第11話

「おまえなぁ……仮にも昨日告白された相手だろ? もう少し話しを広げろよ」


「いや、由香里だってもう帰るところだろうし……」


「あのなぁ……普通こんなグランドの隅にわざわざ来て、男に話しかけて帰らないだろ?」


「そうか?」


「惚れてる相手にしかそんな事しねーよ。由香里ちゃんも少し積極的にいかないと、鈍感なこいつは落とせないぞ?」


 由香里は顔を真っ赤にして俯いてしまった。

 お前も少しはデリカシーを持って発言しろよ、由香里の顔真っ赤だぞ。

 

「悪い、和毅はこういう奴なんだ」


「う……うん……だ、大丈夫だよ」


 顔を真っ赤にしながら答える由香里。

 いや、俺も悪かったかもしれないが、和毅が一番悪いと思う。


「あぁ……今度どこか行くか?」


「え!? い、良いの?」


「まぁ、友達から始めるって言ったしな、友達だったら遊びに誘うくらい普通だろ」


「う、うん。そ、そうだよね。じゃあどこに行くか、また連絡して良いかな?」


「あぁ、昨日教えた連絡先に連絡してくれ」


「う、うん。じゃあ行くね」


「おう、気を付けてな」


「うん」


 由香里は笑顔でそう言って帰って行った。

 

「あの子、相当お前の事好きだぞ?」


「そうなのか?」


「そうだよ、見てればわかる」


「そうか……」


 そうなのだろうか?

 俺には良くわからない。

 しかし、俺なんかと出かけられるだけで喜んで貰えるなら、いつでも買い物くらい付き合うが……。


「よし、終わった。これが今日の分だ」


「おいおい、十通以上あるだろ、大丈夫か?」


「まぁ、なんとかなる」


 俺は立ち上がり、今日分の呼び出しに応じに行こうとする。

 しかし、そんな時に丁度、校門の前にあの黒塗りの高級車が止まる。


「おい、来たみてーだぞ、どうするんだ?」


「仕方ない。訳を話して待ってもらう」


「はいはい、なら早く行ってこいよ」


 俺は和毅に言われた通り、直ぐさま車の最上さんに待ってもらうようにお願いをし、呼び出しの場所に急いで向かい、同じ言葉を言ってその場を後にした。


「すまない、君とは付き合えない。それじゃ」


「え!? ちょっと!!」


「すまない、君とは付き合えない。それじゃ」


「は、早すぎない!?」


「すまない、君とは付き合えない。それじゃ」


「わ、私はまだ何も……」


 こんな感じで全員の告白を断り、俺は約三十分ほどで最上さんの元に戻ることが出来た。


「すみません、お待たせしました」


「いえいえ、構いませんよ」


 俺は最上さんにドアを開けてもらい、車に乗り込む。

 やっぱり目立った。


「どうでした? 学校の方は」


「色々大変でしたね」


「ウフフ、拓雄様は顔立ちが良いですからね」


「そんな事無いですよ」


「そんな事ありませんよ。女性の私が言うんですから」


 お世辞でもそう言われるのは嬉しい。

 最上さんは何となく話しやすい人だなと思った。

 母親とはいかないが、どことなく姉のような感じがする。





 屋敷についた俺を待っていたのは、段ボールの山だった。


「じいちゃん……」


「なんじゃ? 持ってき忘れた物でもあったかの?」


「いや、そうじゃなくて。一日で俺のアパートを引き払って、私物を持ってきたんですか?」


「早いほうが良いと思っての!」


「早すぎだよ」


 新しい屋敷の自室に置かれた大量の段ボールを前に、俺は肩を落とした。

 なんというか、仕事が早すぎるというか、もう少しゆっくりでもよかったのではないだろうか?


「荷ほどきは、私もお手伝い致しますのでご安心下さい」


「そういうことじゃないんだが……」


「なんじゃ? わしの部屋の隣が良かったかの?」


「そうも言ってないです」


 俺はため息を吐きながら荷ほどきを開始した。

 しっかり梱包されており、壊れている物や無くなっている物は一切無かったが、流石に一日では終わらない。


「今日はこの辺で大丈夫です。また明日お願いします」


「わかりました。そろそろお夕食ですので、私は先に食堂に行っていますね」


「分かりました。俺は着替えをしてから行きます」


 そう言って最上さんは部屋から出て行き、俺は制服を脱いで着替えを始める。

 明日も呼び出しを受けている。

 俺は明日の予定を頭の中で立てながら、着替えを済ませスマホを充電器に刺して部屋を出ようとした。

 しかし、丁度そのとき由香里から電話が来た。


「もしもし? 由香里か?」


『は、はひぃ! ゆ、由香里です!』


「あぁ、知ってる。どうした?」


『あ……えっと、今日さ今度一緒に遊びに行こうって言ってくれたじゃない?』


「あぁ、どこか行きたいとこがあるのか?」


『う、うん! 私映画に行きたいの!!』


「映画か……良いぞ、何を見るんだ? あと、俺は今忙しいから、出来れば二週間後くらいにして欲しい」


『うん! 全然良いよ! じゃ、じゃぁ……二週間後の日曜日なんてどうかな?』


「あぁ、まだ予定は無いから大丈夫だと思う。で、何を見に行くんだ?」


『えっと……恋愛映画なんだけど良いかな?』


「良いぞ、もしかして良くCMでやってるやつか?」


『そ、そう! 私ドラマも見てて、映画版も凄く見たかったんだぁ』


「そうか、なら一緒に行こう。悪い、これからじいちゃんと飯なんだ。遅れるのも悪いから切るぞ?」


『あ、うん……じゃあ、また明日ね』


「あぁ、じゃあな」


 俺は電話を切り、スマホを置いて食堂に急ぐ。





 私、美川由香里はただいまベッドの上で顔を真っ赤にしながら、ゴロゴロと激しく回っていた。

 理由は片思いの男の子とのデートの約束をし、嬉しすぎて感情が抑えきれないからだ。


「はぁ~、カッコイイよぉ~荒山君!」


 私は愛しの彼の名前を呼びながら、スマホの彼の連絡先に向かって頬ずりをする。

 恐らく誰かに見られたら、百パーセント変な子と思われてしまうだろうが、好きなんだから仕方ない。


「ウフフ~、私はもう荒山君とお友達だもんねぇ~、あんなぽっと出の人たちなんかに負けないんだから!」


 荒山君は入学当時から人気があった。

 ルックスが良くて、頭も良い、そして運動も出来るという完璧超人。

 しかし、あまり友達は多くなく、いつも岡部君と二階堂さんとしか話しをしない。

 

「あぁ~! もうダメ! 我慢できないよぉ……」


 私はとある物を部屋のクローゼットを開けて出す。

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