◇10月22日(月)午後6時41分

 ◇ ◇ ◇


「つかれたー」


「はいはい、疲れたな」


「明日やすみたいー」


「まだ月曜日だぞ」


「休みたいのは休みたいの」


 すっかり日も短くなった10月の夜道を、幼馴染のふたりが並んで歩く。

 今日はいろいろあってふたりとも遅くなったので、せっかくだからと一緒に帰ってきたのだ。


「ねえ、こっち通ろ」


 少女の方がすたすたと、道から逸れて公園に入っていく。

 少しだけ遠回りになるので普段はふたりとも通らないのだが、今日はそういう気分のようだ。


「暗いなあ」


「そりゃ、街灯少ないし」


 小さい頃にはここでふたりともよく遊んでいた。道順は頭に入っており、スマホのライトをつけるまでもなく、彼らは歩みを進める。


「どっちかっていうと木のせいじゃないのか」


 満月とはいかないけど、月の形は結構、丸に近い。

 その光すらも地面まで届いていないのは、やっぱり木が生い茂っているからだ。


「転ぶなよ?」


「だれが転び……っと!」


 木のそばを通ろうとした少女が、少年の警告むなしく、派手にすっ転んだ。


「ほら……言わんこっちゃない……」


 ◇ ◇ ◇


「でも、泣き出さなかったのは進歩だな」


「うっさい、いつの話よ」


「小学生頃までえんえん泣いてたじゃないか」


「ぐっ……」


「だから、6年前くらい?」


「もう6年たっちゃったんだ……」


「え、そこ?」


 とりあえず、少年が街灯の下まで肩を貸して、そこで状況を確認する。


「で、大丈夫か?」


「痛くはないよ」


「じゃあ足は大丈夫そうだな」


 と、彼女の足下にひざまずくような姿勢の少年が視線を上げた。


「見た?」


「いや見えねえよ」


 スカートがめくれ上がっているわけではない。


「いやー、派手に汚れたなあ」


 ギリギリまだ夏服だったのが災いした。白色のセーラーに、土で斑点模様ができている。

 どうやら、少し湿り気の残っている土にずでーんと突っ込んだらしい。


「そんなに?」


「見てみろよ」


「写真撮ってよ」


 少女の方、どうやら自撮りは苦手らしい。


「なんで俺が……ほい」


 彼からスマホを手渡され、少女が頭を掻く。


「あちゃー」


「まあ家の近くでよかったな、うん」


「汚れちまった悲しみに」


「雪でも風でもないでしょうが」


「悲しいの?」


「あんまり」


 はあ、とため息をついて、少年が歩き出す。

 後に続く少女は、ぱんぱんと上半身をはたきながら、少し大きめの声で叫んだ。


「汚されちゃった!」


「いや俺関係ないでしょ。誤解を招くような発言すんな」


「ちぇー」


 * * *


10月22日(月)は、詩人・中原中也の命日です。

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付き合ってるわけじゃないけどめっちゃ仲いい男女ふたり組がゆるーくお話する。 兎谷あおい @kaidako

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