返す刀で関西

一路、関西。


ポルシェの中で5人はしばらく無言だった。

せっちはコンビニで買った氷でにっちの右拳を冷やしてあげている。

まるで赤子が母親の乳房をまさぐるように、せっちはにっちの拳を愛おしくさすっている。


「さあ、関西だ。何食べる?」


へ?


「課長、お好み焼き定食なんていいですねー」

「お。鏡くん、ツウだね。粉物とご飯という異次元の組み合わせが関西の醍醐味だよねー」


な、なんだ?


「わたしは、たこ焼きですね」


に、にっちまで?


「みーんなB級グルメばっかり。どうせなら神戸牛がいいな」


せっちも・・・


みんなが一斉に僕を見る。


『キヨロウ(さん)は!?』


う。


「えーと。カレー・・・」


・・・・・・・・・・・


僕の意見が採用された。

カウンターに5人並んでカレーを掻き込む。


「時間も無いしね」

「にしても、わざわざ関西まで来てチェーンのカレー屋か」

「あ、でも美味しいですよ? 関西圏のチェーンですよね?」

出汁ダシ入ってんじゃないの?」

「魚介ですかね?」


正直、課長は穏やかでどちらかというと窓際っぽい人種かなって思ってたけど、伊達に課長じゃないんだな、って。

と、いうか、僕らの生い立ちも含めてだけれども、久木田社長の人間を見る目というのに感慨すら抱く。


『世間でダメと言われる奴、アブないと言われる奴』


わざわざそういう人間を求め集めた異形の『モニタリング課』がこの土壇場で機能している。


僕らのやったことは普通じゃない。

というか、おそらく『過剰防衛』だし、間違いなく犯罪だろう。


でも、じゃあ、『あいつら』のやったことは?


僕を犯罪者の息子とSNS上で追い込んだ奴らのやったことは?


せっちに万引きをさせた兄や学校でいたぶっていた高身長少女のやったことは?


にっちを『アブない親の娘』と完全隔離した同級生たちのやったことは?


50歩100歩か。


食事を終え、再び目的地に向かう。


「課長」

「なんだい、キヨロウ?」

「関西の昇竜のぼりりゅうは大丈夫なんですか?」

山岳大師さんがくたいしか。大丈夫だよ。女性だし」

「え? 女性なんですか?」

「そうだよ。まだ30代じゃないかなあ」


いやいや。女性と聞いても安心できない。

大体、鏡さんは爆弾使うし。

せっちは冷静沈着に相手を追い込むし。

にっちの拳は凶器だし。


「ほら、あれだよ」


あ、ああ・・・やっぱりそれっぽい。


「課長、あの五重の塔ってまさか・・・」

「にっち。もしかしてこう思ってるかい? 『一階ごとに敵が待機していてそれを倒しながら頂上に登る』と」

「は、はい」

「安心しなさい。そんな映画みたいな展開はない」

「そうですか」


ほっ、としているにっちと僕らに向かって課長は教えてくれた。


「未来からのを受信する塔だって」


不安だ・・・


・・・・・・・・・・・・


「あら課長。よく来たわね」

「大師、ご無沙汰してます」

「用件は言わなくてもわかるわ。要は誰にも株を売らなければいいのね?」

「は、はあ・・・」


え? これってほんとに予知?


「課長。タダでという訳にはいかないわ。コヨテは相当好条件のオプションをつけてくるはず。わたしはそれをフイにするわけだから」

「十分承知しています」

「キヨロウさんてかわいいわね」

「は、はあ?」


大師はひょっとしたら20代と言えるぐらい若く見える。雰囲気はチカ部長と少し似てる。


「キヨロウさん。ちょっとしたゲームをしませんこと? それが条件よ」

「ゲーム?」


僕が応答する横で、にっちが露骨に顔をしかめているのが分かる。はあ・・・と溜息すらついていそうな雰囲気だ。


「あの、どんな?」

「15分、2人でお話しましょう。それであなたがそのまま帰りたい、と思ったらわたしの負け。反対にこのままここにい続けたいと思ったらわたしの勝ち」

「? あの、大師さんが勝ったら株を売るんですか?」

「いいえ。勝っても負けても株は売らないわ。純粋にあなたを賭けたゲームよ。電波が届いたの」


な、なんだ・・・?


「キヨロウさん。あなたがわたしの夫になる人だ、って」



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