第31話 襲撃

 その次の日の昼、リオンはイコと共に宇宙船へと戻って来た。目的は二つある、一つは雅の立てた作戦に必要となる宇宙船のバッテリーを取りに来るため。それともう一つは、最後に戦が始まるギリギリまで最後の戦いを想定した修行をしておきたいと思ったからであった。


「戦は二日後、それまで合計二十時間くらいは潜っていられるかしら」


「……それだけでも結構気が長いな。中で一万時間もあるじゃないか」


 リオンは文句を垂れながら席につき、コネクタを頭の後ろの接続端子に突き刺した。


「じゃあ行くわよ。ダイヴ、オン」




 そして現実世界にて約一時間。仮想空間にて二十日間が過ぎようとしていた頃だった。


 リオンが味方兵達と共に矢が降り注ぐなか六城に向けて走っていると、ビービーと警告音が仮想空間内に鳴り響きはじめた。足を止め「な、なんだ?」と周囲を見回す。


「リオン! 緊急ダイヴオフよ!」


 その瞬間イコによって強制的にダイヴオフされてしまった。急激な体感時間の変化に眩暈がする。そして現実世界に戻り、リオンが目を開けると、なんと長い髪の女がリオンに向かって朧月を振り下ろそうとしていた。


「うおおッ!?」


 リオンは咄嗟に椅子から転げ落ちるようにして攻撃をかわす。次の瞬間、リオンが座っていた操縦席が縦に真っ二つになってしまった。リオンの頭についていたコードも切断される。


 リオンは「くッ、お前! 一体何者だ!」と体勢を立て直し、頭からコネクタを引き抜いた。


 女は「ききき」と妙な笑い声を上げたあと、蛇のようにチュルリと口から細長い舌を出した。


「気を付けてリオン。そいつは黒蜜。悠河を殺し、雅を裏で操っていた女よ」


 リオンは「何……?」とイコを一瞬見て考える。だとしたら相手は相当な実力者である。


 しかしなぜ生身でこんな所へ。外は吸えば死に至る毒の空気に汚染されている事、知らぬわけではないだろうに。まさか、死を覚悟でここまでやってきたというのか。


 黒蜜はリオンに向けて朧月を構える。悠長にその辺りを話している余裕はなさそうだ。


 リオンは手ぶら。もう一本の予備の刀は黒蜜の背後の机の上。圧倒的不利な状態と言えた。


「キキャハハハ!」


 次の瞬間、黒蜜は狂ったような笑い声を上げ、リオンを無視するようにして朧月を振り回し始めた。宇宙船の壁がスパスパと切れて、破壊されていく。


「な、何をするぅーッ!」


 リオンは血相を変え黒蜜に向かって駆けだした。黒蜜はそれに合わせ刀をリオンへ振る。


 リオンはスライディングでそれを避け黒蜜の背後へと回った。机の上にあった刀を手にする。


 お互いがほぼ同時に振り向き、刀を振るう。攻撃はリオンの方が速く、そして精確であった。


 リオンの刀の切っ先は、黒蜜の朧月を持つ手を捕え、黒蜜の手に大きな切れ込みが入る。


「ぎゃっ!?」


 その攻撃により、黒蜜は手から朧月を落としてしまった。


 続けざまにリオンは黒蜜の腹を突き刺し、そして抜く。すると黒蜜は「うぐぐぐ」と腹を押さえながらよたよたと後方へ歩いた。リオンは即座に床に落ちた朧月を手にする。


 それを黒蜜に向けて構えた時だった。黒蜜は船体に開けた穴に上半身から突っ込んでいった。そしてぐにょぐにょと体をくねらせてそのまま宇宙船の外に出ていってしまった。


 リオンがその様子を唖然として見ていると「はやく、宇宙服の装着を」とイコに促された。


「あ、あぁ……」


 開いた穴から汚染物質が流入してきている。リオンは宇宙服を着用してフードを被った。


 その後、船の被害を確かめたリオンは「くそ!」と悪態をつきバンと壁に拳を叩きつけた。


「ワープ機構が破壊されてる。はっきり言って、ここにある道具では直す事は出来ないわね」


「そんな……馬鹿な……」


 リオンは壁に拳を当てたまま、その場に膝をついてしまった。こうべを垂れて床を見つめる。


「終わった……。俺はもう……ファニールに帰れないじゃないか」


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