第十一幕 世界を開いて

「……………………」

 ごうごうと恐い音が絶えず繰り返す。時々より大きくなる音は、そのうち立ち尽くすユキの足もとまで迫って呑み込もうとしてくるのではないだろうか。

 寄せては返す泡立つ波も、その向こうも、青いのではなくただ暗い。不気味な灰色をして、とてもこのどこかに美しい王国があるなどとは思えなかった。それどころか、生き物の住む場所じゃない。

「ユキ?」

 半ば放心しているユキを、アレクシスが横から上体を倒して覗きこんでくる。ユキはモノトーンの視界に藍色が映った瞬間、目の前にどこまでも広がる海から目をそらして彼にすり寄った。

「こわい……」

「まあ、空がこれだけ曇っているとね……あんまり色は綺麗じゃないよね。大丈夫だよ、ここにいれば、波はここまでは来ないから」

 アレクシスが小さい子にするように肩を抱いて、波の音にかき消されないようユキの耳に唇を寄せて言った。その吐息の湿ったあたたかさにほんの少し安心して、ユキはもう一度鈍色(にびいろ)の海へと目を向けた。

「海って、凍らないの?」

「うーん、もっとずっと北の国で、もう少し寒い時期になると凍ることもあるっていうけれど、この国では凍るほどではないかな」

「北の国で海が凍ったら、海のいきものたちも凍ってしまうの?」

「凍るって言っても底まで全部凍ってしまうわけじゃないし、寒さに耐性があるいきものは氷の下で暮らしているよ。寒い地域じゃないと見られないいきものもいる。もちろん、餌の問題などで冬になると南下して温暖な地域で過ごす魚もいるよ。そのあたりは渡り鳥と一緒だね」

 冬の海水浴場に、ユキとアレクシス以外の人はいなかった。海鳥などのいきものの気配もない。本当にこの波の引いてゆく先に、暮らしているいきものなどいるのだろうか。

 あまりに広く寂しい景色を前に、アレクシスのコート越しのほのかな温かさだけを頼って足が沈むような砂浜に立っていると、まるで灰色の世界にふたりだけで取り残されたかのような気がしてくる。感傷に浸るユキのいっぽうで、黙り込んだユキを元気づけようとしてか、アレクシスは穏やかな声音で話しはじめた。

「その昔、人類の、そもそもいきものみんな……いのちは海で生まれたのだというよ。海からはじまり、長い年月を海で過ごしつつ進化を繰り返して、やがて陸へ上がり、足を得、そのいきものたちのうち二足歩行をはじめたのが人類の祖先。だから海のことを『母なる海』と呼ぶ。お母さんのおなかのなかの羊水は、海水と近いんだって。そして赤ちゃんは、いのちの発生と進化の過程をそっくり辿るように成長し、人間として生まれてくる」

 目の前の得体の知れない海を、母なる、などと慕えるような気はしない。いのちが海から生まれいずるものであるなら、なぜユキはこんなにも海が怖いのだろう。自分は海とは相容れないいきものなのではないか。人魚の子なんてとんでもない。

「でも人は、海のいとなみとはずいぶん遠いところまで進化したよね。そう思わない? 僕たち、とてもじゃないけれど海では生きてゆけないよ」

「人にとって、それは自然なことだったのかしら」

「必然、かな。よりよい世界を目指した結果なのだろうから。それが人類といういきものに与えられた才能、天運だったんだよ」

 ユキはゆっくりと体重を自分の両足に戻し、そっとアレクシスの腕を放して、一歩、波打ち際へ踏み出した。生まれてこのかた石畳か木の舞台ばかり踏んできた足は、足の裏に滑る砂の感触に慣れそうもない。波が砂浜に描く濃い境界線より先へは決して行かない位置で止まり、鞄から小さなハンカチの包みを取り出して解く。

