第2話 不安

 祝福の魔女が姫にかかった呪いを弱めてくれた。

 それは一時の安堵を与えたが、花弁が落ちて地につくまでのあいだには消えてしまっていた。


 宴の翌日、王は早速おふれを出し、国中の紡ぎ車を焼きはらわせた。

 それでもまだ王と王妃の不安は消えることなく、2人の心をじわりじわりと蝕んでいく。


 たくさんのまじない師を呼び、たくさんの護衛をつけ、姫を一歩も城外へ出ないようにし、それでもまだ、2人にこびりついた不安が拭われることはなかった。


 やがて彼らの疲弊が見ていられないほどになった頃、2人に手を差し伸べたのは王族お付きの占い師であった。

 それは黄色い薔薇ばらの造花を身につけた老婆で、曲がった背骨からは思いもよらない、堂々とした態度で王たちに相対していた。


「王様、王妃様、姫は大丈夫でございます。

 清く正しく誠実に生きた人間が報われない世界など、いったいどこにありましょう? そんなもの、決してあるはずがないのです。

 姫がお優しい心をもち、精一杯生きたのなら、それは天へ見届けられ、呪いは消え去るでしょう」


 この占い師はペテン師である。

 物事を見通す力など、一切ない。しかし、人の心を見通すことにはけていた。

 誰かが望んでいる言葉を、言ってほしい言葉を、それがまるで真実かのように投げかける。

 それがこの占い師の仕事である。


 現に王と王妃は喜んだ。

 祝福の魔女が呪いを弱めてくれた時よりも、深く深く安堵した。

 そうだ、こんな可愛らしく無垢な娘が、あの理不尽な悪意に屈するはずがない!


 その考えはやがて城中の人々にも伝染していき、やがて誰も、呪いの解決方法を探ることも、呪いの話をすることも、しなくなっていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る