第23話 スキル発動

 

 やっと……やっとだ……。

 俺はようやく意識を取り戻す事が出来た。

 これで火憐を助ける事が出来る。でもな……



「お前に声をかけたつもりはねぇんだよ」

「アァアァァァア!!!」



 俺は地べたに這いつくばりながら顔を化け物の方に向けていた。

 火憐が俺に声をかけてくれるのは嬉しいが、化け物……お前は違う。

 散々俺を痛めつけやがって。火憐に恐怖を植え付けやがって。

 俺は歯を噛み締め、化け猫を睨みつける。



「化け猫……次は俺の番だからな?」



 俺が怒りに震える言葉を発した後、火憐が叫んだ。その声はまるで暗闇の中で光を見つけたかのように、希望に満ちたものだった。



「蓮君!」

「火憐。一人にさせてごめん……でも、安心してくれ。俺は必ずお前を救う!」



「ありがとう……その言葉だけでも嬉しい……」

「言葉だけじゃないさ、その化け猫を倒して生きて帰ろう」



「うん。一緒に帰ろう……ただ……無理はしないで……」



 火憐が心配するのも無理はない。

「必ず救う」と叫んでも、ボロボロになった男が地面を這っているのだ。虚勢を張っているようにしか見えなくても何もおかしくない。

 でもな、俺にはスキルがある。老人に教えてもらった俺のスキルが。

 それに、「無理はしないで……」なんて言われたら……。



 ――無理してでも救うしかねぇだろ!



(ガッ!)



 足が震える。もう痛いとかそんな段階じゃない。足の感覚がないんだ。

 無理やり立ち上がろうとしてもバランスが……力が……足りない。



(ズシャアッ)



 バランスが崩れて前に重心が移動する。

 ほら、立ち上がろうとしてと地面に倒れてしまいそうになるんだ。

 でも……。



「蓮君!!!」



 倒れている最中、火憐の泣きそうな声が聞こえた。

 ははは……救おうとしているのに、俺が泣かせてるみたいだな。

 こんなカッコ悪いところ……もう見せたくない……。

 俺は、体中に力を込めて最後の気力を絞り出した。



(ガッ!)



「俺……は必ず……救う……」



 痛みはとうに限界を超えている。

 俺は精神力だけで、足を地面に突きつけて踏ん張った。

 倒れないように……火憐を安心させる為に……。

 とうの彼女はまだ心配そうな表情のままだけどな。



「蓮君……」

「問題……ない……」



 火憐の弱々しい言葉が聞こえる。

 俺は一度地面に向けた顔を彼女に向けた。

 泥だらけに、ボロボロになった顔を向けて……それでも笑顔は忘れなかったさ。

 余計な不安をかけたくない、その一心で。



 本当はまだ視界がボヤけているんだ。

 意識を取り戻した直後に比べればマシだが、まだよく見えない。

 でも大丈夫。耳はよく聞こえるんだ、化け猫の呻き声がこちらに向かって近づいてくるのが。



「アァ!!!」

「蓮君! 化け物が!!」

「あぁ……分かってる」



 やっぱり化け猫は火憐ではなくて、俺を標的にしたようだ。

 何回攻撃しても立ち続ける……そんな俺に苛立っていたのかもしれないな。でも、ちょうど良かった。

 これで、ひとまず火憐が攻撃される事はなくなった。

 俺が安堵して息を吐いた時、久しぶりにあの機械音が響いた。



〈ブーッ!〉

〈呪猫(カース・キティ)は、攻撃対象を『蓮』に変更致しました』〉



 やはりそうだ。

 このターン、攻撃されるのは俺に変更されている。



「はっ。化け猫、お前は俺が好きみたいだな」

「アァア!!」



 ひとまずは、化け猫を火憐から引き離せた……。しかし、この後はどうすればいい?

 正直、もう一発まともに攻撃を受ければ俺の意識は完全に吹き飛ぶだろう。

 本来ならスキルを発動させるべきなのだが。



「発動のさせ方が分からん……」



 俺は一旦、目を瞑って考えた。

 何か発動条件のようなものはあるのだろうか。

 いや、夢の中で老人と話した感じだと特別な条件は無いように感じる。

 なら……。



「スキル発動……」



 そう……小さな言葉で呟いた。

 するとどうだろう。

 俺の頭の中で、機械音のような、人間の声のようなどちらともつかない声が響き出した。



ALL CHANGEオール・チェンジ発動します】



 やっぱりそうか。スキル発動条件は特にないみたいだ。

 いや、確か各能力値の限界はLv.によって変わってくるんだっけ?

 スキルにも制限のようなモノは一応あるみたいだな。

 俺は今『Lv.1』だから、各能力値毎に1万が限界だっけ。

 よし。なら……。



「HP値から各能力値に1万ずつ移動……」



【HP値から、魔攻・物攻・魔防・物防・知力・MP値へ1万ずつ移動致します】



 すごいな。

 本当に1万ずつ能力値に振り分けられたみたいだ。

 俺は頭に響く音に顔をニヤつかせた。

 これで、絶望的な状況を挽回する事が出来る。

 俺はこの事を一刻も早く彼女に見せたかった、安心させたかった。胸に手を置いて大声を張り上げた。



「火憐! これ、見てくれ!!」

「え……そのステータス……誰の?……」


「俺だよ」



 俺のステータスを見る火憐は酷く驚いていたよ。

 無理はないか、キングの鮫島で一番高い能力が1千だったんだ。

 それを考えると1万という数字がどれほど高いか分かる。

 しかもそのオール1万のステータスを持っているのが、最弱のはずの奴隷スレイヴなんだから余計に混乱するだろう。



 ―――――――――――――――――――――――

●能力ステータス

 ・Lv.1

 ・職業→『奴隷(スレイヴ)』


 ・魔攻→『10000』

 ・物攻→『10000』

 ・魔防→『10000』

 ・物防→『10000』

 ・知力→『10000』

↓↓↓↓↓ ―――――――――――――――――――――――



 俺は火憐がステータスを見るのを確認すると、胸から手を離して迫り来る化け猫に視線を移した。

 まだ一応あいつのターンだからな。

 でも、もう恐るるに足らない。これで自信を持って言える。



「さぁ、反撃の開始だ」



 ――と。

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