片桐尚樹の周りには変な人が集まってくる

阿房饅頭

第1話 貴水和姫と三宮秀隆という中学生の腐れ縁

 とある高校の冬の温水プールのプールサイド。そこに二人の人がいた。

 片方の僕こと、片桐尚樹は困っていた。

 首をかしげて、今の現状をどうやって打破するのか。

 無理ですと言って逃げたかったのだが、まあ、もう一人がそれを許さないぐらいに怒っていて、何をするかわからない。


「ぶっ殺すニャ!」


 その声はいつもの貴水和姫というクラスメートの声だが、語尾が痛いんだが、それ以上に言葉がストレートにやばい。

 そりゃそうだ。

 顔を真っ赤にして、何故か猫耳のヘッドバンドをつけて、後ろには黒い尻尾を生やしている。しかも、コスプレとばかりの白ランの上着を前開きにして、黒ビキニを全開にしている。

 だが、僕だって、困っていた。

 裸に近いその恰好。体の発育はいいのか、その惜しげもなく体のラインを出される黒いビキニは僕には眩しすぎる。

 

「その女顔の透かした顔をひっかきまわすニャ」

「僕の気にしていることを言うな。うう、ああっもう! どうしてこうなったんだろう」

「この猫耳ヘッドバンドをアンタがつけていれば良かったのにニャ!」

 そりゃ、どうも。僕だって、つけたくないよ。男だよ。しかも、訳の分からないコスプレみたいな服とビキニ。

 僕は男だ。

 和姫なら、そのハーフな金髪にツインテールならまだ似合う。しかも場所が冬の高校の温水プールときた。

 誰もいないし、とりあえず、今から何とかすりゃどうにかなる。


「ふむ。これは私の作った猫耳水着っ娘作成装置ではないか。しかも、つけているのが和姫など最低ではないか」


 そこに現れたのは天才と何とかは紙一重と言われたうちの高校の科学部のバカセこと、三宮秀隆であった。

 

「やっぱり、あんたが作ったのニャ! 三宮バカセニャ!」

「落としたものを安易に拾うなと言われていなかったのか。この見た目だけはいいのに性格がツンデレツインテールのクソ、残念貴水和姫よ。まあいい。しばらくはそうしていろ」

「ニャアアア! 殺すニャ! 後で絶対に殺すニャ!」

 しかし、そんな和姫の言葉に対しても秀隆はフッと冷笑を浮かべるだけだ。

「で、何で猫耳ヘッドレスを付けたら、マニアックな格好になるものを造った?」

「それはまあ、もちろん。お前につけてもらうためだ。君のような男の娘なら、顔を真っ赤にしながら股間を隠しつつ、恥じらいを見せながら照れてくれる現場を見せてくれる。だからここに呼びつけた」

「とりあえず、死んだ方がマシだなお前」


 大抵はこのバカセ(作るものはロクでもないが、すごいものを作るから)こと、三宮秀隆、あと何も考えない貴水和姫のトラブルに巻き込まれる片桐尚樹の3人はこの学校の名物らしい。

 正直ロクでもなくて、僕は非常に迷惑をしている。

 しかも大体は秀隆が作るロクでもないものは「尚樹を愛しているからさ」という意味不明な論理で作られているのだが、大体和姫がその地雷を勝手に受け止めて、被害を受けている始末である。

 大体今回も僕は止めたのだ。

 冬の学校の温水プールに来いというFINEに対して、和姫が面白いから行こうよと引っ張っていって、そこにあった猫耳ヘッドレスをつけろと僕に強制。

 しかし、プールサイドでスッ転げて猫耳ヘッドレスを触った和姫の手が勝手に動いて、猫耳ヘッドレスを頭に装着。

 何故か白学ランに黒ビキニというコスプレ感たっぷりの恰好になったわけだ。

 

「元に戻すニャ!」

「少し経てば勝手に戻る。だから、それまでは楽しめ」

「楽しめるわけないニャ! 血祭りニャ!」


 と言いながら、和姫が秀隆の顔に殴りかかろうとする。

 しかし、それをひょいひょいと秀隆は避ける。

 この秀隆は感性がおかしいだけで、運動神経も良くて顔もかっこいい。メガネを付けているが、知的な男と呼ばれており、隠れファンも多い。

 だが、すべてはこのバカセと僕への訳の分からない愛(ホモじゃないらしい)がすべてを台無しにしている。

 

「ウニャアアアアアアアアアアアアア! この女顔ニャロメ! 助けるニャ!」


 和姫も北欧ハーフらしい綺麗な顔立ちと明るい性格はよいのだが、割と変なことに首を突っ込む。

 気づけば、大体こうやって馬鹿な目にあってしまう。

 僕がフォローをしなければ、大体変なことに合う。

 ま、中学からの腐れ縁の子の三人組。

 毎度のことだから仕方ないんだけど、ホント、フォローする僕の身になってよ。

 

「ふむ。では、尚樹も男の娘になってみないか。ほら、このヘッドホンを付ければ」


「嫌だ」

 コンマ1秒で返す。

 秀隆はふむと言いながら、和姫の拳を避ける。

 そして、彼女はスッ転げた。

 

 そして、大惨事は起きた。


「ニャアアアアアアアア! 私のビキニの上が外れ、尚樹邪魔ニャアアアアアアア!」


 ああ、ふわふわする女の子の感触幸せ。

 しかしそれは悪夢の前。

 

「ウニャアアアアアア」


 平手打ち一閃。

 ついでに一発入れられる右腕の拳と隠れた大きな胸が揺れるのが幸せ。

 あ、すっごい肌色。ももがいっぱいぶるんぶるん。

 すっごい揺れて、何というか、支えてくる左手からこぼれそうなお肉がすごく眩しくてたまらないのです。

 ふよんふわん、ふよん。

 あ、なんですかね。これしあわせとかそんなのですかね。

 次は拳だ。

 幸せと衝撃がきて、何かもうどうでもよくなってきた。

 あー最悪だ。

 

***

 

 目が覚めると保健室。

 そこにはいつもの天井。

 和姫がいつもの紺のブレザーを着て寝ていた。

 

「看病疲れで寝てる」

「感謝しろよ。俺が連れてきて、看病したのは貴水和姫だ」

「あーはいはい」

 

 大体の原因はこの二人の騒動に巻き込まれて、僕が高校の保健室に担ぎ込まれるのはいつも通りのことだ。

 ま、これも慣れた。

 今はあきらめにも似ている境地まで至った、

 むしろ一周回って、この三人で馬鹿をするのはそんなに悪くはない。ただ、フォローをするのが大変なだけだ。

 

「で、ヘッドホンを付けてくれる約束などは?」

「ない」

 ま、疲れるけどね。

 

「やっと起きた。心配したんだからね」

「寝てたのはお前だ。貴水和姫」

「あーもう、どうでもいい。そんなことよりも一発殴らせろ」

「ふん。お前が勝手に拾っただけだ」

「あっそ。なら勝手に殴るわよ」

 という二人のやり取りに額に手を当てながら、僕はため息をつく。

 

 ま、いつものことだから仕方ないのかね。

 外は夕方。

 今日もこんなドタバタな放課後だったけど、高校1年の冬は長くなりそうだ。

 

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