「貝殻?」

 隣に並んだアレクシスがユキの手の上に乗るものを見て不思議そうに言った。海を見たことがないとユキが言っていたからだろう。

「わたしのお父さんとお母さん」

「えっ?」

「そう聞かされて育ってきたの。わたしは人魚の子で、お父さんとお母さんは遠い海に住んでいて、この貝殻はふたりが贈って寄越したものだって」

 朝、出かけるまえにマントルピースから無造作に貝殻をつまみあげたユキを見て、ニコおばさんはひどく驚いたようだった。なくしてはいけないからと、ユキがそれを持ち出そうとしたことは今までに一度もなかった。だが今朝のユキは貝殻をハンカチに包んで鞄に仕舞い、空のフォトフレームもついでに鞄に入れて、まったくいつも通りに玄関で靴を履いた。

「人魚の子だから、人魚姫をやるのには他の子よりわたしが一番ふさわしいんだと思いたかった」

 ニコおばさんは不安そうにユキを追いかけてきて、もの問いたげにユキを見ていた。だからユキは訊かれる前に答えた。

「そんなの嘘だって、大きくなるにつれてどうしたってわからずにはいられなかった。でも、嘘だと認めるには、わたしの自信のすべて、わたしのすべてが、寄りかかりすぎていたのよ。陸で生まれた人魚の子だっていうのが、わたしがじょうずに歌が歌えて、踊りも踊れる根拠だったのに、人魚の子なんかじゃないって知ってしまったら、わたしはなんにもないただのユキになってしまう。それがとても怖かった。だから人魚姫のオーディションで、他の誰よりわたし自身に対して証明したかったの。わたしは本当に才能のある人魚の子なんだって。でもだめだった。わたしはやっぱり人魚の子じゃなかった」

『もうこれはいらないから、返そうと思って』

『返す? でもこの寒い冬には、あなたのお父さんとお母さんは』

『うん。でもね、もういいの。……おばあちゃん』

 腰を抜かしてへなへなと玄関先にへたり込む姿を最後までは見ないで、ユキは扉を押し開けて外に出た。

「嘘をつかれていたことが許せなかった。お父さんとお母さんはわたしを捨てたのに、まるでそんなことなんてなかったみたいに、わたしを特別に大切に思っているかのような作り話をして、愛しているけれど置いて行かざるをえなかった、あなたが大切だからこんな話をするのよって、愛を言い訳に何度も騙して。わたしに寄りかからせるために信じ込ませておいて、そして頼りきったところで粉々にした。わたしは、愛なんておとなの都合のいい道具でしかないんだって思った」

 ユキは手のひらからハンカチを取り去って、貝殻だけをぎゅっと握りしめた。その手を思い切り振りかぶる。アレクシスは止めることもなく、黙ってユキが喋るのを聞いて、見ていた。

 渾身の力で投げた貝殻は、思ったよりも遠くへは飛ばなかった。頼りないいびつな放物線を描いて情けないほど近いところに落下したふたつは、できるならもっとずっと遠くへ、二度と手の届かないような場所へ投げ捨てたかったのに、これではその気になれば簡単に取り戻せそうである。だが、立て続けに落ちて水面に小さな飛沫を上げた貝殻は、水面を通り抜けたその瞬間、波にさらわれたかそのまま沈んだか、どちらかさえわからないまま、どこにも見えなくなった。

 拍子抜けするほど惜しむ気持ちもない。すっきりしたということもない。何かが変わったようにも思えなかった。

「思ったよりなんてことなかったわ」

 水平線まで鈍い色の海が続いている。水平線から上にはたれこめた雲で灰色をした空が続いていて、おとぎ話に語られた青く美しい海など影も形もなかった。現実はこんなものと言いたげな景色だ。

 でもユキは、きっとそうでないことを、もう知っている。

「あとはこれ、どうしよう」

 ユキは左手に残った空のフォトフレームに目を落とした。さすがにこれを海に投げ入れてはゴミを捨てるのと同じように思えて気が引ける。ユキにとっては用済みだからといって、ゴミだと思っているわけでもない。

