決戦

リアナとのやり取りが終わると同時に、誰かが遠くで何か馬鹿にしたような話し方で、がなり立てる声がリューヴォの耳に大音量で響いた。命のカウントダウンは、とっくに始まっている。何も知らない彼等には酷なことだが、さっさと決断したほうが良いだろう。殺し屋たちは、時間に煩いのだから。


物見やぐらからリューヴォが身を乗り出すと、どこか冴えないチンチクリンな男が中指を立てて鬼を煽っている。この少女に対して決して言ってはいけない〈チビ〉という言葉を、通信機を通してハッキリと聞き取った全員が悪寒に身を震わせ、彼の命があと1分で終わると決まったことに、どうせ殺すとは言えりにって魔物に目をつけられるなど、多少の同情をかった。


(誰がですって?…このアタシを煽ったわね……待ってなさい!!)


『カウントダウン終了5秒前、3、2、1…どーぞっ!』


 ココは、元からそこそこ大きな街だ。この縄張り戦争には少年少女と数百名の大人たち、全152部隊・総員7600人が参戦しており、全員が凶悪犯罪者、人に呼ばせるなら最強のゲリラ集団が巣食う場所だ。メリッサの[どーぞっ!]の一声で、街を縁取ふちどる鉄格子の部分の地下から、巨大で分厚い壁がせり上がってくるのを確認して、リューヴォは床を蹴った。先ほどまで下品にがなりながら、中指を立てていた男のすぐ近くに着地すると、彼の首をねじり切った。


辛うじて壁にすがり付いたり這いつくばっていた者たちは、反り立つ壁に仕掛けられていた爆弾が爆発したことで全滅し、縄張り内部にいた新参者たちは、リューヴォの姿に、周囲から突然聞こえてくる男たちのうめき声や断末魔に、爆発音に騒然とし、誰も理解が追いつかない状態へ陥っていた。妹を殺された爆弾魔[業火の死神]ことメアが、起爆装置の最初の1個を押し終えてニタリとわらっている。


『ド派手だなぁ』


『んふふ…ドンの指示よ、ちょっと火薬は多めにしたけど』


リアナたち近距離戦部隊には、メアとは別に第一の仕事が与えられていた。街の人間を発見することが出来ず、律儀にカウントダウンを待っていた新参者のスナイパー全員の背後に、気配を殺すのが秀でて得意な彼女たちがずっと付いていたのだ。そして、新参組織の誰に気づかれることもなく爆破と同時、瞬く間もなく仕留め終わり武器を奪うと、全員が鈍器代わりにライフル銃を使い暴れまわる。


『こちらリアナーッ!お前ら楽しそうだなコラッ!』


『こちらメリッサ!みんな気をつけて!新参のヤツらパニクッてるから流れ弾多くなってるよ!』


『はいよ!』


その繰り出される技の無駄のなさに、彼等は右往左往と慌てふためき、やがて銃の狙いも定まらない状態で発砲をし始めた。それによって数名の戦闘員が死んだが、彼女等は此処ここで止まるわけにも退くわけにも行かない、ただ前進し侵略者たちを狩るのみだ。生き残っている多くの戦闘員の耳に、リューヴォから新たな指示が飛び込んできた。


『リアナ以下近距離部隊は、飛び道具部隊・アシスト部隊と交代!怪我人見つけたら引きずって地下へ撤退して!』


『了解!』


主な武器として銃を扱う[豪撃ごうげきのルーチェ]率いる飛び道具部隊、彼女等の戦いを武器方面でアシストしながら、自らも戦う武器商人たちのトップは[赤眼あかめのエマ]だ。2人ずつで組んで動くことが求められるので、相性が大切になってくるのだが、この2人に関しては、パズルのピースの様にピタリと息の合った組み合わせで、それが全体からの信頼に繋がっている。金色の髪をなびかせ、目まぐるしく動きながら弾丸を敵の眉間に打ち込むルーチェ、その背中に付いて銃弾が目一杯装填されている武器を、次から次へと渡しつつ、赤い眼をギラギラと輝かせて自らも猛毒入りのむちを振るうエマ。







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