マルドゥック・レヴェナント

@higumahi

第1話

登場人物

ディムズデイル=ボイルド

元軍の爆撃機乗りの09委任事件担当官。重力を操るフロートの使い手。


フリント・アロー

元警察特殊部隊の09委任事件担当官。全身に金属の外骨格を纏うハードスキンと特殊軍刀の使い手。ボイルドの相棒。


オデット

白い少女。衛星軌道上にある宇宙開発の為の研究所で人間が宇宙に適応するための実験で作られた存在。

戦争が始まった頃に資金不足でプロジェクトが頓挫して禁止されていた人体実験の生きた証拠のため処分される。

死にかけていた所をノアと出会い救われる。


ノア

単体で宇宙を漂う存在。外見は虹色に輝く身体を持つ巨大な魚のような姿。何百種類の生き物の特徴を備えている。生き物というよりは霊体や意思を持つエネルギーの塊?のような存在。

地球の近くでで自分と交信出来る少女と出会う。



舞台設定

フラグメンツのような、いつかあったかもしれないマルドゥック市が舞台。



梗概

ボイルドとフリントがバディの事件物。

突然、超能力者が増え始めるマルドゥック市でボイルドとフリントが超能力と戦う話。

原因はノアの体組織から作られたドラッグ。



ーーーーーーーー


マルドゥック・レヴェナント



暗い部屋の中、少女はふと思い出す。

美味しくない食事の後にたまに出てきたドーナツの甘さ、大人たちが美味しそうに飲んでいたコーヒーを少し飲ませてもらったときの苦さ。

一緒にいた子たちは美味しいと言っていたけどきっとあれはやせ我慢だと思う。

空間に充満する臭い。糞便、血液、脳漿、入り交じった悪臭。

諦めの良い子たちは早々に見切りをつけて行ってしまった。

わたしもそうすべきなんだろうけど、何となくその気がしなかった。

静寂にほんの小さな音が生まれる。発生源は少女のお腹辺り。

「お腹すいた」

長い孤独に耐える為の投薬による感情の抑制、らしいけど空腹までは抑えてくれないみたい。

何十時間振りに声を出したけど、まだちゃんと動くのだと感心して自分の喉を撫でる。

『 』

何か聞こえた気がして辺りを見回すけれど真っ暗で何も見えない。まだ誰か生きているのだろか。

「誰かいるの?」

返事はなかった。気のせいだったのか、それとも幻聴が聞こえるようになってしまったのか。

急に寂しくなって膝を抱えて空中を漂う。

こんな風に感じるなんて薬の効果が薄れてきたのかな。

外が見たくなった。暗闇の中で光る星たち、青い巨大な球体、初めて見たときは単純に綺麗だと感動したのを覚えている。

もう一度見たいと思ったけれど、ここには窓がない。それもそのはず、ここは宇宙船ではなくパージされた廃棄区画。その中にいるわたしたちは廃棄物に他ならない。わたしたちは棄てられたのだ。

その事について特に何も思わないのは薬の効果なのか、それともわたしが元々そういう人間なのか。

膝を抱えたまま目をつむる。

食べ物もないし、この空間の空気もいつか無くなるだろう。餓死と窒息死、どちらが苦しいのだろかと一瞬考えたけど、考えた所でどうにもならないので考えるのは止めた。



それから何時間か何日か経った頃、真空と無重力の中でわたしは彼と出会った。



「起きろボイルド、いつまで寝ている」

その声に反応したのか地面に横たわる大男の目が開く。生ゴミの臭いに顔をしかめながらディムズデイル=ボイルドは声の主に目を向ける。

黒い上下のスーツを着た男がハンドガンを連射している。空になったマガジンをリロードしているときに動く気配を察知したのか男が振り返った。顔に紫色の火傷跡、アイスブルーの瞳がボイルドを射抜くように見つめた。

「フリント!」

ボイルドは右手に持っていたオートマチックの大型拳銃を向けて引き金を引いた。

轟音とともに撃ち出された銃弾がフリントのすぐ側を通りすぎ、アサルトライフルを持った男の胸に大穴を開けた。

「起きたか。奴らが逃げる前に叩く。支援を頼む徘徊者(ワンダー)」

フリント・アローは酷く冷静に端的に状況を説明する。

ボイルドはまだ痺れの残る体に鞭を打って立ち上がると簡潔な返事を返す。

「了解(コピー)」

その場で跳躍するボイルドは空へと“落下”していくと建物の壁に“着地”した。疑似重力を操るフロートの使い手たるボイルドはそのまま壁を垂直に走って行く。

フリントはハンドガンをホルスターにしまうと、腰にベルトで吊っていた軍刀(サーベル)を抜いて路地裏から表通りへ向かって走り出した。その体はいつの間にか黒い鎧のような物で覆われていた。体内で生成された金属繊維が作る硬質の肌、ハードスキンの使い手たるフリントは敵陣目掛けて恐れずに突っ込んで行く。



つづく。









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