切るような音が聞こえたと思ったら左頬に痛みが走った。

「きゃっ…!?」頬に触れて見ると手に血がついていた。痛みと驚愕に思考が飲まれながらも自分は今射られたのだと分かったのと、男が二発目を撃とうと矢を装填した音が聞こえたのは同時。

そして自分でも不思議なくらい素早く椎奈は頬を押さえながらその場から逃げた。

後ろからは男の叫び声が聞こえるが、彼女はお構いなしに走った。

「ここ…天国なんかじゃない!」じゃああの異物感は何だったのかとふと思ったが、いつの間にかあの感覚はなくなっていた。




「クソっ逃した!」「早く街に知らせろ!の日だと言われてるんだぞ!奴らが現れたなんて、聖騎士団になんていわれるか分かったものでは…!」

の特徴の一つである身体能力の過剰向上により、逃した個体は凄まじい速度で逃げ去ってしまった。街の方向へと。

もう一人が急いで自分のクロスボウで合図用の煙矢を装填し発射する。

しかし間に合わないだろう。と椎奈を撃った方は思った。既に街の門近くか、あるいはすでに内部に侵入している。

「畜生…の混乱がまだ収まり切ってないのに…!」

「急げ、早く見つけて排除するぞ!」

彼は続ける。


「「ウェステッド」を!」

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