第10話 ミッションダイアナ CASE OF ハヤト2

8月30日11:50

 元王妃が夕食をしているホテルに潜入成功。


8月31日0:03

 元王妃と婚約者に自己紹介と、車に一緒に乗ることを伝える。

「元王妃に接触完了。挨拶をして車に同乗する事を伝えました。怪しまれておりません」

 無線で報告を終えると同時に、少し緊張気味で現れたポールを確認する。ポールは元王妃、婚約者と少し会話をし、笑顔すら浮かべている。

「ポールの姿を確認しました。ポール本人で間違いありません」

 元王妃と絶妙な距離を保ちながらポールを監視し続ける。

 ここまでは、予定通りだ。


8月31日0:18

 元王妃がレストランから出てくる。ロビーで合流し裏口から出た瞬間、シャッター音と共に目が眩むようなフラッシュがたかれた。

 左手で眩しいフラッシュを遮りながら、元王妃を車に乗せると、ポールが運転席に座るのを確認して、助手席に乗り込んだ。


 車は、多くのメディア蹴散らすように進みだすと同時に、後方からバイクのヘッドライトの数が増えていく。

 車の前後左右をバイクに乗ったカメラマンに囲まれ、常にフラッシュがたかれ続ける。

 後部座席の元王妃と婚約者も、カメラマンの多さに困惑しながら、お互いの手を強く握り合っている。不安な気持ちが仕草や表情から伝わってきた。


「まずいな……、どこで……」

 ふと、ポールに目をやると、額から汗が流れている。そして独り言を呟いている。

「ハヤト! 外からの援護は難しいかもしれない……元王妃及びポールの様子はどうだ?」

 無線機からクルム先輩の声がする。外を見ても先輩のバイクがどれなのか分からないくらいのバイクの数だ。とりあえず、車内の様子だけでも報告しなきゃ。


「こちらハヤト、今のところ変化はない。しかし、この状況にポールが少し焦っている様子だ……スピードが少しずつ上がってきている」

 そう報告してスピードメーターに目をやると……110km


「ポール、少し速度が速いぞ! もうちょっと安全運転で頼む。元王妃が怖がっている」

 運転席のポールにそう話しかけてみるが、ポールはサイドミラーとバックミラーを交互に見ながらスピードメーターなんて見ていない。


「そんなことより……このバイクたちを引き離さなくては!」

 そう言うと、ポールはアクセルを踏み込んだ。


 スピードメーター135km。ポールがスピードを上げても、バイクは引き離されまいとスピードを上げる。


「おい運転手、スピードを出し過ぎじゃないか?」

 婚約者は元王妃の肩に腕を回しながら強い口調で言った。

 それに反応してか、元王妃も婚約者に身をあずけながら懇願した。

「とっても怖い、私は写真を撮られることに慣れているから全然平気。だからスピードを落としてちょうだい」


「ポール! これはストリートレースじゃない! スピードを落とせ! これ以上は危険だ!」

 僕の必死の叫びにも耳を貸さず、ポールはアクセルを踏み続ける。


「少し危険なスピードだ! ハヤト……シートベルトをしてくれ、そして元王妃にもシートベルトを!」

 無線からユウマ先輩の声が聞こえて慌てて自分のシートベルトを締める。


 そして、後部座席の2人にもシートベルトを締めようと、手を伸ばすが身を寄せる2人、固く結ばれた手が邪魔になっている。

 いくら大声で叫んでも、エンジン音でかき消されてしまう。


「お願いだ! シートベルトをして下さい!」

 そう叫んだ瞬間、車内がトンネルのオレンジ色のライトに包まれた。

 一瞬状況を確認しようと体制を立て直す。スピードメーターは150kmだ……。


 その瞬間、強い衝撃と共に体中に激痛が走った。


 目を開けると目の前には大きなコンクリートでできた柱。

 ポールはハンドルに体をあずけたまま微動だにしない……。

 後部座席からは元王妃の微かなうめき声が聞こえる。


「ポールの野郎……やりやがったな……イテテ」

 声にならない声で叫んだ。


 すぐに、ユウマ先輩とクルム先輩が現場に駆けつけ元王妃の応急処置にあたっていたが、二人は深刻そうに話し込むと、ミッション終了の報告を無線でミエコに伝えた。

 それは当然僕の無線からも聞こえてきた。

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