仮面

純正との一週間は私の日常に彩りを与えた。

こんなに人のこと考えるのは何年ぶりだろう…

子供のことや夫のことばかりに時間を取られてしまい、女性としての自分を見失っていた。自分の時間をシェアされてしまう生活に嫌気がさしていた。でも、私はその生活の中から抜け出せずにいた。「仕方がない」それが私の口癖だ。

諦めの毎日を過ごしながらも自分の夢を追うことができる環境…

女優としてその仕事だけで生活ができること人間など、ほんの一握りしかいない…

女優という肩書はあってもアルバイトをしながら、生計を立てていく…

私のように、コンビニの定員から始まり、時には会社員、キャバクラで勤める子、中にはいわゆる風俗店とよばれる、ファッションヘルス、デリヘル、ソープランドなどの夜の生活で生計を立てる女性などざらにいる。中には売春まがいの事までをする人も…

それに比べてみたら私の生活なんてむしろ幸せな方だろう。確かに女性としての時間を取ることは非常に困難だけれど、毎朝、変わらずマクドナルドで勤め、その後、大学に通い、夜はお好み焼き屋さんでのアルバイト。

確かに子供がいるため、食事は毎日作らなければならないし、主人の帰宅時間に合わせて、食事の準備をまたしなければならない。朝は早くから子供と、夫のお弁当を作り家事をこなさなければならない。睡眠時間は四時間もあるではないか…


保育園へのお迎えは私の方が早く出勤するため、夫が代わりに、子供を保育園まで送って行ってくれる。彼はホントに優しい人。稼ぐお金も多少だけど、少ないながらにもお小遣いさえくれる。本当にごく普通の主婦が主婦になり切れず、いつまでも芸能界という世界を夢を諦め切れないという中途半端の私…

才能にも恵まれない、顔だって特別に可愛くはない。

何者にも慣れない私…

そんな自分が時々、嫌になる。


ホントに私は幸せなのだろうか?


ごくごく普通でありふれた平凡な毎日の繰り返し。何のために生きているのかもわからなくなっていた。


あの日、純正と出会うまでは…


私のような小さなプロダクションに所属するタレントはスポンサーや制作プロデューサーに身体を張ってでも仕事を取る。何でもありの薄汚れた大人たちが寄り添う村社会。世間のブラック企業なんて甘いもの。心が絵具で真っ黒に塗りつぶされてしまう世界…

そんな世界が私の生きている「芸能界」という世界なのだ…

私だって誰にも言えない過去がある。

ほんの僅かな役をもらうために、好きでもない男と寝たこともある。

私たちは見えない力に全てを捧げる性の奴隷。

仕事さえ貰えたら、何にだってなれる。どんなことでも受け入れられる。

そんな自分を情けなく思った日など、一度もなかった。

世の中、すべては「お金」と思っていた。

正直に言ってお金がすべて…

お金がない生活なんて二度としたくはなかった。

綺麗ごとなどは私には全く通用しない。

おそらく、今でも心の中ではそう思っている。たぶん…きっと。


時折、純正といればいる程、心が壊れそうになる。

苦しくてたまらない。


純正があまりにも、純粋だから…

私は心に仮面をつけながら純正を愛している。

「愛している」と思う。



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いつか晴れた日に @junkagami

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