第28話 ~ごいすてぃーにぃてぃ あぃがりゃちぃー いーすとちぃにけ~(旅館と温泉)

 その後、私達は水辺でビーチボールを使って遊んだ。

 他には砂場で遊んでいた。

 極めて凡な形を作っていると……


「こ、壊していい……?」

 瑠璃ちゃんは息を荒げて砂の簡易なピラミッドを見つめる。


「い、いいけど……」

 何故か私の作った極めて凡な物ばかりを狙ってくるのだ。

「えいっ……!」


 彼女が色々な方法……手のひらやグーやら水やらでそれを壊し、そしてまた作っては壊し……。


 恵美ちゃん、夏々ちゃん、璃晦ちゃんは仰々しい魔王城を作っていれば……

 文乃は一人で全裸の私を――!?


「ふんッ!!」

 中学生の教育に悪いので足で蹴り潰す。


「あぁ……写真まだ撮ってないぃ~」

「撮らんでいい! 作らんでいい!」

 残った足もとてもリアルで、彼女は芸術面に特化していることを思い出した。

(エロゲーの産物……)


 その後は水辺で泳いだりするも、文乃は溺れた振りをしてセクハラばかりする。

「だーぶーけーぶぇ~~」

「ちょっ、こらっ! やめっ、ひゃっ……」

 彼女は抱きつくと、私の水着の布部分を若干引っ張り水を素肌に通して遊んでいる。


「あんった……!! 下はやめなさいっての! 下は!」

 ずっといると段々言葉遣いも荒々しくなってくる。


「えへへ~~ひゃっ……!」

 笑っているのでこちらも小さな悲鳴をあげさせてみる。


「あっ、あうぅ……」

 彼女は体をピクピクと痙攣させて顔を真っ赤にしている。

 同じことをやり返してみたが、あまり効果が無いとばかり思っていた……


「え、布面積少ないのに……」

「し、神経が集まってるの……!」

(まさか性欲が強いんじゃなくて……水が苦手?)


「あ、またイキそうになってるなぁ~~?」

 夏々ちゃんも面白がっているのか、シャチで彼女を攻撃している。


「っ……! はぅっ、も、漏れちゃうから……! い、今はほんとに――」


「え、大丈――」

 私は恵美ちゃんの心配する声を押しのけて……


「いきな」

 低い声を出すと同時に、文乃のマイクロビキニパンツの布を手探りで横にずらして……楽にさせてあげる。


「あふぁっ……!! あぐぁっ……!!」

 文乃は舌を出して目を上に逸らしながら、息を気持ち良さそうに吐き出して絶句している。


「えぇ……」

 恵美ちゃんもその状況に引いている。

 見ていた他の三人は目を点にしてポカーンとしていた。もっとも、夏々ちゃんと春佳姉妹の感じている物は別だと思う。


「こういうのはさっさと楽にさせて呆けさせといた方が無難なのよ」

 私は何かから人差し指と中指を引っこ抜いて、文乃のマイクロビキニパンツを手探りで直す。

 そして水の中で手を払って洗った。


「無難って……」

 顔を引きつらせている恵美ちゃん。

「恵美ちゃーん……! 今日のシャルル怖いよぉ……」

 調子を戻した文乃は颯爽と恵美ちゃんに近付き、磁石のように引っ付く。


「い、いや無難じゃないし……引っ付かないでって……ひゃうんっ……!」

 文乃は彼女の水着のビキニ部分に手を滑り込ませている。


「やめんしゃいっ!」

 呆気なく文乃の腕は彼女の手に捕まり、万歳させられる。


「方便女子って~やっぱり可愛いね~」

 夏々ちゃんが誰かの真似をしてゆっくり喋る。

(なんだこの二方向同時イジりは……!)

 かなりセンスを感じたので感動していた。


「真似しないで~~!」

 瑠璃ちゃんは頬を膨らませている。その空気を両手で押し潰して抜いてあげたい。


 一方恵美ちゃんは……

「えっ、便所……? わ、私もしかして漏らし……」

 とんでもない聞き間違えでとんでもない勘違いをしている。


「方、便、女子……ね?」

 夏々ちゃんは更にゆっくり話して彼女を落ち着かせる。

「あ、はい……」

 いつもの二人とは全く逆の立場だった。


 時間は夕方五時を過ぎていて、体力に自信の無い私や文乃は疲労し始めていた。


「ぐへぇっ……」

 文乃はフラフラしながら水を掻き分け、私の体に抱き着いてくる。

「重たい」

 泳いでる私の上から覆い被さってくる。


「そろそろ夕飯だし宿に戻ろっか」

 こちらの疲労を察してくれたのか、夏々ちゃんは宿に戻ることを勧めてくる。


「そうですね~」

 璃晦ちゃんもちょっと疲れてそうだった。

 丁度いい。


「ねね」

「何?」

 皆が先に更衣室に進む中、文乃が話しかけてくる。


「上がる時だけなんだけど……更衣室で水着脱水機に回してる間、全裸で温かいシャワー浴びると興奮しない?」

「…………」

 ちょっと分かることを言われて何故かイラッとくる。


「興奮じゃなくて、急な温度の差にゾクッとしてるだけなんじゃないの?」

 私は的確に答えるも、それを一般的に興奮と捉える人間もいることは分かる。


「へぇ~~じゃあ一緒に流しっこしたらもっと興奮するかも……」

 私は急いで皆の元に走った。

(洗脳される……)



