第28話 レディースVS夜行族

28 レディースVS夜行族

 

 キララの蒸発を知らされたとき、ヒロコは羅刹や生江――パパの砂崎博郎と一緒だった。百鬼が変事を察してかけつけた。夜行族の過激派は退いた。逃げるように去っていった。羅刹と博郎、百鬼もだからキララの所在不明とは関係ないだろう。だが、マヤたちのところから去っていった過激派のV男はまだほんの一部にすぎない――。百鬼はいずれも羅刹が噛み親なのだ。数は小数だが羅刹の親衛隊だ。容疑をかけることはないだろう。というのが、マヤのかんがえだった。やはり、夜行族の過激派があやしい。


「これで、話はだいぶしぼられてきた」

 

 羅刹はやはり敵ではなかった。百鬼も敵ではない。夜光族が下剋上をはかり暗躍しているのだ。V男は夜光族が大多数だ。彼らの何パーセントが過激派なのかはわからない。少女を襲っているのは彼らだ。過激派の夜光族だ。でもミホを惨殺したのは彼らではない。そう信じてきたが、すべて洗い直す必要がありそうだ。やはり、どう推理しても、過激派のV男があやしい。


 アサヤたちの捜査はスタート地点に戻ってしまった。吸血鬼のカーストではこの夜光族が圧倒的におおい。お互いに、噛みあって増殖した夜の住人なのだ。彼らの動きはまだつかめていない。


「いずれにしても敵は吸血鬼だ。街の人々の生活にV男がとけこんでいる。いままで知らなかった。V男を一般人と識別するのは困難だ。わたしたちの隣人がV男かも知れないのだ」


 アサヤは塾にもどっていた。レディースのメンバーが集合している。アサヤは伸縮自在の三段に伸びる特殊警棒をインターネットで購入しておいた。いざ戦争にそなえていた。それかこんなに早く役だつとは――。


「夜光は処女の血を吸う。みんな処女だろうから……危険だ」

「わあ、センセイ、疑ってる――。ひどいよ。それってセクハラだよ」


 アサヤのとばしたヤバ過ぎるジョークで、みんなのこころが一体となった。


「ほんのジョークだ。はい八本。みんなの警棒だ」

 レディースの全員に配布した。

 パイプでは、学校にこっそり持ちこむのに苦労してきた。ミホにつづいてキララまで行方不明ということは、レディースが狙われている。警戒するべきだ。かねてこのような事態になったらと、準備しておいた武器だ。

 人外魔境に生きるものたちに、どれほどの効果を発揮するかは、未知数だが、なにも武器を持たないよりはいい。そして吸血鬼を倒すには心臓に木の杭を打ち込むに限る。アサヤは警棒の先に鋭利に尖らせた木片を接着させた。


「キララを探そう。キララを探す事が最優先課題だ」

「オース」

 香川鉄率いるサンタマリアも駆けつけてきた。

「砂崎センパイが生きていたってほんとですか」

「その話は、後でゆっくりしょう」


 おりから土曜日の街へ総勢二十人近いライダーが散っていった。闇に跳梁するものたち。過激派の夜行族。V男に――ああ、レディースは警棒一本を頼りにいま挑もうとしている。ダチのため。キララを生きて助けだすため――。

 羅刹でさえ、コントロールできないという過激派の夜光族。いま死可沼をファームにしょうとするV男――に、勇猛果敢にもレディースは挑もうとしている。


 過激派の直近の出現箇所は、赤い屋根の家――だがそこには羅刹がいるのだから除外してもいいだろう。とすれば、ほかの廃墟だ。

 ジャスコの地下二階。いま死可沼には空家が沢山ある。そこも、廃墟とみなすべきだろう。その一軒一軒が疑わしい。そのどこかにキララはいるはずだ。

 まだ、血はすわれていないと信じたい。ことは、一刻の猶予もゆるされない。アサヤは焦燥にかられ口数がすくなくなった。不吉なことを考え過ぎ――。

 警察は純情無垢な少女を狙うサイコパスをアライダスことに懸命になった。県警からプロハイリングの専門家も応援にかけつけて過去の犯罪事例を調べている。


「事件の影にV男がいる、と教えてあげられれば、いいのに」

 黒元がアサヤに悔しそうにいう。

「そんなことを発言したらジャーナリストではない。警察から締め出されるぞ」

「ごもっとも」

 ふたりは現状を分析するために情報交換。キララの件は警察にはまだ届けていない。V男に誘拐されたのかもしれない。そんなこといえるわけがない。いずれ家族から届け出があるだろう。黒元とアサヤのふたりは、街の地図を片手に、空家を回りつづけた。

 鬱蒼と庭木の茂った家が在った。門扉は壊れていて、もちろん人の住む気配はない。それでいて、人を拒むようなたたずまい。庇は傾いていた。玄関の柱は白アリにやられている。根元に木の細かな屑が固まっている。


「ここはどなたが住んでいたのですか」

 通りかかった白髪の老婆に訊ねてみる。

「ほら、むかし、市長選に立候補した人がいなくなっちゃった。あのまんまさ」

 思いだした。そんなことがあった。当時は対立候補のキラ―にシマツされたのだ、と評判だった。

 裏口から忍びこむ。押し入れから妖気がただよってくる。からだがトリ肌になる。怪しい。おそるおそるあけてみると、V男が寝ていた。それで空家。昼間は外にでられない。夜こっそり起きだしてワルサをしている。こうした住人はいるが、外見的には、無人の家。空家がさいきんでは増えている。かなりのV男が潜んでいることになる。しかし、キララの動きはあいかわらず、どの家にもその痕跡はなかった。


「ぼくらの推理にはアサヤさんどこかズレがあるのかな?」

 黒元がくやしそうに顔をしかめている。その黒元のケイタイが鳴っている。

「県警との合同捜査になったらしい。本間キララの失踪もとどけられた」

 黒元はあわただしく記者の口調でいう。警察にもどっていった。

 

 警察にもどる道すがら、黒元は妹の事件をさらに再取材しようと思った。


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