第17話  特殊能力

 

「ねぇ」

 

 石見知子がじっと見つめる。いつになく真剣な表情で。

 

 こうしてまじまじと見ると、なかなか美人だ。あのバカっぽい話し方で、こいつはだいぶ損してるなと思う。ぼくはぼんやりと、そう思っていた。そんなお気楽なことを考えていたのは、石見知子が重大なことを言うことをこれっぽっちも予測していなかったからだ。

 

「アメリカ人みたい」

 

「えっ!?」

 

 ぼくは言われた意味がまったく分からなかった。

 

「なに?」

 

「だからぁ、アメリカ人みたいよぉ」

 

 たしかに田名瀬に比べれば、目鼻立ちはハッキリしている。でも西洋人と間違われたことなど、今まで一度もない。それでもぼくは、なんとなく自分の鼻と眉毛を触った。

 

「違う違う~。言葉がよぉ」

 

「言葉?」

 

「うん。発音が」

 

「発音?」

 

「そう。英語のね。ポテトとかぁ、この前のチーズケーキとかぁ」

 

 予想もしなかった言葉に、ぼくはなんの言葉も出ない。自分では何一つ意識していないのだ。

 

「ねぇねぇ、留学する気なのぉ? どっかで習ってんでしょ。ホント~、外人みたいだもん。もうこの前からビックリしてたんだけど~」

 

「いや、習ってないよ」

 

「またまたぁ。だって店員さんだって驚いてたじゃない~」

 

 ぼくは妙にどぎまぎした店員の態度を思い出した。

 

「うーん……」

 

「でもさぁ、こんなに短期間でそんなになれるなんて、ルカッチ、語学の才能ありありじゃん~」

 

 そこで石見知子は、いつもの緩い表情に戻った。

 

「どこ行くの?  アメリカ?  イギリス?  そっかぁ、それで就職しないんだ」

 

 才能……。

 

 ぼくは即座に、社長室で言われた、あの社長の不思議な言葉を思い出した。

 

「うん。そうだなぁ、例えば、なんだかいきなりできるようになったこととか、覚えた記憶のないものが詳細に頭の中に入っているとか」

 

 社長はそう言った。そしてぼくが、なにも変わったところがないと言うと、まだ気づいていないだけなのかと、ボソッと呟いたのだ。

 

 ―― これはもしかしたら……。

 

 発音がネイティブ並みになったのかもしれない。ぼくはそう思い、石見知子に話を合わせ、次々と横文字の品物を言っていった。

 

「すごいよルカッチ。外人そのものぉ」

 

 でも、とぼくは思った。実際に英語圏の人間と話をしてみないと分からない。石見知子では役不足だ。

 

 そしてもう一つ思った。こんな能力が付いたところでどうするのだろう、と。

 


 

 

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