「そのフォトフレーム、どうして空なの?」

「家族写真の代わりだったの。これの前にさっきのふたつの貝殻を置いて。でも考えてみれば、わたしの写真さえもなかったわね」

 ニコおばさんがきちんと埃を払っていたおかげで、十数年置かれっぱなしになっていてもあまり汚れたところのない木のフレームを指さきでなぞる。このフォトフレームにもし心があったなら、どんな気持ちで十数年もからっぽのまま置かれていたのだろう。しあわせな家族の写真を飾られることを夢見ていたのかもしれないのに、ユキに恨まれながら、むなしくマントルピースを飾っていたフォトフレーム。ユキのおとぎ話が壊れた瞬間に、何の変哲もないただのフォトフレームになってしまったかわいそうなもの。役割を一度も果たしてもらえないうえ、貝殻のように帰る場所もない。つい本気でフォトフレームの気持ちを想像したために、惨めな気持ちがユキにまでこみ上げる。灰色の海から吹きつける冷たい潮風が容赦なく心まで冷やしてゆく。

 そんな中、しばらくユキと一緒にフォトフレームを見ていたアレクシスが、ためらい含みで自分の鞄を探りながらユキに視線を移した。

「ねえ、もしきみが気を悪くしないんだったら、だけど、きみの写真を撮ってもいい?」

「わたしの? いいけど。アレクシス、写真を撮る趣味なんてあったの?」

 フォトフレームから顔を上げて頷いたユキの前にアレクシスが取り出したのは、携帯端末や安価な小さいデジタルカメラではなく、明らかに気合いの入ったゴツいカメラだった。重そうで、アレクシスの繊細な手にもあまり馴染んでいるようには見えない。

「僕の趣味じゃないんだけどね」

 ユキははっとして、すぐに表情を隠した。さくさく砂を踏んでユキから距離を取ったアレクシスに、もうちょっとこっちを振り返って、と言われ、海を正面に立っていた身体を半分振り返らせる。劇団の公演用プロモーション写真を撮られていたころを思い出した。雲に隠れて見えない太陽の位置を目で確かめ、なんとなく光の強いあたりを意識して自分への光の当たりかたを調整する。

「どんな写真を撮りたいの?」

「今のきみの姿」

 言うのとほぼ同時に、アレクシスは合図もなしにシャッターを切った。ユキはアレクシスの肩越しに砂浜から道路へ続く階段をぼんやり見ていたところで、アレクシスが撮りたいポーズがわからなかったので、視線だけ動かしてカメラのレンズをとらえた。

「うーん、きみの髪の色がうまく撮れない……難しいなあ」

「白髪にだけはしないでね」

「そうしたいんだけど、いったいどうしたらいいんだ」

「ええ?」

 大きなカメラに隠れてアレクシスがどんな顔をしているのかは見えない。逆にレンズを通してユキの表情は丸わかりだろう。なにやら唸りながらカメラを操作しているアレクシスをよそに、ユキは手持ち無沙汰にフォトフレームをいじった。

「あっ、ちょっ……!」

「なあに?」

「待って、こっちを見ないで、フォトフレームを見てて。ああ駄目だ、目の色がうまく映らない。僕の目で見えている綺麗な空色がどうしてそのまま撮れないんだろう?」

 カメラばかりが立派で、情けない声をあげるアレクシスが可笑しい。目の色を撮りたいならなるべく目を開けていてあげるのがいいのだろうが、ユキは顔がほころぶのをおさえられなかった。演技モードでいれば表情を作れても、今はそうしたくない気分だ。

 笑み崩れる顔をそのままに、せめて言われたとおりフォトフレームに視線を落としながら、ユキは波の音を抜けてアレクシスにも聞こえるよう舞台の上と同じように声を張り上げた。フォトフレームの見た夢。でも、本当は夢じゃなかったかもしれない。それをこの子にも教えてあげたい。長年の八つ当たりのお詫びに。

