第18話



 日曜日、俺は婚約パーティーの準備をしていた。

 なんだか高そうなスーツを早癒に用意され、部屋で着方を教えて貰っていた。


「こうか?」


「そう」


「よし、出来た」


「ん、あとこれ」


「時計もか?」


「うん、その方がカッコイイ……」


「そうか、なら一応……ちなみにこれっていくらなんだ?」


「100万円」


「返す」


「なんで?」


「こんな高い物を身につけて、壊したら大変だろ……」


「そのスーツより安いよ?」


「……スーツはいくらなんだ?」


「500万円」


「着替える」


「なんで?」


「高すぎるだろ、汚しでもしたら……」


「クリーニングすれば良い」


「破いたら」


「直せば良い」


「本当に大丈夫か?」


「うん、旦那様から拓雄にプレゼントだって言ってた」


「プレゼントの桁を越えてると思うんだが……」


 俺は自分のスーツと時計を見ながら早癒に言う。

 金額を聞いた途端、俺はなんだか動きにくくなってしまった。


「じゃあ、私も着替えてくる」


「おう、そうか」


「うん……」


 早癒はそう言って部屋を出て行った。

 俺はスーツに気を遣いながら、部屋の椅子に座って時間になるのを待つ。

 この間会ったばかりだが、あいつは元気だろうか?

 婚約パーティーなど、姫華からしたら嫌で嫌で仕方がないだろうに……。





 出発前、俺は玄関先で祖父と迎えの車を待っていた。

 なんでも池﨑家が招待客全員の送迎もしているらしい。


「そろそろ時間じゃが……」


「そうですね」


 俺と祖父がそんな話しをしていると、後ろの階段から早癒と最上さんがドレス姿で現れた。 最上さんは淡い薄緑のドレスで早癒は青の色違いのドレスだった。

 二人とも肩にはストールを巻いていた。


「お待たせ致しました」


「うむ、二人ともよう似合っておるの」


「ありがとうございます」


「ん……」


「ん?」


 最上さんが祖父にお礼を言っている脇で、早癒は俺のスーツの裾をつまんで尋ねる。


「……どう?」


「え、あぁ……良いと思うぞ」


「ん……ありがと」


 俺がそう言うと早癒は後ろを向いてしまった。

 どうしたのだろうか?

 そんな事を考えていると、迎えの車が到着した。


「お待たせいたしました。それではお乗り下さい」


「うむ、よろしく頼む」


 祖父が返事をし、俺達は車に乗り込んだ。

 迎えに来たのはやっぱりリムジンで、車内も豪華だった。


「しかし……あの子はまだ拓雄君とそう歳は変わらんはずじゃろ? 婚約は早すぎではないかの?」


「やっぱりそうですよね?」


「まぁ、人の家の事じゃ……口を出すつもりはないが……」


「庶民からしたら、婚約パーティーなんてもの自体が珍しいですよ」


「まぁ、そうじゃろうな。今日は上手い物が食べれるとだけ考えていればよい、わしの孫だからと言って、気を遣ってわしと挨拶回りをする必要はないでの」


「じゃあ、そうします。俺は早癒と上手い物食ってます」


「うむ」


 そんな事を話しているうちに会場に到着した。

 会場は大きなホテルのだった。

 このパーティーのために、ホテルは貸し切りになっているらしい。


「デカ………」


「ん……ほら、行こ」


「あぁ、すまん」


 ホテルの大きさに圧倒されていると、早癒が俺の手を取ってきた。

 早癒はそのまま俺の腕に自分の腕を絡ませる。


「おい」


「なに?」


「なんで腕を組む必要がある?」


「紳士は淑女をエスコートするもの……」


「そうなのか?」


「うん、常識……」


「そうか……なら仕方ないか」


「うん」


 俺は早癒と腕を組みながら、祖父と最上さんに続いてホテルに入っていく。

 集まっている人は全員なんだか金持ちそうなオーラが出ており、俺は自分には場違いなのではないかと思いながら、受付を済ませて会場に入る。


「結構人が居るな……」


「うん」


「拓雄君、わしは少々挨拶回りに行ってくるでの」


「分かりました」


 祖父は俺にそう言い、最上さんと共にその場を後にしていった。

 残った俺と早癒はというと……。


「どうする?」


「どうしよ……?」


「とりあえず飲み物でも飲むか」


「ワイン?」


「アホ」


 俺は早癒にそう言い、近くのウエイターからオレンジジュースを貰う。

 

「ほらよ」


「ん……ありがと」


 二人でオレンジジュースを飲みながら、会場の脇の方に移動する。


「しかし、知らない人ばっかりのパーティーだと、正直つまらないな……」


「話し相手なら……私が居る」


「俺と早癒の会話はすぐ終わるだろ」


「む……確かに」


 そんな話しをしていると、急に会場が暗くなりはじめた。

 会場中央のステージが明るくなり始め、そこに司会者とおぼしき男性がマイクを持って立っている。


「皆様、長らくお待たせいたしました。本日は池﨑家主催の婚約パーティーにご参加いただきまことにありがとうございます」


 司会の男がすこし長めの挨拶をし、今日の主役である姫華と姫華の婚約者の紹介になった。

「それでは本日の主役の登場です!」


 司会のかけ声と共に、ステージの幕が開き姫華と見知らぬ男性が登場する。

 姫華は白のドレスを着ており、化粧をしているせいもあってか、以前よりもより美しく見えた。


「………綺麗」


「あぁ……そうだな」


 隣の早癒も思わずそう口走っていた。

 会場の男はもちろん、女性まで魅了してしまうそんな魅力を持っている姫華に、俺は少し感心してしまった。

 司会者は姫華のプロフィールと婚約者の男のプロフィールを紹介し、会場の客に二人の紹介をしていく。

 

「相手の男、かなり凄い経歴だな」


「さすが、時期財閥後継者」


「確かにな、俺とは月とすっぽんだ」


「ん……容姿は拓雄のコールド勝ち」


「お世辞でも嬉しいな、ありがと」


「むぅ……お世辞じゃないのに……」


 一通りの紹介が終わったところで、ステージは終了となり、再び会場に明かりが戻る。

 かなりのイケメンで、高学歴で現在は会社の社長をしているという姫華の結婚相手。

 ステージにあがっていた姫華は満面の笑みで会場に手を振っていたが、きっと無理をしていたのだろう………俺には姫華の表情が作り物のように思えてしまった。

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