 宿に戻ると、少し時間が空いていたので温泉に入ってきちゃいなさいということになり……


「あっ、ふわぁ……」

 タオルを外して湯に浸かる。

 湯はほどほどに熱い。でも一度浸かれば体の力が抜けていくのを感じた。

 肩甲骨辺りまである銀髪が湯に沈む。


 家族達は先に入ってしまったそうで、さっきまで遊んでいた五人はまだ体や髪を洗っている。

(温かい……体に染みる……)


 ゆったりして目を閉じた瞬間、目の前の夕日の光が遮られる。


 目を開けると……文乃が全裸で私に体を見せ付けるように立っていた。

 端から見たら男子のノリでじゃれあっている女子そのものだ。


「なんですか?」

 怪訝そうにこの体勢は何なのか聞いてみる。


「どうですかシャルルさん……! 大きくなったと思わない?」

 自らの手で胸を押さえながら寄せて胸を張るも、五十歩百歩……と言いたいところだが。


 違和感を感じ、私も立ち上がって同じように胸を押さえて寄せる。

 そして上を見上げて文乃の胸を、下を見ることで私の胸を確認することで細かな差を見る。


 元々ほんのちょっとだけ私の方があったのだけど、同じ位のサイズにはなっている。

「やるじゃん」


「えへへ」

 嬉しそうだ。だけど私は嬉しくもなんともない。


「はいはい、彼氏いるアピールはいいから温まりましょうね~」

 次に入ってきた夏々ちゃんは、私達の肩をそれぞれの手で掴むと再び温泉へと浸からせる。


 いつもと変わらずサイドテールなのをよそ目にチラリと見てしまった。

(え、私達より一回り……!?)

「え、なんで?」

 文乃が疑問を彼女に投げ掛けた時には、彼女はタオルで胸を隠している。


「そ、そんなに見んとぉ……!」

 エセ博多弁をわざとらしく言っているが、それは……

 彼女の背後に立つ恵美ちゃんへ目がいってしまう。


「おい」

 恵美ちゃんのチョップが夏々ちゃんに直撃する。

「うぐぇっ」

 彼女の持っていたタオルが湯に浮かぶ。


「タオルを入れないの」

「はーい」

 恵美ちゃんが注意すると、彼女はタオルを温泉の端の岩肌に置く。


 恵美ちゃんはタオルで髪を器用に巻いていた。

(やっぱりダイナマイトぉぉ……)

 湯煙で見えづらいけど偽物じゃない。


「あっ、私もそうすればよかった」

 夏々ちゃんは湯に浸かり、タオルを湯の外で絞って頭に巻こうとするも……


「あれぇ……?」

 うまくいかずに彼女の顔に巻き付いてしまう。


「かしてみ?」

「はい……」

 恵美ちゃんはタオルを受け取り、彼女のオレンジ色の髪を一本に纏めてくるくると頭の上で固定させる。

 そして綺麗にタオルを使い、巻き付けた。


「姉妹みたいだね~……っ!」

 ちゃぽんと湯に入ってきた瑠璃ちゃんは、微笑みながら……

「あっちゅっ!! あちゅ!! あちゅちゅぅ……」


 ワンテンポ遅れて慌てながら湯に浸かる。

(猫舌犬舌は分かるけど反応遅い……)


「あっ、今日砂でじん……」

(人面犬作ればよかった)

 私は危うくとんでもない発言を口走るところだった。

 瑠璃ちゃんのそんな様子を見守っていたいからこそ、こういう発言はなるべく慎んでいきたい。


「むぅ……い、今……! シャルちゃん失礼なこと考えなかった~?」

 今でも若干ピク付きながら答えている瑠璃ちゃんは、とても面白くて可愛かった。


(これだけで休み明けの感想文一ページは埋められそう)

「考えてない考えてないって~」

 でもそれ以前にチラチラ目に写る大きなマシュマロは私の自尊心を急かしてくる。


(楽しいけどやっぱり……)

 風呂は一人で入るものだ。感想文の最後はそう締めくくるだろう。


「シャ、シャルロッテさん? 固まっちゃってどうしたんですか……?」

 璃晦ちゃんは私の呆けた顔を覗いてくる。

 それは更に過酷な現実を叩きつけた。


 やはり普通の中学三年生ともなれば胸のサイズもそこそこ大きくなる。

 姉ほどではないにしろ……


 そんなことを考えていたら……

「ねぇ、どうしたらそこまで大きくなるの?」

 文乃が瑠璃ちゃんに率直な意見を聞いていた。


「えっ……!?」

 彼女は困っている!


