ポルシェでハイウェイをビュンビュン!

「私のマシンだ」


ステイショナリー・ファイター本社の地下駐車場の一番端。シートをばさっ、と外すと現れたのはなんと左ハンドルのスポーツ・ワゴンだった。


「ポルシェのカイエンだ」


確かにこのエンブレムはポルシェだ!


「5人乗りだ。行くぞ!」

「え、え。どこへですか?」

「まず、東北!」


東北?


「それから関西だ」

「か、課長、それって・・・」


僕が訊くと鏡さんが補足した。


「課長、ウチの大株主お二方のご自宅ですね?」

「さすが鏡くんだ。まずは東北の首領ドン海援御坊かいえんごぼう!」


ド、首領ドン御坊ごぼう


「そして関西の昇竜のぼりりゅう山岳大師さんがくたいし!」


昇竜のぼりりゅう大師たいし

RPGのキャラか何か?


「か、課長。お言葉ですが・・・」

「なんだね、キヨロウ」

「その・・・そんなに大物っぽい人なら社長自らでないと・・・その、課長では・・・」

「ふっ。なんだね? わたしではカウンターパートとして不足だと?」

「いえ・・・決してそんなつもりじゃ・・・」

「ふふ。キヨロウ。わたしはこれでも現場の最前線の責任者だ。仕事はとどのつまり顧客と直に対峙する我々現場の戦士のエリアだ!」

「は、はあ・・・」

「でも、時間がないでしょ」


せっちがもっともな発言をする。

僕らが解雇や謝罪を受け入れなければ明日の朝刊には敵対的TOBの記事と公告が載る。その前に東北と関西を往復するなんて・・・


「せっち。課長は元プロレーサーだったのよ」

「ええっ!?」


3人でのけぞった。にっちまでオーバーリアクションで驚いている。


「それも日本人初のF1チャンピオンになれる逸材だと言われてたのよ。があったせいでずうっとウチの課長だけど」

「鏡くん。は他言無用だ。これ以上死人を出したくない」

「はっ! す、すみませんでした! わたしとしたことが・・・」


・・・一体、何があったんだ!?


「さあ、みんなセッティングだ」


ハンドルを握るのは当然課長。

助手席に鏡さん。

後部座席はにっち・せっち・僕の3人。

そして、シートベルトが・・・締められない・・・


「す、すみません、課長。このシートベルト、締め方が分かりません」

「うん? にっちはこういうのは初めてか? 鏡くん、教えて上げなさい」

「はい。にっち、これはレース用の4点式シートベルトよ。こうして、こうして・・・」

「ねえ、どんな運転するの?」


さすがのせっちも心配になったようだ。鏡さんが説明する。


「安心して、これは公務よ。法定速度は遵守するわ。代わりにコースをのよ」

「あの。の意味が分かりません」

「法廷速度を守りかつ一晩で東北と関西を往復するのよ? すべてのコーナー、ストレート、アップ・ダウンを、『これしかない!』っていうコースどりでインをギリギリに攻めた走りをするのよ」

「鏡くんの言う通りだ。ついでに言うと鏡くんは日本全国の裏道を知り尽くしている」

「でも、高速使うんですよね?」

「もちろん、ハイウェイも使う。だが、高速が最短とは限らない。途中途中で鏡くんは地図にもない道を最適のアドバイスでナビしてくれる」


え、ええ!?

僕らって、サラリーマンのはずだよね?

課長も、鏡さんも、一体何者!?


「さ、時間がないわ。行くわよ」

「よし。みんな、ションベン漏らすなよ!」


アクセルを踏み込んだ瞬間、課長の人格が変わった!?


駐車場内は私有地だ。したがって速度制限はない。


ものすごいGがかかる中、なんとかインディケーターで数字を読み取る。


さ、350km/h !?


ギュイイイイイ、とタイヤを軋ませてドリフトでコーナーを通過し、そのまま出口へのスロープを、ヒュン! と駆け抜けた。


生きて帰れたらいいな。

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