第21話

「なぁ、拓雄」


「なんだ?」


「お前なんの本読んでるんだ?」


「ドイツ語だ」


「急にどうしたよ?」


 金曜日、俺は学校で和毅と話しをしていた。

 ドイツ語の勉強をしていた最中だったこともあり、和毅は不思議そうな表情で俺に尋ねる。

「まぁ、色々あってな……」


「お前って変わってるなぁ~、ドイツにでも留学する気か?」


「そうじゃないが……勉強しなければならなくなった」


「ドイツ語をか?」


「あぁ」


 俺は短くそう答えて本をしまう。


「継ごうと思ってな、家を……」


「はぁ!? 継ぐのか!?」


「あぁ、そうすれば恩返しにもなるだろ」


「いや、継ぐって言ってもそんな簡単なもんじゃ……」


「だからこうして勉強してるんだろ?」


 和毅は俺の言葉にかなり驚いていた。

 それもそうだろう、いきなり友人がそんな話しをすれば、俺だって驚く。


「じゃ、じゃあ……上手くいけば、お前が三島のグループの……」


「社長になるんだろうな」


「よし、拓雄。俺たちもっと仲良くなろう」


「下心丸見えだぞ」


 和毅は完全に俺では無く、俺が相続するであろう財産を見ていた。

 そんな事を話していると葵がやってきた。


「何してるの?」


「葵、お前の彼氏は友情より金のようだ」


「うわ、サイテー」


「そ、そんなことねーよ! 俺はお前の事を心配してだな……」


「はいはい」


 和毅が言い訳を始めたところで、俺は葵にも事情を説明する。

 

「ふーん、なんだか拓雄がどんどん雲の上の存在になっていくわね」


「そうか?」


「そうよ、大企業のあとを継ぐなんて話し、友達から聞くなんて思いもしなかったわよ」


「まぁ確かにそうだな、でも俺は俺だ、何も変わらない」


「そうなら良いけど……そう言えば拓雄、明後日由香里とデートなんでしょ?」


「デート? あぁ、映画の話しか……」


「由香里、随分楽しみにしてるみたいだから、ちゃんと楽しませてあげるのよ」


「それはわかっているが……しかし、別にデートと言うわけじゃ……」


「女子と男子が二人で出かけるなんて、デート以外のなにものでもないです!」


 なんでこんなに葵が必死に言うんだ?

 由香里のことを応援しているんだろうが、人の恋愛に口を出しすぎではないだろうか?


「俺と由香里のことよりも、お前は和毅との仲を心配しろよ、和毅がなかなかデートしてくれないって嘆いてたぞ?」


「私は良いの!」


「俺が良くないんだよ……」


 悲しげな表情を浮かべながら、和毅はがっくりと肩を落とす。

 このカップルはこれでよく破局しないものだ。






 家に帰った俺を待っていたのは、大量の参考書の山と満面の笑みの最上さんだった。


「おかえりなさいませ、拓雄様。本日はドイツ語の続きと、テーブルマナーの勉強です」


「はい、じゃあ飯食ったら直ぐに」


 俺は最上さんにそう言い、部屋に荷物を置きに向かう。

 部屋につき俺は着替えを済ませて食堂に向かう。

 食堂で食事を済ませ、俺は最上さんと勉強を始める。

 そんな生活が今週から始まった。

 最上さんは教え方が上手い、流石はメイドをやっていることはある。

 大体すべてが終わり、就寝するのは大体12時前だ。

 今日もすべてを終え俺は部屋に戻ってきた。


「はぁ………結構疲れたな」


 ベッドに座り、もう睡眠をとろうかと考えていると部屋の戸が開いた。


「……拓雄」


「ん……どうした?」


 そこに居たのは寝間着姿の早癒だった。

 恐らく風呂上がりなのだろう、頭からは湯気が出ており、顔も少し赤かった。

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