第18話 スニーカー

 「それで、どうなったの?」

目の前の少女は、肩まで伸ばした黒い髪を揺らしながら首をかしげた。

「その子は結局、まだ結婚してないんだけど、今、彼氏がいてアツアツよ」

女は少女に微笑み、茶化すように言った。

「それで、その彼氏は、ずっと、片思いしてた人?」

「そうそう、そうなのよ、それが」

「へぇー、男の人頑張ったじゃん!」

少女は、パッと顔を明るくした。

「えー、二人とも幸せなんてよくない?」

少女の、高く明るい声にやや、気圧されながら女は、そうね、と言い、それから、少女の手元の問題集の⑸を指差しながら、次はこれね、と言った。

「へーい」

やや不服そうな顔をして少女は、シャープペンを持ちかけた。チャラと、ストラップが鳴る。

「それでさ、もう一人の人はどうなったの?」

少女が、尋ねると同時に、ピロピロと、携帯がなった。

「もう、時間だわ。それ、宿題ね」

女はバタバタと立ち上がる。 

「先生デートー?」

にやにやと少女に茶化され、否定しながら、女はコートを羽織った。

「ありがとうございました」

「娘さん、理解が早くて教えるのが楽しいです」

なんていう会話を玄関口で、少女の母親としながら女は外に出た。


 早足で、待ち合わせ場所に向かうと、ベンチにどっかりと座った友人が目に留まった。チェックの高そうなスニーカーが揺れる。

「華子ー、ごめん!待った?」

「おそーい!あんたの婚活のための服買いにいくんでしょう?」

「婚活とか大声で言わないでよー!」

女の非難の声が楽しげに響いた。

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雨色のパンプス 三枝 早苗 @aono_halu

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