女の子怖い

zabu

こわいこわい

 若い衆が集まって各々の好きなものを言い合っていた。


 「俺はコーヒーが好きだ。」


 「僕は彼女が一番かな。」


 「俺は映画。あれは良い。」


 机を囲むこの4人。同じ借家にすんでおり、晩になれば集まってどうでも良いようなことをツマミに酒を呑む。ルームシェアと呼ぶにはあまりに男臭い部屋だった。


 「映画は映画で好きだが、ホラー映画だけは恐くてだめだ。お前はどうだ?」


 「ホラー映画は大丈夫だが、僕は虫がダメだ。足の多いのが素早く動いているのなんて恐くてしょうがない。」


 「俺は大家が恐い。月末となると家賃の支払いの催促に来やがる。」

 


 おばけ、家賃、クレジットカードの支払い、学校の期末テスト、ゴキブリ、病気・・・嫌いなものは恐いのだ。


 

 3人がそれぞれの恐いものを話している時に、一人スマートフォンをいじりながらタバコを吸っているのが寅さん。


 

 「おい寅さん。お前さんの恐いものは何だ?」


 「俺はなんも恐いものなんてないね。」


 「じゃあおばけはどうだ?」


 「あんなもんいるわけないんだよ。もしいたとしたら、友達にでもなってしまえばいいんじゃないかね。」


 「それじゃあゴキブリは?」


 「あんな小さいものに怖がっていてどうする。よく見りゃ小さくて、ちょこちょこと可愛いもんよ。俺は恐いものなんてな〜んも無い。」


 「さすがの寅さんも病気は恐いだろ?」


 「俺は生まれて此の方病気ってものになったことがないんだ。病気の方から恐がって逃げるってもんよ。な〜んも恐いもんなんて無い。無いったら無いんだ・・・・・あー・・・チョット待った。あった。1つだけ。忘れようと強がっていたが1つあったよ・・・」


 「「それは何だ?」」


 意外な答えに3人の視線が集まる。


 

 寅さんは小さな声で


 「女の子・・・女の子が恐い・・・」と。


 

 何がそんなに恐いのかと詳しく聞きだそうとした3人だったが、寅さんは真っ青な顔をして、耳を塞ぎながら自分の部屋へと帰ってしまった。


 



 普段から几帳面で誰にでも優しく、勇敢で男らしい寅さん。その寅さんが「女の子」が恐いときたもんだ。寅さんが寝ている間に女の子を部屋に忍び込ませたら面白いということで3人の意見は一致した。


 

 棚に置いてあった薄い本。後ろのページに書いてある電話番号に電話をかけると、ものの30分程で、警察官のような衣装を持った女の子が現れた。


 「どうぞこちらへ。」と女の子を寅さんの部屋へと案内する。3人は少ししてから障子の隙間から寅さんの部屋を覗いた。



 薄暗くて部屋の中の様子は見えなかったが、確かに寅さんの悲鳴が聞こえた。


 「ひえ〜、もうやめてくれ〜〜!!!!」


 

 3人は「作戦が成功した」と喜び、しばらくの間その悲鳴に耳を澄ましていた。


 



 少し経ってから一人が異変に気付いた。


 「ちょっと待て、中の様子がおかしくねぇか?」


 確かに部屋の中からはギシギシと妙な音がするし、寅さんの声に混じって女の子の悲鳴も聞こえた。



 3人は寅さんの部屋に押し入り電気をつけた。寅さんは「ああ恐い、ああ恐い!!」と叫びながらベッドを揺らしていた。


 これはやられたと思った3人。ベッドの動きがおさまるまで待って、布団から頭だけを出した寅さんを問い詰める。




 「寅さんにはまんまとやられたよ。本当はなになにが恐いんだ?」


 


 少し考えた後、寅さんが言った。


 


 

 「今は何も恐くねえよ。でも明日はもっと若くて、ナース服でも着た女の子が恐いかな。」


 


 

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女の子怖い zabu @bsaameto

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