 助ける?助けない?


「っていう目でシャルルが見てたよ」

 私は勢いよく目線を瑠璃ちゃんの顔へ向かせる。そして近付く。


「だ、大丈夫だから! 気にしないで!!」

 肩を掴んで揺らす。念を押しすぎて逆に怪しまれてしまいそうだ。


 引いていた瑠璃ちゃんの顔が笑顔に変わる。

「よしよし」

 笑顔で頭を撫でられる。

(こ、この子……! Mかと思ったらSかぁーー!!)


 驚いて目を丸くしていると……

「せ、せんぱいよしよし……」

 璃晦ちゃんにも笑顔で頭を撫でられる。


「ぷふっ」

 後ろで文乃は鼻で笑っている。


 でもそんなことをも気にならない。


 あれ?何だかとても光栄に思えてきて……


(まずい!飼い主としての権限がっ!)

 私は勢いよく立ち上がり……


「ひゃぁっ……!」

「きゃっ……!」

 二人にお湯をかけたことすら気にせず……


「のぼせたから出るから」

 と言い残して去ろうとした時……


「銀色……生えてる……」

 璃晦ちゃんがボソッと呟いた言葉を聞き逃さなかった。


「こ、こら言っちゃだめ……!」

 瑠璃ちゃんが注意するもそれは遅い。


 私は真っ赤に赤面し、ハイハイ歩きで脱衣所まで猛ダッシュした。

 その後のことはよく覚えていない。


 だが、気付いたら夕飯が目の前に並んでいた。


 夕飯はひとつの部屋にそれぞれの家族皆集まり、一緒に食べましょうということになった。

 親達も親達で話が盛り上がり、とても楽しくやっているらしい。


 いただきますと言って皆箸を進めるも、私は制止している。


「おーい、お前起きてんのかー?」

 右隣の兄に目の前で手を振られて気付く。


「お、起きてるし」

 頭を振って豪華な和食にありつく。

 サンマの塩焼きに鯛の刺身。お味噌汁に漬け物と玉子焼き。そして綺麗な山盛りごはん。

 更に私だけ追加の天ぷらそば。


「んんぅ~~」

 一通り箸を付けて三角食べをするが、どれも美味……!


「文乃ー、いつからこんななの?」

 兄はもひとつ右隣の文乃に質問すると、彼女はニヤリと悪戯に笑う。


「風呂で銀色の陰も――」

 そこまで言った時、もひとつ右隣の恵美ちゃんに口を封じられる。


(恵美ちゃん……文乃のストッパーになってくれてありがとう……)

 彼女も任せてと言わんばかりに微笑んでいる。


「ふーん、そういえば確かにッ!?」

 私は兄の左膝を箸の裏で突く。


「今度抜いてあげッ!?」

 久しぶりのセクハラを冗談で言おうとする兄。そのの右膝を今度は文乃が突く。


「それやるのは私だから……しかも毛穴傷付いて増えたらどうしてくれんの? 感度下がるし今のまんまが可愛くてちょうどいいのにどうして分からないのかしらクソ童貞」

(エロゲーのセリフを使うなエア童貞!ってちょっと待って……)

 文乃のセリフに心の中で突っ込むも違和感を感じる。


(童貞……?)


『ちょっと待ってよ!僕もう卒業したじゃん!』

『は?挿れただけで中折れした癖に卒業とか何調子こいてるのよ!』

 二人はひそひそ声で言い合ってるが、隣同士には丸聞こえだ。


(恵美ちゃんでよかった……)

 受け入れ終わっているのに、そうじゃないとなるとまたそういう時が来るかもしれないというこ――


(まさか……)


 部屋は六部屋取ってある。

 恵美ちゃんの取った部屋を私達が割り勘で払い今回そこで寝る。


 でも文乃だけ兄と取った部屋があるので払わなくても良いということで私が話を付けた。


「あんたまさか……」


「ごはんちゅうですよ~」

 左隣の瑠璃ちゃんに注意されて先程の出来事を思い出す。


「あ、あぅ……すみません……」

「分かればよしよし」

 恥ずかしがる私を得意気な顔で撫でてくる。

(覚えときなさいよこの犬っころぉ……!)


 とりあえず本人が満足するまではそのままで食事を食べた。

 すぐに離したのだが、彼女は優越感に浸っていた。とても。

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