第5話  カカオ豆

 

 カカオ豆生産量トップのガーナやコートジボワールがあった場所に、この異世界では違う国がある。その国には、カカオの樹が生えているのだろうか。樹があって、利用できないで無視されているのか、それとも、樹そのものがないのか。

 

 それじゃあひとつ、社長の誘いのままに行ってみるか。行ってみれば一目瞭然じゃないか。行ってみるのが最も早道じゃないか。あれほどまでに頭の中を支配していたチョコのことなんだぞ。なにを躊躇する。ましてや、本来なら莫大な費用がかかるというのに、それがすべて社長持ちなんだぞ。

 

 自分の中に住む自分が、そう言っている。

 

 しかし、自分の中にはもう一人、自分が住んでいる。そちらの方の自分は、そんなところに行って大丈夫なのかと不安がっている。アフリカの国のいくつかは、政情不安で内戦状態なんだぞ。しかも行こうとする国は、名前すら知らない国とくる。何ひとつ分からない場所に踏み入ちゃって平気なのか?  そう言って思いとどまらせようとする。

 

 社長と別れてすぐ、この相反する気持ちにあっちだこっちだと引っ張られた。ぼくはただ気持ちを高揚させたまま、堂々巡りの考えを繰り返すだけ。こうするぞっ! と決められない。

 

 それですぐさま、社長と会う約束を取った。その、カカオ豆を探す旅の詳細を聞くためだ。とりあえず社長と会うことを取り付ければ、その時までは自分の回答を留保できる。

 

「じゃあ、明後日にでも会おう!」

 

 社長はすぐに返答した。社長はこの一件に、ものすごい乗り気なのだ。

 

 翌日ぼくは、社長に聞くべき事柄をまとめた。

 

 その資料を作成しながら、なんかこれって、結局行くような展開になってしまうのだろうなと漠然と思った。

 

 資料を作り終えると、ぼくはベッドにごろんと横たわった。カカオ豆のことが頭から離れず、なにもする気にならなかったからだ。天井を見つめながらぼんやりと考えているうちに、寝てしまった。

 

 そしてその翌日の昼、ぼくは田名瀬食品を再び訪れ、社長室に通された。

 

 

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