「あのね、きのう役所の夜間窓口で戸籍を取ったの。もっと早くにさっさと確かめていればよかったんだけど、勇気が出なくて知らないふりをしてた」

 シャッター音がした。アレクシスは何も言わない。でも聞こえているだろう。

「わたしのお父さんとお母さん、たぶん、わたしを捨てたわけじゃなかったんだわ。死亡日時が同じで、だから事故か何かなんでしょうね。わたしが一歳半のとき。全然憶えてもいないけれど、どうしてかな、わたしは両親に守られたような気がするの」

 戸籍に記された文字を見たときには長年の胸のつかえが取れてほっとした。だがそれだけで今さら、何の記憶もなく、感慨もなかったのに、アレクシスのカメラがじっと見ているのだとわかっている今になって、目頭がどうしようもなく熱くなった。

「わたしがそう思いたいだけなのかも。本当のことは、知っていそうな人に訊いてみないとわからないし、その人がわたしにずっと嘘をついていた張本人だから、事実を教えてくれるとも限らない。でもね……」

 嗚咽がこみ上げ、フォトフレームのガラスに水滴が落ちる。瞬きをして、まつげの先からしずくが離れた瞬間にも、相槌のようにシャッターが切られた。世界を切り取って大切に手中に抱こうとするような、やさしい音だった。

「何者でもない、ただのわたしを、ずっと大切に思ってくれていた人が……人たちがいたのよ。お母さんとお父さんも、ヘレナ先生も、ヨハンさんも、ニコおばさ……おばあちゃんも、本当にわたしを大切にしてくれていたの。わたしが嘘だと思ったことも、裏切られたと思ったことも、言い訳はぜんぶ愛だったけど、それは本物の愛だった」

 言い訳の道具に何の価値があるのかと思っていた。でもほんの少しの真実を知るだけで、涙が零れ、胸が震える。それはユキがおとなになりかけてようやく、愛を知るようになったからだ。どうして人魚姫の物語で、愛があんなにも貴いものとして描かれたのか、そのわけを、ユキはようやく理解できた。

 真実の愛は人を生かす。

 涙を手の甲で拭って、濡れた頬に潮風を感じながら、ユキは顔を上げた。

「アレクシスも知っているのでしょう」

 滲む視界で、カメラを外したアレクシスの目も揺れて見えた。

「だって、わたしにそのことを教えてくれたのはアレクシスだもの」

 誰かを愛することが、数え切れないほどの人びとのなかから、特別なたったひとりを見つけだす。かけがえのない人を知る。そして、愛する心を知ることで、愛されていたことに気づく。

 胸が苦しい。この心のすべてを明け渡すことができたなら、丸ごと差し出したっていい。あなたを愛している人がいることを、どうか知ってほしい。おそらくは、かつてあなたのすぐそばにいたその人と同じように、あなたをどんな宝物よりいっとう大切に思っているのだと、伝わって。

「何者でもない、ただの僕を大切に思ってくれた人は、いたよ。その人だけが僕には価値があるのだと言ってくれた。本当は、僕には何もなかったのに」

「そんなことない」

 ユキが涙の滲む声で否定すると、アレクシスはあっさり、「うん、もう知ってる」と答えた。ユキに向けられた表情は穏やかだった。瞳にうかぶのは悲愴感でもなく、ただ昔を懐かしむ淡い思い出の色だ。

「『フロル』は、その人の作品の名前だった。僕ではなく、その人にこそ才能があった。誰の目にも明らかに。僕はただ、兄さんに言われるがまま写真を撮られているだけだったんだ。兄さんの言葉は魔法みたいで、僕は従っているだけでどんなふうにもなれた」

 アレクシスが左手で抱えたままの大きなカメラを撫でる。そのカメラが、かつてアレクシスを撮っていたその人の愛機だったのだろう。

「なのに兄さんは、僕を庇ってあっさり死んでしまった。車の事故で、運転していたのも兄さんなのだから、ハンドルを逆に切っていれば自分は助かったのに、助手席にいた僕を庇ったがために対向車が兄さんを直撃した。……なんて馬鹿なことをしたんだろう、この人って、いつまでも僕は思っていた。死んだのが僕であればどれほど」

