三十四、異動

 葬儀を終え、国際的な手続きや儀礼のやり取りも完了し、協会は落ち着きを取り戻した。遺影はこれまでの殉職者と同じく本部の大ホールに飾られた。

 MD研究チームは副長が昇格し、その下も順当に昇格して地位を埋め、研究を再開した。

 テロリストに対しては声明通り、なんら容赦することなく他国の協会と協同しながら調査活動を行っている。積み上がったデータがテロ組織を追い詰め、軍や警察がその手足を切り取り、時にはとどめを刺した。

 しかし、他国の協会による勇み足があり、調査活動にブレーキがかかった。捕虜を犠牲にした死霊術の確かな証拠とされたものが後に捏造と判定されたのだった。すでにそのテロ組織は全滅していたが、攻撃に至った決定が適切なものであったか第三者委員会による再検討が行われていた。


 見習いを順調に勤め、遮蔽空間についての基礎的な学習を終えた健一は、ある日、MD研究チームのリーダーに呼び出された。書類は上司を通じて研究チームから回ってきていた。ただ、文書の署名はMD研究チームリーダーではなく、もうひとつの方の魔法調査委員会の調査チームリーダーの肩書でだった。


「済みません。つい間違えて。署名のほうが正しいです。呼び出しは調査チームとしてです」

 小会議室に二人きりになり、簡単な挨拶を終えた後、健一が聞いてみると、リーダーはそう答えた。

 それからタブレット端末の画面を見せた。健一は自分の名前のファイルを見つけた。色が反転されている。

「これは福永氏の資料です。先週倫理委員会からの許可が降りて中のデータを回収しました」

「わたしについて、ですか」

「はい。早乙女さんが協会に入った経緯は知っています。福永氏のチームへの配属を拒んだこともです。しかし、この資料によると諦めてはいなかったようです。あなたをチームに加えたがっていました」

「調査チームの方ですね」

「ええ。打ち割って話せば、調査チームで力量を見極めた後、MD研究チームに誘うつもりだったようです」

 首を傾げた。リーダーは話を続ける。

「実を言うとチームは今後増員が必要です。それなら福永氏の予定をそのまま実行しても差し障りは無いだろうと考えました。これは勧誘です。調査チームに参加して頂けませんか。もちろん、福永氏のお考えのとおり、評価によってはMD研究チームへ配属される可能性もあります」

 少し間をおいて答える。

「考えさせて下さい」

「良かった。拒否ではないのですね。では待遇や業務内容などの資料を送りますので検討して下さい。できれば今週中に返事を頂けるとありがたいのですが、慎重に考えて下さって結構です」


 三日後、健一はリーダーと握手した。

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