第12話

「あぁ~拓雄く~ん……」


 クローゼットを開けた先には、拓雄君の写真が大量に保管されている。

 学校の新聞部が秘密裏に頼んだ相手の写真を盗さ……もとい、撮影してきてくれるのだ。

 拓雄君は人気があるので、かなり一枚当たりの写真の値段は高いが、今までの私にとってはこれが心の支えだった。


「はぁ~、もっとお話したいなぁ~、もっとくっつっきたいなぁ~」


 私はそんな事を呟きながら、拓雄君の写真に頬ずりをする。

 絶対にこんなところを他の人には見られたくない。

 私が家に帰って毎日行っているこの行動は、最早日課になっていた。


「はぁ……拓雄君……」






「う……なんだ? この寒気は」


「どうした?」


「いや、なんか寒気がして……」


「気温が低かったでしょうか? 空調の温度を調節いたしますね」


 食事の最中、俺はなんだか寒気がして身を震わせた。

 悪寒のような感じもしたが、気のせいだろうか?


「ところで、これから一緒にクラスにあたってじゃが……」


「はい」


「拓雄君も高校生じゃ、学生の本分は勉強だとわしは考えておる」


「もっともだと思います」


「しかしじゃ、勉強がすべてというわけでもない。社会では対人関係を築く為のコミュニケーション能力も重要になってくる」


「はい」


 流石は財閥の総帥だ、もっともな意見を言う。

 それを踏まえた上で一体俺は何を言われるのだろうか?


「そこでじゃ、拓雄君にはわしから毎月500万の小遣いを渡そうと思う。それで一ヶ月なんとか生活をじゃな……」


「いや、ちょっと待って下さい」


 俺の勘違いだった。

 多分この人は身内には超が付くくらいに甘い。


「なんじゃ? 足りない分はバイトでもっしてじゃな……」


「違います。多過ぎです」


「なんじゃと!?」


「いや、じいちゃんの感覚が金持ちの感覚だからかもしれないけど、普通の高校生はそのお金だけで高校生活の三年間何不自由無く生活出来るよ。バイトなんてしなくても」


「し、しかし……500万なんて車を一台買ったら終わりじゃぞ?」


「高校生は車を買わないので、良いんです」


「じゃ、じゃが……」


「大体、俺はバイト代だけで十分ですよ。こうしてこんな立派な屋敷に三食の食事が付いてくるだけで十分なんです。それにじいちゃんも言ったとおり、学生の本分は勉強です。遊ぶなって訳はありませんが、遊びほおけるのもどうかと思うので、俺に小遣いは必要ありません」


「そ、そんな……そ、それではわしはどうしたら良いのじゃ! 折角十五年分のお年玉も用意したのに!」


「アタッシュケース十五個分って時点で金額が恐ろしいことになってそうですね……」


 久しぶりに黒服の男の人たちがアタッシュケースを持って立っていると思ったらこう言うことか……。


「はぁ……それではわしは孫に何をしてやったら良いんじゃ……わしにあるのは金だけじゃ……」


「………」


 きっとこの人もわからないのだろ、孫との接し方というものが、だから自分に出来ることをやろうとして、俺に金を渡そうとした。

 しかし、俺はそんなものよりも欲しい物があった。


「そんなの要りません、俺はそんなものより……貴方との思い出が欲しいです」


「思い出……とな?」


「はい、家族との思い出が欲しいです。それ以上は望みません」


「そ、それはどうしたら拓雄君に渡せるのじゃ?」


「それは……俺にもわかりません。でも、一緒に暮らして貰えるだけで俺は十分です」


 お金が欲しい訳では無い、俺はただ一人では無いという実感が欲しかった。

 だから俺は祖父に思い出を願った。


「そ、そうか! わかった! ならば明日早速ハワイに行こう!」


「いや、明日も学校です」


「そんなもの休めばよい!」


「じいちゃんさっき自分で言った事覚えてる?」


 そんな話しをしながら食事は終わり、俺は自室に戻り風呂の用意をしていた。

 すると、コンコンとドアが二回ノックされた。


「はい?」


「拓雄様、今よろしいでしょうか?」


「あ、はいどうぞ」


 そう言って入って来たのは最上さんと、背の低い女の子だった。

 二人ともメイド服で、背の低い女の子は無表情だった。


「拓雄様、今後はこの早癒(さゆ)が貴方の身の周りのお世話をさせていただきます」


「あぁ、朝言っていた」


「はい、私の妹です。ほら、挨拶しなさい」


「………」


 早癒はぺこりと頭を下げ俺の顔をジーッと見ていた。


「すみません、この子は少し無口でして……」


「あぁ、いや大丈夫です。でも、この子っておいくつですか? どう見ても高校生くらいにしか……」


「はい、早癒は拓雄様と同じ年齢でございます」


「え? 俺と同じ歳でメイドとして働くんですか?」


「はい、私の家は代々三島家にお仕えしていまして、15になるとメイドとしての修行を始めるんです」


「そうなんですか」


「………」


 早癒は俺の事をジーッと見たまま何も喋らない。

 

「それじゃあ、早癒後はよろしく」


「………」


 こくりと頷く早癒。

 そして最上さんは、早癒を残して部屋をから出て行った。

 

「………」


「………」


 普段から俺もあまり自分から話しを切り出す方では無い。

 早癒もそういうタイプではないよいようだ。

 そんな二人が突然二人きりにされてもな……。


「よろしく」


「………」


 俺がそう言うと、早癒は首を立てに振って頷く。

 俺はこの子と上手くやって行けるのだろうか?

 そういえば風呂に行こうとしていたんだった。


「風呂に言ってくるから、その……その間、自由にしてていいぞ?」


 メイドの扱いなんてわからない。

 だから命令なんて出来ないし、どうしたら良いのかも俺にはわからない。

 俺は早癒にそういうが、早癒は首を縦に振らなかった。


「えっと……とりあえず風呂に行くからな?」


「………背中……」


「え?」


「……ご主人様の背中……流す……メイドの仕事」


 とんでもない事を言われた気がしたのは、気のせいだろうか?

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