 ユキはアレクシスに歩み寄り、カメラを撫でる彼の骨ばって大きな手の甲に自分の手を重ねた。

「『フロル』は兄さんじゃないと作れない作品なんだ。兄さんなら、被写体が僕じゃなくても、いくらでも作品を生み出せたはずだった。でも僕ではだめだ。僕じゃ兄さんの『フロル』を生み出せない」

「写真集を見たわ」

 ユキはアレクシスの顔から、瞬きひとつ惜しんで目を離さなかった。彼の顔にどんな感情がうかぶか、考えると怖いとも思う。だけど彼の心に近づかずにいては、ユキの想いも伝わらない。

「とっても綺麗だった。わたしが写真に撮って残したいと思ったとおりのあなたがいた。写っていたのはみんなアレクシスだったわ。わたしの知る、いつものアレクシス。あなた以外の何者でもない。ねえ、わたしにとって、フロルはあなたなのよ。わたしがユキという名とネージュという名を持つように、あなたにもアレクシスとフロルという名があるだけ」

 その違いは、ダイヤモンドが光の角度で輝きを変えるように。

 アレクシスが、ユキの瞳に映る自分の姿を見ようとでもするかのように、ぐっと目を近づけてきた。ユキもまた、アレクシスの藍色の瞳に映る自分の影を見る。

「想像して」

 ふたりの声が重なった。

「何を?」

 とっておきのひみつごとを交わすように、アレクシスが笑みまじりに潜めた声で訊く。

「そうね……春が来るフロル・ネージュの街。まだ花芽はつぼみで、風だけが春の匂いをしているの。陽の光は透き通って明るく街を照らしている。あなたは春が来るのを予感しながら、街の人びとのなかでひとりだけ最後の冬を待っている。ともに季節を巡るために。冬は春が来ると溶けて消えてしまうのだけれど、あなただけは冬を守って一緒に世界を眺めようと約束したの。次の冬がやってくるまで。そして冬が来たら、今度は冬があなたを守ってくれる」

「なんだか具体的だね。それはなに?」

「ネージュの新曲」

 それだけで、アレクシスは何事かを察したようだった。仕方ないなあ、というふうに、でもどこか満ち足りたように笑って、ユキから額を離す。

「じゃあ、歌って、ユキ」

 離れた瞳の代わりに手と手を絡めて、そこは離す気がなさそうに向き合ったアレクシスがうながす。ユキは潮の匂いがする、知らない街の空気を胸いっぱいに吸い込んだ。

 冷たい雪の匂い。頬に触れるのは凍える風。でも想像して、いつもの街の春の気配を掴む。光が満ちて、世界が開いてゆく。



 もうすぐ春が来るの。みんなが待ってる。でもあなただけは、わたしを待ってくれている。

 柔らかな花びらのあなた、硬い種子だったあなた、わたしの手の中から頼りない芽を出したあなた。

 冬のあいだずっと一緒だった。これからも一緒。

 あなたとふたり、どんな季節でも駆け巡る。

 春が来たら夏が来るの、夏が来たら秋が、秋の次にはまた冬が。そしていくたび、春が来る。

 繰り返す世界を見ていた。繰り返し、繰り返し、そのなかで少しずつ変わってゆく世界を、あなたといつまでも見ていたい。

 春が来るわ。冬が終わる。またしばらくお別れね。でも次の冬は、きっと同じ冬じゃない。

 次の冬には何があるかしら。どんな新しいことが起こるかしら。

 あしたは、あさっては、その先は、何が待っているの?

 楽しみね、何かが起こる。どんな時でもわたしはあなたのそばにいる。



「フロル・ネージュの街の大通りが見えたよ。きみを想いながら、これまでのことと、きみと過ごすこれからのことを思いうかべて、僕はきみを待っていたよ」

 待ち遠しいな、とアレクシスは呟いた。春の訪れを予感させる花の笑みが、朗らかで薄紅色をした頬にうかんでいた。



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