終わりと始まりの時

この縄張り戦争の終盤は、爆撃部隊にゆだねられており、シミュレーションで決まっていた手順に従って動く。ルーチェ率いる中距離戦闘の飛び道具部隊は、怪我人と死者を地下へ移し終えると、一通り敵を撃ち抜き、一旦その場を離れると、今度は2チームに別れて一方は地下で衝撃に耐えられるよう準備に取り掛かった。もう一方は別の配置に備えて移動を始め、それをしっかり確認したリューヴォが、物見やぐらの上から爆撃部隊に指示を出すために地図をのぞき込む体勢でスタンバイした時、ちょうど良いタイミングでメリッサからの報告が通信機から聞こえた。


『敵ほぼ全員沈黙!』


「よし、皆用意はできてるわね!捕虜のほうは?」


酷く寂れた繁華街で育った彼女達、巣として使っていたフェルディナン達は、この戦争を機に全ての建物の増改築しようとしていた。新たな故郷を作る、初めから始めるのだ。その為には持ってこいの機会だったと言えよう。


『こちらリアナ!お前らーっ!捕まえたか――OK、ドン、捕虜を全員壁際に移送固定完了』


『こちらメア……わたし達の家族も殺した奴らよ…捕虜以外は残さないでっ!大型爆撃部隊、攻撃開始!』


妹を失ったメアの瞳が、殺意で轟々ごうごうと揺らいでいた。ここで言う大型爆撃部隊とは、大砲、ロケットランチャー、ミサイルなど、地下以外の地上にある街を壊してでも敵を一掃するという強い意思が込められている。物見やぐらは別の世界から持ってきた黒聖石こくしょうせきという非常に頑丈な材質の鉱石で作られているので、大砲だろうがロケットランチャーだろうが無傷で済む。そして空には、爆撃機まで飛んでいる。


「さーて、これで今回の戦争は幕引きよ!締めの打ち上げ、メリッサ頼んだわ!」


『爆撃部隊総員!起爆装置用意!!』


「あいさー!締め1発まで!!5…4…3…2…1!!」



耳を覆いたくなるような爆音と爆風、共に街の何処どこ彼処かしももが、吹き飛んでいく。締めの1発とは、この縄張り戦争でリューヴォ率いる傭兵軍団が勝利したことを、他の地区に知らしめる勝利のしらせだ。

この世界で暮らし始めてまだ十数年、誰も彼もがこんな悲惨な光景を初めて見た。作戦を立てたリューヴォでさえ、その光景には若干引きながら思った。


(それにしても…街中がメチャクチャだわね……)


しらせの狼煙のろしをド派手に打ち上げ終えると、この地区を囲っていたそびえる壁が、徐々に地下へ格納されていく。残ったのは戦った証拠、ゲリラ戦が繰り広げられた事の証。捕虜たちは、街から新参組織に帰し、この街での戦いを吹聴ふいちょうして回らせるために生かしたのだ。最終局面が過ぎたことを敵も理解しただろう時に、捕虜となった上下黒いスーツ姿の男達の手首にしっかりとビデオレターを縛りつけ、街の外へ出すべく格納が完了した壁の上を跨ぐと、連れて行って男たちを離してやった。捕虜となっていた彼等は、怯えた様子で全力走り去って行く。


「――皆、終わったよ。墓掘って、宴会だよ!!!」


やっと手に入れた本来の自由それと確かな希望、皆が好きなことをやれる、闇の人間でもそれなりに夢を持てる場所、それがここ【終わりの街】だ。

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闇の讃歌 江戸端 禧丞 @lojiurabbit

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